質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第一〇〇号

非営利型一般財団法人に対する課税の在り方に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年六月九日

村田 享子


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   非営利型一般財団法人に対する課税の在り方に関する再質問主意書

 公益法人制度改革により、公益財団法人及び一般財団法人の制度が設けられ、併せて税制上の取扱いが整備された。しかし、非営利型一般財団法人は、公益財団法人とは異なり利子・配当収入が所得税法上非課税とされず、一方で法人税が非課税であるため確定申告も認められないことから源泉徴収された所得税の還付も受けられず、不利益を被っている。

 このような非営利型一般財団法人に対する課税の在り方について、令和五年四月四日付けで質問主意書(第二百十一回国会質問第五〇号。以下「前回質問主意書」という。)を提出し、同月十四日付けで答弁書(内閣参質二一一第五〇号。以下「前回答弁書」という。)を受領したが、前回答弁書の内容に関して、改めて以下質問する。

一 前回質問主意書においては、「非収益事業」の収入及び所得に対する課税の在り方について、政府の考え方を質問しているにもかかわらず、前回答弁書においては、「三について」で収益事業から生じた所得以外の所得を「収益事業外所得」としているなど、「収益事業外」の所得若しくは収入に関しての課税の在り方について答弁があったと認識している。「非収益事業の所得」と「収益事業外所得」は、同一と考えてよいか。

二 前回質問主意書第三問では、「法人税は非課税であるならば、法人の課税所得がいくらであっても、また所得のもとになる法人の収入(利子・配当収入)がいくらであってもその所得や収入には課税されないという理解でよいか。」と質問したが、前回答弁書の「三について」では、「非収益事業」の「収入」に対する課税の在り方に触れることなく、公益法人等の「収益事業外所得」については、各事業年度の所得に対する法人税を課さないこととされていることから、「収益事業外所得」を「法人税の課税標準とし、これに税率を乗じて法人税額が算出されることはない」とのみ答弁されている。

 そもそも、「非収益事業」の収入に対する課税額を算定するためには、その収入についての課税対象とすべき所得額を認定する必要がある。しかし、この答弁では、利子・配当収入のような「収益事業外」の収入については、所得額を計算しないで、収入に直接課税していると解釈できるが、「収益事業外」の収入に関してのみ、所得を計算することを許さず、収入に直接課税される税制度であると解釈してよいか。

三 前回答弁書においては、「収益事業外」の収入と「非収益事業」の収入を完全に同義として答弁が組み立てられていると理解するが、その前提で言えば、「収益事業外」の収入に対する課税については、法人税であれ所得税であれ、所得を算定しているのか不明である。

 更に言えば、「当該収益事業外所得を法人税の課税標準とし、これに税率を乗じて法人税額が算出されることはない。」との回答を前提とすれば、「収益事業外」の収入については、その百パーセントを所得とみなし、法人税を課しているのと事実上同様と考えるのが妥当となる。非営利型一般財団法人に関しては、事実として、具体的には利子・配当収入の百パーセントが所得となる。

 このように、収入と所得が等しくなるのは、経費や損金がゼロの場合に限られるが、納税者に申告させずして、経費や損金がゼロと税務当局が一方的に決定することは問題があるのではないか。また、非営利型一般財団法人においてのみ、その利子・配当収入が百パーセント所得となる法的根拠はどこに存在するのかを示されたい。

四 実務上、利子・配当収入は所得税法の課税対象となり、収入全額に分離課税が行われて源泉徴収されるので、この段階では利子・配当収入は所得税法上の所得として取り扱われている。しかし、非営利型一般財団法人以外の全ての法人は、確定申告を行って、一年間(年度ごと)で得た益金から損金を減額して、課税標準額(課税対象となる所得額)を算定し、然るべき税率を乗じて法人税額が決定されている。この確定申告の仕組みでは、納付済みの税が、所得税法を根拠として源泉徴収されたものであっても、法人税額からの減額の対象となっている。

 様々な法人の法人税・所得税の課税の有無や確定申告の有無を整理してみると、非営利型一般財団法人のみが、収益事業外の収入である「利子・配当収入」について、その収入全額を所得として扱い、課税する結果となっていること、また、他の法人が行っているように年度末に確定申告によって然るべき法人所得を算定した上で、然るべき法人税率を乗じて課税を行うことが認められないことなどが明らかになっている。非営利型一般財団法人のみが、このような税法上の不公平な取扱いを受けることとなる法的根拠及び税法理念上の根拠を示されたい。

