質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第一三〇号

東京日日新聞(現毎日新聞)大正十二年九月三日の報道内容と関東大震災時に発生した殺傷事件との関連に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年六月二十日

浜田 聡


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   東京日日新聞(現毎日新聞)大正十二年九月三日の報道内容と関東大震災時に発生した殺傷事件との関連に関する質問主意書

 一九二三(大正十二)年九月一日に発生した関東大震災は、首都圏に死者十万人、住居焼失者二百万人を超える日本の地震災害史上最大の被害をもたらした。地震によって発生した火災が被害を拡大し、広い範囲での交通機関、上水道、電力、通信、橋梁など社会資本の機能喪失が人々の生活を脅かし、流言による殺傷事件も生じるなど、今なお関東大震災以外に参照すべき事例がない事象も多く、災害教訓として重要である。

 流言による殺傷事件の発生に関して、当時の新聞報道が関わったと結論付ける資料として「関東大震災下の「朝鮮人」報道と論調(下)」(大畑裕嗣/三上俊治、東京大学新聞研究所紀要第三十六号、一九八七年)があり、同資料には次のような記載がある。

 「震災時の「朝鮮人」報道が果たした第一の役割は、流言の伝播を促進し、全国に拡大するのに大きな影響を及ぼしたということだろう。これは、「朝鮮人による暴行」の流言を大々的に報道したことによって、また同時に、流言が事実無根とわかった後でもこれを積極的に打ち消すような情報をほとんど流さなかったことによって生じたものである。

 九月一日から二日までの段階では、流言がほとんどすべての人びとによって信じられたが、三日になると警察当局では流言の大部分が事実無根であるとの認識を得て、流言の取締りに乗りだした。しかし、「東京日日」などの在京紙や地方紙の大部分は、内容分析でみたように、「朝鮮人暴動」流言を大々的に報道し続けたのである。その結果、流言は沈静化するどころか、全国にまで拡大することになったのである。すでに、三日朝内務省警保局長名で公式に伝えられた「朝鮮人による暴行」という情報は、新聞報道によって補強され、国民に「朝鮮人」流言を容易に信じ込ませる作用を果たしたと考えられる。

 さらに、流言とわかった後も、軍・警察・政府当局は「朝鮮人による暴行」を全面的に否定せず、一部の「不逞鮮人」の暴行があったかのような声明を繰り返したが、このような態度は新聞報道にもあらわれ、国民の間に朝鮮人への恐怖感を持続させる結果となったのである。

 こうした「流言」報道は、各地での朝鮮人虐殺を促進する役割を果たした。東京では、「東京日日」などが、震災直後から手刷りの号外を市内各所に張り出した。これらの号外のほとんどは、現在入手できないが、当初は「朝鮮人暴動」を事実であるかのように報道したものが多かったと思われる。三日付の「東京日日」の流言報道はその典型的なケースである。三日に至って官憲が一転して流言の拡大防止に乗り出したにもかかわらず、その内容的不徹底さとともに、権威ある新聞が流言報道を大々的に行ったことが、流言と虐殺の拡大に重要な役割を演じたことはほぼ疑いないところである。」

 これらを踏まえて以下質問する。

 一九二三(大正十二)年九月三日付の東京日日新聞による流言報道について政府の把握しているところを示されたい。もし現状把握していないのであれば、政府が同資料の収集やこれに関する調査をすることを提案するが、この提案に関する見解を示されたい。

 なお、本質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、転送から七日以内での答弁は求めない。国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内には答弁されたい。

  右質問する。