質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第五一号

日本政府の半導体政策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年四月七日

神谷 宗幣


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   日本政府の半導体政策に関する質問主意書

 日本の製造業は、二〇二一年度の名目GDP全体の二十%を占め、我が国の産業の根幹をなしているが、二〇二〇年末に顕在化した世界的な半導体不足は、現在までの二年以上、日本の製造業に深刻な打撃を与えている。例えば、自動車関連産業は、我が国のGDPの一割強を占める六十兆円規模で、五百五十二万人を雇用する基幹産業であるが、自動車メーカー各社は、国内外の生産拠点で大幅な減産と操業停止を余儀なくされている。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、SUBARUの五社の二〇二一年度実績は、計画に対し三百二十万台減少した。また、経済産業省生産動態統計調査によると、二〇二一年の生産金額も二〇一九年比で三・一兆円減少し、深刻な経済損失が発生している。同様に、家電製品やゲーム機も半導体不足による販売減少や生産停止で、二〇二二年度第一・四半期は電機メーカー五社が営業減益となった。設備需要が伸びているにもかかわらず、半導体不足により製品が出荷できず、機械・電機メーカーの受注残が六兆円との報道もある。

 慢性化する半導体不足による製造業の甚大な経済損失は、国力にも影響を与えており、製造業の半導体不足を解消することが、日本経済にとって喫緊の課題であることは論をまたない。こうした状況の中で、二〇二一年度から政府が決定した半導体政策のうち、特に特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(以下「5G促進法」という。)に基づく支援策について、日本国内の製造業を支援し、経済損失を解消する国家戦略として妥当なものであるかについて、以下質問する。

一 半導体政策の立案・決定プロセスについて

 我が党が、二〇二〇年末から現在まで続く車載半導体不足が日本のGDPにどのような影響を与えているかの具体的な試算について、経済産業省に問い合わせたところ、「車載用半導体の供給不足は近年の自動車生産の減産要因の一つと承知しておりますが、自動車メーカーの生産活動は様々な要因に影響されることから、車載用半導体の供給不足による影響を定量的にお答えすることは困難」との回答であった。

 一方、ジーナ・レモンド米商務長官は、二〇二二年三月十五日のブラウン大学の講演において、車載半導体不足の国力に与える影響について、「自動車産業は半導体不足により(二〇二一年は)計画よりおよそ八百万台減産し、その結果二千百億ドル(約二十七・五兆円)の減収となった。一部の推定によると、半導体不足がなければ、米国の年間GDP成長は今よりも一%高かっただろう。」と発言しており、米国政府は、自動車メーカーの生産活動が様々な要因に影響されていることを踏まえつつ、車載用半導体の供給不足がGDPに与える影響を定量的に分析し、米国内の半導体産業支援について戦略的に検討し、CHIPS法を含む半導体政策を立案し推進している。

 政府が国家的な課題解決に取り組む場合、現状を適切かつ定量的に把握・調査し、その原因を分析し、それに対する複数の解決策から最も効果的かつ適切な方法を検討し、政府の政策として実行していくことが必要である。

 民間では、例えば、第一生命経済研究所経済調査部が二〇二三年二月十三日付けのEconomic Trendsで「コロナ以降の自動車工業の減産により、波及効果も含めた付加価値は二〇二〇年以降(中略)、累計でGDPを▲八・六兆円押し下げてきた」と発表しており、半導体不足による自動車減産で日本経済への影響の定量的な分析が行われている。米国政府や我が国の民間シンクタンクが半導体供給不足の影響を数値で分析して示し、政策を戦略的に検討しているにもかかわらず、日本政府と経済産業省がそれをできないとしているのはなぜなのか示されたい。

二 5G促進法に基づく半導体政策の妥当性について

1 政府は、5G促進法に基づく支援のため、令和三年度補正予算において六千百七十億円を計上し、経済産業大臣から特定半導体生産施設整備等計画の認定を受けたTSMC(JASM)、キオクシア及びマイクロンメモリジャパンの三社に対し助成することとしている。この三社は多額の外国資本が入っている外資系企業である。

 5G促進法の目的として、第一条に「特定半導体が我が国の技術の向上により国内で安定的に生産されることが我が国における産業基盤を整備する上で重要である」と示されている。したがって、「国内で安定的に生産される」ことが目的であるならば、この法律による支援対象企業は、生産技術が保持でき、次世代技術開発が可能である国内企業でなければならない。三社は全て外資系企業であり、生産技術を日本国内に保持するという保証はないので、法律の目的を充足するためには、国内に工場があるのみならず、生産技術が我が国の国内企業で保持されることが必要であると考えるが、この点について政府の見解を示されたい。

2 特定半導体が、国内で安定的に生産し供給できることが特に求められるとすれば、5G促進法に基づき、日本政府から支援されたTSMC等は、将来的な特定半導体の逼迫の際にも、国内の半導体購入企業(電機メーカー、自動車部品メーカー等)に優先的に供給することが担保される仕組みが必要である。

 例えば、TSMCは、半導体メーカーから生産委託を請け負うファウンドリと呼ばれる製造受託企業である。ファウンドリは半導体購入企業を選べるわけではなく、生産された半導体の供給先は半導体メーカーの意向で決定されるため、TSMCに日本の税金四千七百六十億円を巨額投資しても、日本の国内企業に半導体が納入され、必要な局面で日本の産業を支えるか否かは非常に不透明である。

