質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第五五号

戦時下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題に関する第三回質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年四月十四日

神谷 宗幣


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   戦時下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題に関する第三回質問主意書

 令和五年三月十五日提出「戦時下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題に関する再質問主意書」(第二百十一回国会質問第三九号)(以下「本件再質問主意書」という。)に対して、令和五年三月二十八日付答弁書(内閣参質二一一第三九号)(以下「本件答弁書」という。)が送付された。

 韓国の財団が被告の日本企業に代わって賠償金を支払うとの韓国政府発表(以下「韓国の今次発表」という。)により、旧朝鮮半島出身の労働者(以下「応募工」という。)をめぐる韓国側の一方的な行為による不適切な状況が正常化に向かったことは評価に値する。

 現在の国際情勢、とりわけ、我が国周辺の安全保障環境は一層厳しさを増している。かかる緊迫した国際情勢にあって、我が国と隣国である韓国との連携はますます重要となっている。さらに、両国の枠を越えて、安全保障分野における日米韓の連携強化がますます重要になっている。

 その一方で、我が国に対する他国による理不尽な行為に対しては、我が国は一歩も引かない姿勢が肝要である。韓国との関係では、韓国の今次発表により、先の韓国大法院の判決に由来する本件応募工をめぐる状況に進展が見られたが、依然として日韓両国間には懸念と課題が残っている。

 両国間の懸案と課題のほんの一部を例示すれば、竹島の不法占拠、応募工に関わる求償権の取扱い、韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件、旭日旗(自衛隊旗)に対する非礼などが挙げられる。これらは、いずれも韓国側の一方的な行為から発生しているものである。

 これらの懸念や課題に関して、我が国としては、ただすべきはただす姿勢が重要である。逆に、両国関係の進展のためとして、日本側が「譲歩」と見られかねない態度を取ることは、長い目で見て日韓関係の発展のためにはならない。ここでいう「譲歩」とは、例えば、韓国側の理不尽な行為をただすことなく放置すること、あるいは、韓国側が不適切な状況をただすに際して我が国が他の分野で「見返り」的な措置をとること等である。我が国が「譲歩」することは、かえって韓国側が繰り返し根拠のない要求を繰り返す、または、理不尽な行為を行う要因となる。

 これまで、韓国国内の情勢の変化により、特に韓国政権の支持率が低下した際に、当該政権が反日傾向を強める事例を経験してきた。また、韓国政権の交代により、前政府の方針が転換される事例もあった。ちなみに、韓国の今次発表の後、日韓で政権支持率の変動に差があった。日本では政権支持率が上昇したが、韓国では同支持率が下落したと承知している。

 以上を踏まえれば、日韓両国間の連携を発展・強化すると同時に、韓国側の理不尽な行為には一寸の譲歩なく筋を通すのが最良の策である。連携と諸課題(特に歴史をめぐる案件)は別次元として扱うべきである。この観点からは、本件答弁書のとおり、韓国向けの安全保障に係る輸出管理の運用見直しと旧朝鮮半島出身労働者問題は別の議論であるとの考えと方針を評価したい。

 なお、日韓の対立を殊更に煽る向きもあり、両国間の諸懸案が両国の分断のために利用されるとの分析も耳にする。この観点からは、いたずらに両国の対立を煽る態度や印象を強めることは得策ではない。韓国内も一枚岩でなく、事実を直視して我が国と建設的な関係強化を志向する組織や個人がいる一方、事実の誤認や時には歪曲もあり反日的な姿勢をとる組織や個人がいると理解する。我が国としては、前者とは一層連携を強め、後者には筋の通った対応をとるべきである。

 したがって、我が国の対応として、(1)安全保障分野での両国の連携など積極面を重点的に推進しつつ、右連携に関する情報発信を行う、(2)歴史認識を含む諸懸案については筋を通しつつ、真実と日本の主張を韓国及び国際社会に対して発信する、といった積極的な広報政策も重要である。

 以上の視点を踏まえて質問する。

一 安全保障分野の連携

1 政府は、現下の我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に鑑み、特に、中国、北朝鮮、ロシアへの対応に当たり、安全保障分野で韓国といかに連携する方針か。

2 前記1と同様の観点から、日米韓の連携につき政府の方針を示されたい。

二 韓国側の一方的行為への対応

1 応募工をめぐる「求償権」に関して韓国の国内法の事項として放置するのは、前記のとおり韓国側の方針が覆された過去の例に鑑みて、我が国の対応として不足ではないか。求償権が行使されないこと、すなわち、本件が蒸し返されないことをいかに担保するか、政府の方針を示されたい。

 なお、本件答弁書の「二について」において、本件再質問主意書のいう「求償権」に係る記述の意味するところが必ずしも明らかではないとの答弁であったが、その意味するところは、韓国企業が日本企業に「代わって」支払うということであれば、韓国企業から本来支払う者として日本企業に当該支払い分の求償権を行使するとの趣旨であり、これを踏まえ、政府の方針を明確に示されたい。

2 本件答弁書の「三の2について」において、本件再質問主意書にある「この時期に殊更表明した」の意味するところが必ずしも明らかではないとの答弁であったが、その意味するところは、韓国の今次発表の時期に合わせて、日本政府が過去の方針(我が国の反省や謝罪を含む。)を明示的に確認するのは、旧朝鮮半島出身の労働者が強制労働であったので日本政府が改めて謝罪を確認したという間違ったイメージを惹起するのではないかとの趣旨であり、これを踏まえ、本件再質問主意書三の2につき改めて答弁されたい。その際、本件答弁書のいう「これまでも述べてきているとおり」の政府の立場の内容を具体的に記述されたい。

3 前記に挙げた韓国側の一方的行為により生じている各懸案と課題(竹島の不法占拠、韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件、旭日旗(自衛隊旗)に対する非礼など)に関して、ただすべきはただす観点から、今後政府はいかなる対応を行うかにつき見通しと方針を示されたい。

三 積極的な広報政策

1 「徴用工」の用語拡散への対応

 本件答弁書の「一の2について」において、「間違ったイメージ」の具体的に意味するところが明らかではないとの答弁であったが、その意味するところは、旧朝鮮半島出身労働者には徴用、募集によるものが含まれ(本件答弁書)、先の韓国大法院の裁判は、そのうち応募工に関する判決であったと理解しており、報道等において、専ら徴用工の用語を用いるのは事実関係を正確に反映しておらず、あたかも日本政府が朝鮮半島労働者を徴用して強制労働を強いたかのような間違ったイメージを惹起するのではないかとの趣旨であり、これを踏まえ、本件再質問主意書一の2に関して改めて答弁されたい。

2 日韓の建設的な連携関係を強化するためにも、両国間の課題や懸案に係る発信のみならず、両国の前向きな関係の進展についても今以上に積極的に広報すべきとの意見に関して、政府の見解と方針を示されたい。

  右質問する。