五 前回質問主意書第六問では、仮に、非営利型一般財団法人が所有する有価証券を売却し損失が出た場合、現行制度であれば、非営利型一般財団法人は、利子・配当収入に課税されているにもかかわらず、損失分を収入から減じて課税所得を申告する方法がなく、収入への課税で完結してしまうことを指摘し、「このような状況では、課税の公平性を欠くばかりか、合理性もないと考えるが、政府の見解を示されたい。」と質問したが、これに対して前回答弁書の「六について」では、「非営利型一般財団法人の収益事業外所得については、法人税を課さないこととなり、課税所得の計算上、関連する益金も損金も計上されない。このような仕組みは、「課税の公平性を欠くばかりか、合理性もない」ものではない」との答弁であった。

 非営利型一般財団法人の収益事業外所得について法人税が課されなくても、本来法人税が課税されない利子・配当収入という収益事業外の収入に所得税が課されている前提での、課税の公平性を欠くばかりか、合理性もないのではないかという質問である。この点について、再度、その前提での政府の見解を示されたい。

六 前回答弁書の「四の2について」では、「内国法人が支払を受ける利子、配当等については、法人税と所得税の調整を行うため、確定申告の際に当該利子及び配当等に係る所得税額を法人税額から控除するが、非営利型一般財団法人の収益事業外所得については、同様の調整を行う必要がないことから、控除は行わないこととされている」という答弁もあった。この答弁は、現行税制の説明を述べているだけで、理由を一切述べていない。

 前回答弁書の「六について」で、「非営利型一般財団法人の収益事業外所得については、法人税を課さないこととなり、課税所得の計算上、関連する益金も損金も計上されない。」と言いながら、前記二で述べたとおり、実際には収益事業外所得を導き出す収益事業外の収入が益金として計上された前提で、課税されているのと事実上同様である。有価証券の売却損など収益事業外で生じた損失について、法人税法上の損金として計上できるようにするべきではないか。所得税法・法人税法二法の整合性の観点も含めた上でどう取り扱うのかを示されたい。

七 前回答弁書の「四の2について」では、「非営利型一般財団法人の収益事業外所得については、同様の調整を行う必要がないことから、控除は行わないこととされている」と述べている。しかし、法人税も利子・配当収入に対する所得税も課税されない公益財団法人には調整の必要はないが、利子・配当収入に対する所得税が課税される非営利型一般財団法人には調整の必要があるのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

八 前回答弁書の「三について」には「収益事業外所得又は当該収益事業外所得に係る御指摘の「収入」の多寡にかかわらず、当該収益事業外所得を法人税の課税標準とし、これに税率を乗じて法人税額が算出されることはない。」とある。これは、法人税が非課税であると同時に所得税も課されない公益財団法人にとっては、法人税と所得税の調整をする必要がなく問題が生じない。一方、非営利型一般財団法人の場合、「法人税額が算出されることはない」だけでは済まない。既に徴収された所得税がある場合には、決算という行為により年度末に確定した所得に対する法人税額を確定した上で、法人税がゼロ円であれば、先に納めた所得税との調整を行い、還付してもらいたいと考えるのは当然である。しかし、実際には確定申告できる権利を奪われ、結果、税の公平性に反する事態となっている。

 この点について、前回答弁書の「二について」で「内国法人については、法人税法第六十八条第一項において、法人税額から利子及び配当等に係る所得税額を控除することとされているが、これは、法人税と所得税の調整を行うためである。」と答弁しているが、この調整を行う手段としての確定申告が非営利型一般財団法人にはなぜ許されていないのか理由を説明願いたい。

九 そもそも非営利型一般財団法人が公益目的事業に充てる利子・配当収入(運用益)は、法人税法上、収益事業外所得として非課税とされている。このことは、前回答弁書の「三について」においても、「当該収益事業外所得を法人税の課税標準とし、これに税率を乗じて法人税額が算出されることはない」旨が確認されている。それにもかかわらず、法人税法上は非課税となる利子・配当収入(運用益)に関し、所得税法第百八十一条及び第百八十二条は、法人・個人を問わず源泉徴収義務者及び税率を規定し、利子所得(所得税法第二十三条)・配当所得(所得税法第二十四条)として所得税が源泉徴収されている。

