質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第一二一号

酪農・畜産の危機の打開に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年六月十九日

紙 智子


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   酪農・畜産の危機の打開に関する質問主意書

 酪農の経営危機が止まらない。中央酪農会議は二〇二三年四月二十八日に、本年三月時点で酪農家数(指定団体別出荷農家戸数)が前年度比で八百二十九戸、七%減の一万千十一戸であると公表し、帝国データバンクは、二〇二二年に倒産・休廃業した酪農家数は過去十年で最多になったと公表した。

 参議院農林水産委員会は二〇二三年六月一日に畜産・酪農に関する参考人質疑(以下「参考人質疑」という。)を行った。参考人からは、「酪農家の収入の基礎は乳代であり、三十円引き上げを求めている」との発言があったが、現時点では十円の値上げにとどまっている。このほかにも、「為替は不穏な動きを見せており、酪農危機の底を脱していない。耐えてきたが、いつになったら終わりがくるのか」、「酪農を支えるセーフティーネット機能が失われている」、「すでに一頭当たり十万円以上の赤字を被っている。同額の赤字補てんを求めたい」などの意見が出された。

 農林水産省の畜産局長は二〇二三年二月に「酪農家の皆様へ」と題する手紙を出し、三月には「畜産・酪農緊急対策パッケージ」を出したが、酪農の危機は底を脱しているとは言えないと考え、以下質問する。

一 二〇一七年六月八日(第百九十三回国会)の参議院農林水産委員会において「畜産経営の安定に関する法律」(以下「畜産経営安定法」という。)等の一部改正案が審議された。私が生乳の需給調整機能が壊れるのではないかと聞いたところ、山本有二農林水産大臣(当時)は、「畜産物の需給の安定等を通じた畜産経営の安定を図ることを明記をさせていただいております。(中略)生乳の需給の安定を通じた酪農経営の安定も図っていくということを政府の責任とするわけでございます」、「乳製品が無秩序に輸入されると、乳製品のみならず、牛乳を含めた生乳全体の国内需要に影響を及ぼすわけでございますので、バターや脱脂粉乳について国家貿易の対象とするなどして乳製品の無秩序な輸入は防止させていただく」と答弁した。あれから六年が経過し、酪農経営は安定するどころか、飼料価格など生産資材が高騰し、生産者は「酪農やばいです」と窮状を訴えている。現下の酪農経営、離農が進んでいる状況は、畜産経営安定法を改正したにもかかわらず、まさに歴史に残る「令和の大失政」と言われても仕方がない状況が続いている。この歴史的な酪農経営の危機に関する政府の認識、見解を明らかにされたい。

二 輸入粗飼料価格対策について

 昨年八月の「肥料、輸入粗飼料価格の高騰から生産者の経営を守るための支援に関する質問主意書」(第二百九回国会質問第一三号)に続き、同年十二月九日の参議院農林水産委員会でも、高騰する輸入乾牧草、稲わらなどの支援を求めた。しかし、いまだに支援策を示されていない。

 輸入粗飼料価格高騰対策ができない理由について答弁書(内閣参質二〇九第一三号)では、「粗飼料は、国内消費仕向量の百パーセントに相当する生産努力目標を示しているため、御指摘の「配合飼料価格高騰対策」と同様の支援は行っていない。(中略)国産粗飼料の生産及び利用拡大を推進していく考えである」としている。

 しかし、改正畜産経営安定法成立の前年(二〇一六年)の飼料自給率は二十七%(粗飼料七十八%、濃厚飼料十四%)であるが、直近の自給率は二十五%(粗飼料七十六%、濃厚飼料十三%)と、むしろ低下している。

1 粗飼料、濃厚飼料の作付け面積が増えない理由、利用が拡大しない理由を明らかにされたい。

2 飼料全体の自給率目標は二〇三〇年度で三十四%(粗飼料百%、濃厚飼料十五%)である。輸入乾牧草の価格高騰は生産者に何の責任もない。国産粗飼料に置き換えるまでの支援策を明らかにされたい。

三 「酪農経営改善緊急支援事業」は、乳量が少ない牛を淘汰すれば一頭二十万円を交付する事業(国が十五万円、生産者等の積立てが五万円上乗せ)である。

 「家族同様に育てている牛を淘汰することに国が助成するのはどうかと思う」、「牛を殺すために補助金を出すのか、生かすために補助金を出すのか、どちらがまともな政策なのか」など複雑な思いが関係者から出されている。参考人質疑で、「この制度の評判は悪い」としつつ、減産しても二十万円では元が取れない等との意見が出された。経営を維持するための要件緩和や支援策を明らかにされたい。

四 輸入乳製品について

1 参考人質疑において、生乳換算で四百六十九万トンになる輸入乳製品を需給の調整弁として活用しないと生産基盤が毀損しかねない、需給の安定があってこそ、生産者が安心して後継者を持てる経営環境になるなどの意見が相次いだ。輸入乳製品を調整弁として活用すべきではないか。政府の見解如何。

2 輸入乳製品の圧倒的多数がチーズである。輸入を国産に置き換えるため供給及び消費対策を明らかにされたい。

五 酪農経営は、輸入飼料(エサ)と為替相場に大きく影響される。

 世界で生産されている穀物は食用にも飼料にもエネルギーにも活用されている。新型コロナウイルス感染症とロシアのウクライナ侵略による穀物相場の高騰、物流の混乱によって食用穀物が入手できず飢餓に苦しむ国が増えている現状もある。SDGsは飢餓ゼロや地球温暖化防止対策を求めている。

 トウモロコシなど輸入穀物を国産に置き換えることは我が国の食料自給率を高め、輸入食品の輸送に伴うCO2の排出量を減らすことにつながる。

 輸入に依存した酪農、畜産経営を抜本的に見直すことが必要である。輸入から国産に切り替えるための実効性のある施策、目標を明らかにされたい。

  右質問する。