質問主意書

第211回国会(常会)

質問主意書

質問第四四号

自然公園法と太陽光発電設備に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年三月二十七日

神谷 宗幣


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   自然公園法と太陽光発電設備に関する質問主意書

 我が国の自然の風景地を保護し、その利用の増進を図ることにより国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与するため、自然公園法が昭和三十二年十月一日から施行されている。同法が規定する自然公園のうち、国立公園及び国定公園は環境大臣が指定する。

 釧路湿原は、東西二十五キロメートル、南北三十六キロメートル、面積二万二千七十ヘクタールの日本最大の湿原である。昭和五十五年十月に我が国最初のラムサール条約湿地として登録(登録面積七千八百六十三ヘクタール)され、昭和六十二年に国立公園に指定されている。国指定特別天然記念物タンチョウや氷河期の遺存種であるキタサンショウウオなど、数多くの貴重な動植物の生息地であり、天然記念物、国設鳥獣保護区、国立公園特別保護地域として、厳重に保護されなければならない。

 ところが、近年釧路市内の釧路湿原国立公園内や周辺の市街化調整区域周辺で太陽光発電施設の建設ラッシュが続いており、これらの建設が無秩序に進むことで自然環境や社会活動等、多方面に重大な影響が及ぶことが懸念される状況にある。

 絶滅危惧種であるキタサンショウウオの生息地は、釧路市内の広範囲に及んでいるが、釧路市内における太陽光発電所の大半は、環境影響評価法及び北海道環境影響評価条例における対象事業となっておらず、工事や設置による影響が調査もされず懸念されるものとなっている。

 市街化調整区域は、「市街地の拡大を抑制し自然環境に配慮した形で土地利用を図る」とされる場所であり、大半の地目が原野である。基本的には開発が規制されているはずだが、太陽光発電設備は「建築物」とはみなされないため、出力四万キロワット以上の巨大メガソーラー以外は、環境アセスメント(環境影響評価)の対象になっていない。このため、アセス図書の縦覧や住民説明会等により事前に国民が計画について知ることなく、大規模な土地の改変が計画実施されている。

 釧路湿原国立公園内には、平成二十九年四月に運転を開始した釧路町トリトウシ原野太陽光発電所がある。同発電所の道の向かい側にあるすずらん釧路町太陽光発電所には、二百十万四千平方メートルの広大な敷地に三十万二千五百枚もの太陽光パネルが敷き詰められている。

 さらに、釧路市内の釧路湿原国立公園周辺では、約四百万平方メートルの巨大なメガソーラーの建設計画が水面下で進められていることが報道されている。北海道新聞によれば、資源エネルギー庁が公表している昨年十二月末時点の釧路市内の出力千キロワット超の太陽光発電所二十七施設の所在地と、釧路市立博物館の調査で特定されたキタサンショウウオの生息適地を照合したところ、十二施設が生息適地内に建設されている。

 太陽光発電所の建設ラッシュは、種の保存法による国内希少野生動植物種や希少鳥類及び希少生物の生息環境を悪化させ、その悪化・消失が懸念される。釧路湿原国立公園や釧路市周辺の市街化調整区域では、タンチョウやチュウヒ、オジロワシ、シマクイナ、オオジシギ、キタサンショウウオ等の絶滅危惧種に深刻な悪影響を与えている可能性が危惧される。
 そこで、以下質問する。

一 自然保護法の背景には、我が国の自然の風景地を保護し、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することがあるが、この趣旨に反する具体的な事例として、政府はどのようなものがあることを想定しているか。

二 釧路市や釧路町の市街化調整区域は、平成三年に釧路市総合計画において「都市的土地利用の北限を水際線より六キロメートル程度」と規定し、都市計画法に基づく市街化調整区域として開発が抑制されてきた。令和四年に制定された「第二次釧路市都市計画マスタープラン」では、釧路湿原国立公園と同じ「自然環境の維持保全に努めるエリア」と規定されている。しかしながら、太陽光発電所の無秩序な建設により、森林や草原、湿原などへの大規模開発が行われると、希少な動植物だけではなく、釧路湿原及びその周辺の生態系全体に悪影響を及ぼす可能性がある。政府としては自然公園の生態系を護るために具体的にどのような対策を検討しているか。

三 太陽光発電施設は建築基準法に基づく建築物でないため開発規制の対象にならないことが、大規模太陽光発電所の無秩序な建設につながっており、政府としては自然公園周辺の生態系を守るために建築基準法に太陽光発電所を追加するか、それ以外に新たな規制、設置ルールや制限を実態に沿って設けることを検討すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。

四 太陽光発電設備は「建築物」とはみなされないため、環境アセスメント(環境影響評価)の対象になっているのは、出力四万キロワット以上の巨大メガソーラーに限られている。このため、アセス図書の縦覧や住民説明会等により事前に国民が計画について知ることなく、大規模な土地の改変が計画実施されている。現行の環境アセスメント(環境影響評価)の基準を変え、その対象を少なくとも千キロワット以上の太陽光発電所にすることで、国民が計画について知り、周辺に住む住民の意見が反映されることとなることにより、我が国の宝である自然公園やそこに生息する希少種が保護されていくことにつながると考えるが、政府の認識を示されたい。

五 再生可能エネルギーを進めることで自然環境を破壊してしまうことは本末転倒であり、太陽光発電施設の開発が無秩序に進められることを抑制するためにも、法的拘束力を伴う立法措置が必要である。それは、①違反者への公表措置等の罰則による計画外開発の抑制効果、②計画見直し時期を明文化することで常に状況に見合った区域設定が期待されること、③固定価格買取制度・フィードインプレミアム認定要件の一つに法律順守があること、の三点に鑑みても有効である。自然環境の保全と再生可能エネルギーの推進を両立させるために、ガイドラインから法的拘束力を持つ具体的方策への移行を検討すべきであると考えるが、政府の認識を示されたい。

  右質問する。