質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第一四五号

岸田内閣による議会制民主主義の否定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年六月二十一日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   岸田内閣による議会制民主主義の否定に関する質問主意書

 岸田総理は本年一月二十三日の参議院本会議における施政方針演説において、「政治とは、慎重な議論と検討を積み重ね、その上に決断をし、その決断について、国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す、そうした営みです。私は、多くの皆様の御協力の下、様々な議論を通じて、慎重の上にも慎重を期して検討をし、それに基づいて決断した政府の方針や、決断を形にした予算案・法律案について、この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります。検討も決断も、そして議論も、全て重要であり必要です。それらに等しく全力で取り組むことで、信頼と共感の政治を本年も進めてまいります。」と述べ、また、同年同月二十四日の参議院本会議において国家安全保障戦略等のいわゆる安保三文書の策定との関係で、「議院内閣制の下では政権与党が国政を預かっており、まずは政府・与党において、一年以上にわたり丁寧なプロセスを経て方針を決定いたしました。この進め方に問題があったとは考えておりません。」と述べている。

 これについて、以下、質問する。

一 内閣法第一条第一項においては「内閣は、国民主権の理念にのつとり、職権を行う」と定め、第二項においては「内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う」と定めているが、当時の内閣法制局の審査資料やその後の政府答弁によれば、この「国民主権の理念にのつとり、職権を行う」とは「個々具体の職権の行使についても、これが国民主権の理念にのっとって行われるべきという、規範的意味を持たせようとするもの」とされ、また、「国会に対し連帯して責任を負う」とは「行政権の行使に対する国会の民主的統制の重要性を強調することを意図したもの」であり、「全国民を代表する議員からなる国会」とは「主権者である国民の行政に対するコントロールの趣旨をより強調するためのもの」であり、この「議員」には当然に「野党議員も含まれる」との趣旨とされているが、岸田政権もそうした理解にあるかについて、これらの内閣法第一条の文言を引用しながらその趣旨について説明されたい。

二 「政治とは、慎重な議論と検討を積み重ね、その上に決断をし、その決断について、国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す、そうした営みです。」にある「政治」とは憲法の定める議院内閣制、すなわち、議会制民主主義における政治を意味するのか、その趣旨を明らかにされたい。また、「決断」とは政府による決断を意味するのか、具体的に説明されたい。

三 「私は、多くの皆様の御協力の下、様々な議論を通じて、慎重の上にも慎重を期して検討をし、それに基づいて決断した政府の方針や、決断を形にした予算案・法律案について、この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります。」について、内閣法第一条の「内閣は、国民主権の理念にのつとり、職権を行う」及び「内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う」の規定は、政府における当該「様々な議論」及び「検討」の過程においても適用されるのか。あるいは、当該議論や検討という内閣の職権の行使や行政権の行使については内閣法第一条は適用されないのか。

四 「政治とは、慎重な議論と検討を積み重ね、その上に決断をし、その決断について、国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す、そうした営みです。」について、政府は、国会議員の質問について、「国会での審議の場における国会議員による質問は、憲法が採用している議院内閣制の下での国会による行政府に対する監督権能の表れであると認識している」と答弁しているが、この国会議員の「質問」は政府による当該「議論と検討」に関して行われる質問も含まれると理解して良いか、あるいは、政府の当該「議論と検討」に関する国会議員の質問は国会による行政府に対する当該監督機能には当たらないと考えているのか、政府の見解を具体的に示されたい。

 また、同様に、「私は、多くの皆様の御協力の下、様々な議論を通じて、慎重の上にも慎重を期して検討をし、それに基づいて決断した政府の方針や、決断を形にした予算案・法律案について、この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります。」における当該「様々な議論」及び「検討」に関して行われる国会議員の質問は、国会による行政府に対する当該監督機能に当たると考えているのかどうかについて、政府の見解を具体的に示されたい。

五 岸田総理及び岸田内閣は、重要な政府の方針や予算案や法律案について、その政府の検討状況等について国会における国会議員の質問を受けることなく政府において決断し決定しても、憲法や内閣法第一条が定める国会の行政府への監督機能との関係で何ら問題がないと考えているのか。要するに、野党議員による国会質問を十分に受けずに政府だけで重要な政府方針や予算案や法律案の決定を行っても憲法や内閣法が定める議院内閣制の趣旨に反しないと考えているのか。

六 一般論として、憲法や内閣法の定める議院内閣制の趣旨に照らし、政府は、重要な政府の方針や予算案や法律案を決定する前に、可能な限り、野党議員を含めた国会による審議、すなわち、国会での質問を受けるべきでないのか。

七 岸田総理の施政方針演説における、政府の「検討」も「決断」も政府における「議論」も「国会」の場での「議論」も「全て重要かつ必要」であり、それらに「等しく全力で取り組む」との見解や、いわゆる安保三文書の閣議決定に関する「議院内閣制の下では政権与党が国政を預かっており、まずは政府・与党において、一年以上にわたり丁寧なプロセスを経て方針を決定いたしました。この進め方に問題があったとは考えておりません。」との見解は、憲法の定める国民主権及び議院内閣制の趣旨に反し、その具体化である内閣法第一条に反する見解であり、岸田総理のこうした発言は、我が国の議会制民主主義である憲法の定める議院内閣制の本質を全否定する議会政治における大事件たる暴言ではないのか。

 また、こうした憲法が定める議会制民主主義のあり方に根本から反する政治のあり方を「信頼と共感の政治」とするのは、岸田総理は民主制を理解する能力も無い歴史的ないわば暗君であるとしか言いようがないのではないか、施政方針演説等の当該「政治」に関する発言を撤回するべきではないかについて、岸田総理及び岸田内閣の見解を示されたい。

八 いわゆる反撃能力の容認は、憲法九条の解釈の変更であるのか、あるいは、いわゆる敵基地攻撃能力の保有に関する憲法九条の解釈の基本的な論理は変えずにその論理に対する当てはめの帰結なのかについて、当該論理に係る国会答弁等を示しながら説明されたい。

九 いわゆる安保三文書の防衛力整備計画に係る当該計画期間の事業費の総額約四十三・五兆円の内容について、政府は計百四十六の事業名とそれぞれの数千億円から数兆円規模の予算の数字しか国会に提出していないが(参議院での追及により数件の事業の極めて大雑把な内訳を示したのみ)、こうした政府の国会対応は財政民主主義やシビリアンコントロールの原則に反するのではないか。

十 前記八及び九について、いわゆる反撃能力の保有に関する憲法規範への適合性や当該当てはめの相当性や当該事業費の検討の状況について、事前に国会で中身のある説明を行わずに閣議決定でこれらを決定し、その後に国会審議をすればいいという政府の姿勢は憲法の定める議院内閣制の下の国会による行政府の監督のあり方に照らして問題であり、国民主権及び議院内閣制の趣旨に反するものではないか。

  右質問する。