質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第五八号

電子版お薬手帳の利用者の権利強化や事業の安定性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年四月二十一日

田村 智子


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   電子版お薬手帳の利用者の権利強化や事業の安定性に関する質問主意書

 日本薬剤師会が提供する電子版お薬手帳アプリの「eお薬手帳」のデータ基盤を提供し、同アプリの開発、運営をおこなってきたNTTドコモが、オンライン診療を手がける他の事業者と提携するにあたって「eお薬手帳」の開発から撤退するとの報道(「日本薬剤師会 ドコモがサービス終了を突如宣告 電子版お薬手帳継続へ対応迫られる」日経コンピュータ二〇二二年十一月二十四日号)がなされている。

 電子版お薬手帳は、紙のお薬手帳と同様に特定の個人の調剤、医療機関や薬局からの服薬上の注意や服薬した際の体調の変化など、利用者と医療機関・薬局双方の連絡事項などの調剤情報、要指導医薬品や一般用医薬品の服用履歴など医薬品に関わる情報を蓄積し、診療や調剤、服薬指導に役立つ健康サービスとして提供されている。言うまでもなく調剤情報やそれ以外の一般薬等に関わる服薬情報は本人の体調や病歴の推定を可能とする機微な要配慮個人情報である。

 電子版お薬手帳は、公的医療保険において活用される機微な要配慮個人情報のデータベースであるにもかかわらず健康保険法など法律やそれに基づく命令によって規制を受けておらず、他の個人情報と同様に個人情報保護法の規制を受けるに留まる。そのため、データの削除や利用停止、自ら提供した個人データを本人が一定の形式で受け取り、他の事業者に移転することや可能ならば事業者間で直接データを移転させることは厚生労働省などのガイドラインで望ましいこととされているが、法令上、これらは権利として保障されていない。また、厚生労働省などのガイドラインではデータの第三者提供について関係者(利用者、医師、薬剤師等)の事前同意を必要としているが、これも法令上、利用者の権利として保障されているわけではない。さらに利用者の同意を得て取得し、電子版お薬手帳に蓄積されたデータを用いるプロファイリングについての規制はなく、事後的にプロファイリングの停止を求めることも法令上の権利として保障されていない。

 また、今回の報道で本人の健康情報という機微なデータを長期的に蓄積し、公的医療保険制度において活用される電子版お薬手帳アプリが企業の方針一つで廃止されうることや、その際、集積された情報の移転が保障されていないために利用者が不安定な立場に置かれるということも明らかになった。そもそも電子版お薬手帳の調剤、服薬情報は長期にわたって記録することが前提となっており、蓄積されたデータの削除、利用停止、プロファイリングの停止など蓄積されたデータに関する個人の権利強化とともに、事業を安定的・継続的に行えるか、要配慮個人情報を適正に取り扱う体制があるかなど電子版お薬手帳を提供する事業者自体の規制が必要である。

 この観点から以下質問する。

一 電子版お薬手帳については現在のところ個人情報保護法以外に法律やそれに基づく命令による規制は行われていない。すなわち任意の理由によるデータの削除や利用停止、プロファイリングの停止、データの移転などは権利として保障されていない。電子版お薬手帳に蓄積される調剤情報などは機微な要配慮個人情報であり公的医療保険制度で活用するのであれば、少なくともデータの削除や利用停止、プロファイリングの停止などが本人の権利として保障されるように規制をすべきではないか。

二 電子版お薬手帳は、長期的にサービスを提供することが求められる。仮に本人の権利が強化されたとしても事業の停廃止が自由に行われれば利用者やそのデータは不安定な状況に置かれかねずプライバシー保護の観点から問題である。少なくとも公的医療保険制度での利活用を進めるのであれば、事業者の財務状況、事業実施体制などに規制を設ける、簡単に事業を停廃止することができないよう規制を行うなどすべきではないか。

  右質問する。