質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第一四三号

被収容者の処遇改善に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年六月二十一日

牧山 ひろえ


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   被収容者の処遇改善に関する質問主意書

一 ウィシュマ・サンダマリさん死亡事案に関する調査報告書では、二〇二一年二月二十二日に内部で医師の診療を受けたが、あくまで栄養剤処方のための診療とのことだった。その後もウィシュマさんは、病院に連れて行って欲しい、点滴をして欲しいと担当職員らに何度も訴え続けたが、結局、亡くなる二日前に外部の精神科を受診しただけだった。あれだけ具合の悪そうなウィシュマさんが病院に連れて行って欲しいと訴え続けていたにもかかわらず、なぜ病院に連れて行かなかったのか、政府の見解を明らかにされたい。

二 第二百十一回国会において成立した改正出入国管理及び難民認定法では、新たに被収容者の処遇に関する章が新設された。第五十五条の三十七では、保健衛生及び医療の原則として、「入国者収容所等においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び入国者収容所等内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。」との規定がある。これをウィシュマさんに関して当てはめれば、被収容者の心身の状況を把握したとはいえず、また社会一般の医療の水準に照らし適切な医療上の措置を講じたともいえない。ウィシュマさんへの対応は、この原則を満たしていなかったと考える。そもそも、改正法の被収容者の処遇に関する規定は、今まで被収容者処遇規則等で定められていたものを法律上に規定しただけで、廃案となった前回の法律案から内容は変わっていない。これではウィシュマさんを死に至らしめた入管収容施設における被収容者の処遇が改善するとは考えられないが、この点についての政府の見解を示されたい。

三 今回の改正法では、診療については新たに第五十五条の四十二と第五十五条の四十三の二条を設けることになった。第五十五条の四十二では、入国者収容所長等は、被収容者が負傷・疾病又はそれらの疑いがあるときなどの場合、速やかに医師による診療等の医療上の措置を採ることとされた。また、第五十五条の四十三は、自己の費用で医師等を指名して診療を受けることができるとする規定だが、入国者収容所長等が医療上適当であると認めるときに限られるとされた。つまり、入管収容施設の被収容者が医師の診療を迅速に受けられるかどうかは、入国者収容所長等の判断にかかっており、被収容者が希望するとおりに診療を受けることができる仕組みにはなっていない。これでは、ウィシュマさんのように明らかに体調が悪く医師の診療を求めていても、迅速に医師の診療が認められる保証がないため、ウィシュマさんのような事案の再発を防止できるとはとても思えない。ウィシュマさんの死を受けてなお、なぜ廃案となった法律案と同様の規定にしたのか、また、これでウィシュマさんのような事案が二度と起こらないようになるといえるのか、政府の見解を示されたい。

四 ウィシュマさん死亡事案の調査報告書には、二〇二一年一月二十九日、ウィシュマさんが病院に連れて行ってもらえない旨を訴える手紙を入国者収容所等視察委員会宛ての提案箱に投函したことが記載されている。しかし、ウィシュマさんの手紙が開封されたのは、投函から一か月以上後の三月八日であった。これはウィシュマさんが亡くなった二日後である。このような入国者収容所等視察委員会の在り方が問われてしかるべき事実関係であるにもかかわらず、今回の改正内容では、入国者収容所等視察委員会の規定も前回の法案と変わっていない。政府は、今回の事実関係において、視察委員会は十分その機能を果たしていたという認識か。

  右質問する。