質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第六九号

こども家庭庁が発表した養育費の数値目標に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年五月九日

嘉田 由紀子


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   こども家庭庁が発表した養育費の数値目標に関する質問主意書

 小倉將信こども政策担当大臣は本年四月二十五日の記者会見で、離婚などによる子どもの養育費に関し、養育費の取決めをしている母子世帯を二〇三一年に七十%に、養育費を受け取っている母子世帯の割合を二〇三一年に四十%にするとの政府目標を発表した。

一 法務省法制審議会(以下「法制審」という。)の家族法制部会で、離婚後の子の養育についての審議が行われており、その中には、養育費についての審議も含まれている。今回、こども政策担当大臣が養育費についての政府目標を発表したことについて、法務大臣は事前に協議を受け、了承していたのか。

二 仮に法務大臣がこども政策担当大臣から協議を受け、了承していたのだとすれば、国会軽視であり、また、国民軽視だと言える。離婚後の養育の在り方について、法制審は、法務大臣の諮問を受け家族法制部会を設置し、二年もかけて調査審議してきた。

 その過程で、パブリックコメントを行い、八千件ものコメントが国民から集まった。それを全て無視し、政府目標を勝手に決められるのであれば、パブリックコメントも不要であり、そもそも法制審の家族法制部会の審議なども不要だったことになる。

 法務大臣が、法制審に諮問をしつつ、その裏で、こども家庭庁の担当であるこども政策担当大臣と勝手に話を進めていたのだとすれば、これは国民からの信頼を大きく損なう行為である。政府は、法務大臣の行為について、国民に謝罪をするとともに、法務大臣を罷免すべきではないか。

 もし、法務大臣と協議せずにこども政策担当大臣が勝手に発表したのであれば、こども政策担当大臣は、明らかに法務大臣の権限を侵害したことになる。

 法務大臣は、こども政策担当大臣に対し、厳重に抗議するとともに、政府は、こども政策担当大臣を罷免すべきではないか。政府の見解を示されたい。

三 こども政策担当大臣の発表は、手続的に問題があるだけでなく、内容からいっても、到底受け入れられるものではない。こども政策担当大臣の発表した政府目標は、共同親権制・共同監護制を導入しない、あるいは、導入したとしても、実効性のないものとするとの前提で試算したものとしか考えられない。

 なぜならば、共同親権制・共同監護制に移行するための民法改正をし、共同養育計画作成を義務化すれば、養育費の支払いの実効性は大幅に高まるからである。例えば、昨年十二月、法制審の家族法制部会に参考人として招聘された北村晴男弁護士が部会に提出した条文案をもとに民法改正案を作成し、それが国会で成立すれば、離婚時に共同養育計画の作成が義務付けられることになる。つまり、法務省が次期臨時会に政府案を提出し、二〇二四年四月に施行されれば、二〇三一年を待たず、二〇二四年四月から、離婚後の子どもについては、確実に養育費の取決めがなされることになる。また、当該条文案は、共同養育計画を公正証書とすることを義務付けるよう提案をしているので、不払いがあれば、申立てにより、裁判所により強制執行がなされることになり、来年の四月から、離婚後において確実に養育費が支払われることになる。

 今回のこども政策担当大臣の発表は、法制審における議論を全く無視したものであり、その内容は、明らかに「子の利益」に反するものである。例えば、現在ひとり親家庭の子ども達のうち、現在二歳の子どもは、十歳になる八年後の二〇三一年までに養育費がもらえるようになる割合は四割程度で構わない、六割の子どもは養育費をもらえなくても仕方がない、というのがこども家庭庁の考え方だということになる。

 OECDの調査によると、我が国のひとり親世帯の貧困率は、三十五か国中三十四位。その要因として、養育費が十分に支払われていないことがある。そして、養育費が支払われない背景には、民法上の単独親権制度があると指摘されている。

1 子どもを貧困状態から救うためにも、親権制度の在り方を含め、養育費が支払われるための法制度を整備する必要があると考え、法務大臣は、離婚後の子の養育についての審議を行うよう諮問を行ったのだと考えるが、政府の見解を示されたい。

2 政府は、八年後に、親が離婚した子どもたちの六割もが養育費をもらえない状態でも良いと考えるか。それが政府目標と考えてよいのか。

3 もし、それを良しとしないのであれば、政府は、こども政策担当大臣に対し「現在、法務省において、養育費の在り方を含め、法制度の見直しを検討しているのであるから、政府目標を定めるのであれば、法制度の見直し後とすべきではないか」と指示すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

四 今回のこども政策担当大臣の発表は、非常に唐突であり、かつ、法務省における審議内容を全く踏まえていないだけでなく、思い付きの提案としか見えない内容であった。今回の発表を見て、こども政策担当大臣とこども家庭庁に対し不信感をもった国民も数多くいると考える。

 その不信感を払拭するためにも、養育費の取決めを二〇三一年に七十%とし、養育費の支払いを四十%とする算定の根拠を示すとともに、(組織外の者も含め)誰からの働きかけで提案することになったのか、また、こども家庭庁の中で、どのような決定プロセスを経て、大臣の記者会見に至ったのか、詳細に説明されたい。

  右質問する。