質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第一三二号

難民認定基準に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年六月二十日

牧山 ひろえ


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   難民認定基準に関する質問主意書

一 灰色の利益について

 出入国在留管理庁は、難民認定制度の運用の一層の適正化に向けた取組の一環として、難民該当性を判断する際に考慮すべきポイントを整理するなどした「難民該当性判断の手引」を策定した。

 その一方で、国際標準とも言うべき国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)作成の「難民認定基準ハンドブック」には「審査官による調査が必ずしも実を結ぶとは限らず、証拠によって裏付けられない供述も存在する。このような場合において、申請者の供述が信憑性を有すると思われるときは、当該事実が存在しないとする十分な理由がない限り、申請者が供述する事実は存在するものとして扱われるべきである。(「疑わしきは申請者の利益に」(灰色の利益))」という記述があるが、「難民該当性判断の手引」では、このいわゆる「灰色の利益」については明確な記載がない。

 「灰色の利益」は難民が置かれた立場に寄り添った、重要な原則であり、「疑わしきは申請者の利益に」という姿勢で審査を行うかどうかは、難民認定の「厳しさ」を左右する重要な点の一つだとされる。

 二〇二三年四月二十五日の衆議院法務委員会における出入国在留管理庁次長の答弁で、「灰色の利益」基準の採用を求めた委員質疑に対し、「事実認定に係る留意事項については、難民調査官に対する研修を通じてその周知を行うなど、的確な事実認定に資する取組を進めており、今後とも、審査の質の更なる向上に努めてまいりたい」とのみ答弁して、直接的に答弁をしなかった。

1 前記「事実認定の留意事項」には灰色の利益は含まれるのか。

2 また、事実認定の基準として、「灰色の利益」を肯定しているのか。あくまで「こういう考え方がある」と紹介したのみか。

3 前記の出入国在留管理庁次長答弁の中で言及されたのは、難民調査官に対する研修を通じた周知等であるが、参与員への対応はどのようになっているか。

二 個別把握説について

 難民認定基準として、出入国在留管理庁は「個別把握説」を採用しているとの批判が以前からなされている。「個別把握説」とは、政府などから「個人的」に把握され、狙われていなければ難民ではないという日本独自の解釈である。政府が誰を抑圧・監視対象としているかを正確に認識することは現実には極めて難しいという側面を軽視しており、その結果認定されるべき人の範囲を極端に狭めていると批判される。それだけではなく、個別把握説ではその人個人に過去に生じた事由だけが判断要素となるため、実際に当局からの接触があったか等で判断されてしまう可能性がある。つまり、過去と同様のリスクしか図り得ない。個別把握説を捨て、一見関係なくとも、その個々の事案が抱えている社会的、文化的な背景を合わせて読み解くと、過去ばかりではなく未来、すなわち今後起こりうる人権侵害を防ぐための判断が行えるのではないか。

 ただし、法務省・出入国在留管理庁は難民認定について、法務委員会での質疑でも「個別把握説」の採用を明確に否定している。

 過去の審査例では明らかに個別把握説に立っている判断もあり、実態にそぐわないと思われるが、難民認定基準として個別把握説を否定していることは、どのように難民調査官や参与員に周知しているか。

  右質問する。