質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第九五号

PIF専門家パネルメンバーからの福島第一原発汚染水・ALPS処理水に関する指摘及び海洋汚染の国際法上の定義等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年六月七日

山本 太郎


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   PIF専門家パネルメンバーからの福島第一原発汚染水・ALPS処理水に関する指摘及び海洋汚染の国際法上の定義等に関する質問主意書

一 PIF専門家パネルメンバーからの福島第一原発汚染水・ALPS処理水に関する指摘について

 本年二月に太平洋諸国の首脳会議である太平洋諸島フォーラム(PIF)の代表団が訪日し、福島第一原子力発電所の現場視察が行われた。PIFの専門家パネルメンバーはこの訪日に関連して、二月六日にファクトシートを公表し、東京電力の汚染水評価・ALPS処理水放出計画の問題点を以下のように指摘した。

(1) データの質と量が不十分であり、必要な構成要素を含んでおらず不完全で、一貫性もない。海への放出の必要性を判断するに足りない。

(2) 貯水タンクの複雑さと巨大さという特性を考えると、これまでに行われたALPS処理水テスト量では、適切で十分な結果が得られない。

(3) 貯水タンク内のごくわずかな一部分がサンプルとして抽出されている。また、ほとんどのケースで、共有されているデータ内で抽出されているのが六十四の全放射性核種中たった九種のみである。

(4) 東京電力による測定プロトコル/手順は統計的に欠陥のあるものであり、偏りがみられる。

(5) 生態学的影響や生物濃縮に関する考察が著しく欠けており、予測されるリスクについての信頼に足る根拠が見当たらない。

 (出所:二〇二三年PACIFIC ISLAND FORUM公表ファクトシート日本語版「太平洋を安全で核のない青い海に保つためのフォーラムの関与について」より)

1 このファクトシートで示された前記の指摘それぞれについて、本年二月のPIF代表団訪問中あるいは訪日終了後、日本政府及び東京電力からどのように回答したか。回答内容と回答時期、その回答に対するPIF専門家パネルメンバーからの返答内容を示されたい。

2 同代表団の訪日中及び訪日終了以降、前記ファクトシートに示された指摘以外でPIF専門家パネルから示された追加の指摘・質問の内容が分かる資料を示されたい。また、それら追加の指摘・質問に対して日本政府及び東京電力はどのように回答したか。

二 海洋汚染の国際法上の定義とALPS処理水について

 日本が一九九六年に批准した国連海洋法条約第一条1(4)では、「「海洋環境の汚染」とは、人間による海洋環境(三角江を含む。)への物質又はエネルギーの直接的又は間接的な導入であって、生物資源及び海洋生物に対する害、人の健康に対する危険、海洋活動(漁獲及びその他の適法な海洋の利用を含む。)に対する障害、海水の水質を利用に適さなくすること並びに快適性の減殺のような有害な結果をもたらし又はもたらすおそれのあるものをいう」とされている(外務省ウェブサイトに掲載された同条約和英対訳(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H8-1059_2.pdf)より引用)。

 有害な結果や障害をもたらしたと証明されたものだけではなく、「もたらすおそれのあるもの」も「海洋環境の汚染」と認めるのが国際海洋法の常識で、日本政府も受け入れている定義である。

1 ALPS処理水の海洋放出は国連海洋法条約第一条に規定された「海洋環境の汚染」に該当するか。該当しない場合、その根拠を示されたい。

2 ALPS処理水の海洋放出は「漁獲などの活動に対する障害をもたらすおそれのあるもの」と考えるか。そう考えないとする場合、その理由を示されたい。

3 中国とロシアが共同声明でALPS処理水の海洋放出に対する懸念を表明したことを受け、西村経済産業大臣は本年三月二十四日の記者会見において、「ALPS処理水という言い方を私どもしているのですけれども、放射能汚染水という言い方などをしておりますので、事実関係に誤認もある」と述べた。

 ALPS処理水の海洋放出は「漁獲などの活動に対する障害をもたらすおそれのあるもの」である以上、国連海洋法条約上の「海洋環境の汚染」に該当するのではないか。法的には「海洋汚染を引き起こす」汚染水と呼ぶことに事実関係上の誤認はないと考えるが、これについて政府の見解を示されたい。

  右質問する。