 二〇二二年六月十七日に認定されたTSMCの特定半導体生産施設整備等計画の概要によると、需給逼迫時の取組内容としては、「TSMCは、日本政府からの要請に応じ、日本の顧客向けの供給拡大について誠実に協議に応じる。」とあるが、誠実に協議に応じることのみが求められ、日本の国内産業向けの優先的な供給を義務付けているものではない。

 このことから、5G促進法に基づいてTSMC等の外資系ファウンドリに巨額投資を行っても、日本企業への優先的な供給に対し拘束力を持ったスキームにしなければ、日本の国内産業を救済し、経済安全保障に寄与することを保証するものではないと考えるが、この点について政府の見解を示されたい。

3 5G促進法第三条第一項では「我が国における特定高度情報通信技術活用システムの開発供給に関係する産業の国際競争力の強化(中略)に資する」ことを、また、同条第二項では「我が国における特定半導体の生産に関係する産業の発展に資する」ことを基本理念として謳っている。しかし、TSMC等の外資系企業に支援することは、競合する国内の半導体企業の競争力を阻害することになり、国内産業の国際競争力を強化し、特定半導体の生産に関係する産業の発展に資するとの基本理念と矛盾しており、5G促進法に違反する政策ではないかと考えるが、この点について政府の見解を示されたい。

4 現下、世界的に需給逼迫が指摘されている車載半導体の大半は、四十nmクラスのレガシー半導体であり、日本経済に重大な影響を与えている製造業の半導体不足の解消に最も必要な半導体である。

 昨年十月の参議院予算委員会での浜口誠議員の質疑及び衆議院経済産業委員会の関芳弘議員の質疑に対する答弁の中で、5G促進法に基づく半導体生産設備整備への支援が現状の半導体不足への対応策の一つとして答弁されているが、そうであるならば、5G促進法は、車載半導体の生産設備整備への支援にも活用できると考えられる。

 一方、四十nmクラスのレガシー半導体は、5G促進法で支援を予定しているTSMCの半導体(二十八―二十二nm及び十六―十二nm)とは異なる領域であるが、5G促進法施行令では特定半導体が百nm以下と定義されているので、支援対象となる。ただし、供給が不足している四十nmクラスの車載半導体の大半は「特定高度情報通信技術活用システムに不可欠な半導体」には該当しないため、5G促進法の支援対象にならないと解釈されるが、その理解は正しいか。

5 5G促進法第二条第四項で、「特定半導体」とは、「特定高度情報通信技術活用システム(中略)に不可欠な大量の情報を高速度で処理することを可能とする半導体であって、国際的に生産能力が限られていることその他の事由により国内で安定的に生産することが特に必要なもの」として定義されている。ここで「国際的に生産能力が限られていることその他の事由により国内で安定的に生産することが特に必要なもの」とは、世界的に需給バランスが逼迫し、国内の製造業等に対し十分な供給が難しい状況でも、国内で安定的に生産し供給できる体制を整備することが特に求められる半導体と考えられる。したがって、今回政府の支援対象であるTSMC等が国内工場を建設し生産する予定の特定半導体は、世界的に逼迫しており、今後も長期的に逼迫が予想されるものでなければならない。

 我が党が、二〇二〇年一月から二〇二三年二月までの半導体の需給バランスについて、用途別(パソコン、スマートフォン、データセンター、自動車)と種類別(メモリー、先端ロジック半導体、アナログ半導体、パワー半導体、マイコン)に、日本国内と世界の需給バランスのデータについて、経済産業省に問い合わせたところ、「お示しできる用途別、種類別の日本国内および世界の需給バランスに関するデータを保有していないため、お答えすることはできません。」との回答であった。この回答に鑑みれば、政府内ではTSMC等が国内工場で生産予定の特定半導体について需給状況の推移を把握していないと考えられる。

 しかし、二〇二二年二月のTech Insightsによる「Semiconductor Market Overview」の需給バランスデータ及び二〇二三年二月二十日に「EE Times Japan」で発表された湯之上隆氏の記事によると、TSMC等のファウンドリ(生産委託企業)の逼迫は二〇二一年前半までであり、二〇二一年第三・四半期以降は逼迫が解消され、二〇二二年は供給過剰に転じており、TSMC等三社で生産される予定の特定半導体は、その後の需要の逼迫が現時点で解消されていると報告されている。

 この報告のとおりであるならば、「国際的に生産能力が限られていることその他の事由により国内で安定的に生産することが特に必要なもの」という特定半導体の要件を、二〇二二年時点で失っているものと考えられる。このことは、5G促進法の趣旨から逸脱し、税金を使って外資系企業を支援して余剰な半導体を製造していることにならないか。さらに、こうした世界の需給バランスに関するデータを把握することなく政策決定を行なっていることについては見直すべきではないか。加えて、現状の施策で量産が進められた「特定半導体」が情勢の変化で長期的な供給過剰となった際には、どのような対応策を考えているのか、この三点について、政府の見解を示されたい。

  右質問する。