 このように、法人税法上、収益事業外所得として非課税とされている利子所得・配当所得に対し所得税を源泉徴収するのであれば、法人税法第六十八条第一項に従い、法人税と所得税の調整として、ゼロ円の法人税額から利子及び配当等に係る所得税額を控除し、その金額がマイナスとなれば還付請求を認めるべきではないか。前回答弁書の「二について」においても「内国法人については、法人税法第六十八条第一項において、法人税額から利子及び配当等に係る所得税額を控除することとされているが、これは、法人税と所得税の調整を行うためである」旨が述べられている。これに反して、収益事業外所得である利子・配当収入(運用益)について、あくまでも法人税法第六十八条第一項の適用を認めないと解釈するのであれば、その理由を明確にされたい。

十 前回質問主意書第四問の1において、利子・配当収入を得た場合の所得税法上の取扱いに関し、「非営利型一般財団法人については、公益財団法人同様に非課税とされるべきと考えるが、なぜ、公益財団法人と非営利型一般財団法人の間でこのような取扱いの違いを設けているのか。」と質問したところ、前回答弁書の「四の1について」では、「公益法人(中略)が行う公益目的事業に係る活動が果たす役割の重要性に鑑み、当該活動を促進しつつ適正な課税の確保を図る観点から、公益財団法人については、所得税法第十一条第一項の規定により、支払を受ける利子、配当等には所得税を課さないこととされている」との答弁があった。それでは、非営利型一般財団法人は、公益目的事業に係る活動が果たす役割の重要性に関して、公益財団法人とどういう点で相違しており、所得税を課す対象とするのかを説明されたい。

十一 旧民法第三十四条上の公益法人であり、七十年にわたり公益事業を行ってきた財団法人が、平成二十年度の公益法人制度改革で、公益財団法人の条件を具備していたにもかかわらず、一般財団法人を選択した事例を承知している。その理由は、「収支相償の原則」など公益財団法人の認定基準が永続的な公益事業活動を不可能にするような内容だったためである。その収支相償の原則については、現在の公益財団法人からも撤廃の意見が出ており、政府の「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」において見直しの議論が行われてきた。

 そのような民間の永続的な公益事業を阻害するような仕組みを認定条件とされていたために、公益財団法人と同様の要件を具備しているにもかかわらず公益財団法人を選択できずに一般財団法人の選択を余儀なくされ、非営利型の要件を満たしているにもかかわらず所得税を課税されて還付を受けることもできなくなっている。

 平成二十年の公益法人制度改革に合わせて税制改正も行われ、それによって非営利型一般財団法人が不利益を被ることとなったが、現在議論されている公益法人制度改革の見直しに合わせて、非営利型一般財団法人に対する税制も見直す意向はないのか。

十二 現行の公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益認定法」という。)の下では、公益財団法人の財産的基礎を維持することは不可能である。財産的基礎の毀損を法的に強制する収支相償原則(公益認定法第五条第六号、第十四条)及び公益目的事業財産の収益権の剥奪(公益認定法第十八条)を撤廃しなければ、我が国の全ての公益財団法人がいずれ存続不可能となるのは避けられない。

 公益財団法人に限らず、あらゆる法人の財産的基礎は「資本(又は正味財産)」にある。資本には、その調達源泉の違いから「拠出資本」と「稼得資本」の二種類が存在する。しかし、収支相償原則と公益目的事業財産の収益権の剥奪は、稼得資本の増加を許さず、拠出資本の減少をもたらす使用・処分のみを法的に強制している。

 例えば、米国の非営利組織の場合、寄附された財産の元本部分は永久に維持・投資し、その投資収益のみを特定の事業に充てる制限も可能とされている。しかし、二十年以上もゼロ金利政策が続く我が国では、法的にも稼得資本の増加が許されない中、拠出資本を減少させるほか、公益財団法人に事業継続の道は存在しない。

 そもそも公益認定法第二条第四号は、公益目的事業について「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」と定義する。これは、あくまでも公益目的事業の支出対象の定義であって、公益目的事業の財源(収入)を制限する論理的な理由にはならない。

 収支相償原則と公益目的事業財産の収益権の剥奪は、所有権に不可欠な構成要素である収益権(民法第二百六条)を著しく制限するものとして、財産権の保障(憲法第二十九条)にも抵触するおそれがある。収支相償原則について付言すると、その計算方法に会計上の発生主義と現金主義が混在する極めて不合理なものとなっている。この点について、政府の見解を示されたい。

  右質問する。