質問主意書

第210回国会(臨時会)

答弁書

内閣参質二一〇第八二号
  令和四年十二月二十三日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員小西洋之君提出反撃能力に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員小西洋之君提出反撃能力に関する質問に対する答弁書

一、二の前段、三及び十一について

 お尋ねの「反撃能力の具体的な内容及びその政策的な目的・意義」については、国家防衛戦略(令和四年十二月十六日閣議決定)において、「近年、我が国周辺では、極超音速兵器等のミサイル関連技術と飽和攻撃など実戦的なミサイル運用能力が飛躍的に向上し、質・量ともにミサイル戦力が著しく増強される中、ミサイルの発射も繰り返されており、我が国へのミサイル攻撃が現実の脅威となっている。こうした中、今後も、変則的な軌道で飛翔するミサイル等に対応し得る技術開発を行うなど、ミサイル防衛能力を質・量ともに不断に強化していく。しかしながら、弾道ミサイル防衛という手段だけに依拠し続けた場合、今後、この脅威に対し、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつある。このため、相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある。この反撃能力とは、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力をいう。こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく。」としているところである。

 お尋ねの「反撃能力として整備するミサイルにスタンド・オフ・ミサイル以外の種別のミサイルも定められている(あるいは、予定等されている)のか」及び御指摘の「反撃能力として整備するスタンド・オフ・ミサイル」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国家防衛戦略において、「東西南北、それぞれ約三千キロに及ぶ我が国領域を守り抜くため、島嶼部を含む我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して脅威圏の外から対処するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化する。」としており、スタンド・オフ・ミサイルを中心とするスタンド・オフ防衛能力は、この方針に従い整備するものであって、反撃能力のための独自の整備方針があるものではない。

 その上で、反撃能力については、特定の国や地域を念頭に置いたものではなく、また、先に述べた方針に従い整備されたスタンド・オフ防衛能力等を活用するものであって、これを行使する際に活用される自衛隊の能力の詳細については、実際に発生した武力攻撃の規模、態様等に即して判断されるべきものであるため、使用する具体的な装備品についてお答えすることは困難である。

二の後段について

 御指摘の「いわゆるアクティブ・サイバー・ディフェンス」の意味するところが明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、国家安全保障戦略(令和四年十二月十六日閣議決定)において、「武力攻撃に至らないものの、国、重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃のおそれがある場合、これを未然に排除し、また、このようなサイバー攻撃が発生した場合の被害の拡大を防止するために能動的サイバー防御を導入する。」としており、この「能動的サイバー防御」は御指摘の「反撃能力の一環」として位置付けられるものではない。

四について

 前段のお尋ねについては、「反撃能力として整備するミサイル弾頭」の意味するところが必ずしも明らかではないが、スタンド・オフ・ミサイルの取得数については、自衛隊の能力等が明らかになることにつながることから、お答えすることは差し控えたい。後段のお尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、今般保有することとする反撃能力は、一、二の前段、三及び十一についてで述べたとおり、「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として」行使されるものであることから、これを保有することは、自衛のための必要最小限度の実力を超えるものではない。

五について

 お尋ねの「反撃能力の対象」については、千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書Ⅰ)(平成十六年条約第十二号)第五十二条2において、「攻撃は、厳格に軍事目標に対するものに限定する」こととされており、これを遵守することは当然である。その上で、我が国に対する武力攻撃が発生した場合には、我が国は、我が国を防衛するため必要最小限度の武力の行使をすることができるが、その具体的限度は、当該武力攻撃の規模、態様等に応ずるものであり、一概に述べることは困難である。

六について

 お尋ねの「日本が自ら反撃能力を持つその軍事的な必要性」及び「「相手国の戦略的、戦術的な計算を複雑化」させるために我が国が行う反撃能力が必要であるとするところの政策的な必要性と合理性」については、一、二の前段、三及び十一についてでお答えしたことに加え、政府としては、ミサイルの脅威を含め、令和四年五月二十三日の日米首脳共同声明において、「二国間の役割及び任務を進化させ、共同の能力を強化させていく決意を表明した」としており、これを日米両政府が強く認識している中で、日米同盟の一層の強化に当たっては、我が国が自らの防衛力を主体的・自主的に強化していくことが不可欠の前提であり、我が国が反撃能力を保有することは、日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上につながると考えている。

七について

 御指摘の「スタンド・オフ・ミサイルの反撃能力」及び「我が国が反撃能力の対象とする国」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国家防衛戦略において、「日米の基本的な役割分担は今後も変更はないが、我が国が反撃能力を保有することに伴い、弾道ミサイル等の対処と同様に、日米が協力して対処していくこととする。」、「我が国の反撃能力については、情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する。」及び「こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。」としているところ、御指摘のように「我が国の安全保障上のリスクが増大する」とは考えていない。

八について

 お尋ねの「安全保障のジレンマ」について、確立した定義はないと承知しているが、一般的には、自国の安全を確保するために、一方の国が防衛力を増強することによって、他方の国の脅威認識を増大させ、その国も防衛力を増強することとなり、かえって前者の国の脅威認識が増大し、更なる防衛力の増強につながる場合があるという議論であると承知している。

 我が国の防衛政策は特定の国や地域を念頭に置いたものではないが、国家防衛戦略において、「日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本方針に従い、文民統制を確保し、非核三原則を堅持してきた。今後とも、我が国は、こうした基本方針の下で、平和国家としての歩みを決して変えることはない。」としており、また、従来から自衛隊の人員、装備、予算等といった防衛力について、その透明性の確保に努めてきており、引き続き取り組んでいく考えである。

九について

 反撃能力を含め、我が国の防衛政策は特定の国や地域を念頭に置いたものではない。また、中国については、国家安全保障戦略において、「我が国は、中国との間で、様々なレベルの意思疎通を通じて、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力をしていくとの「建設的かつ安定的な関係」を構築していく。」としているところである。

十、十三及び十六について

 我が国の防衛政策は特定の国や地域を念頭に置いたものではなく、また、御指摘の「湾岸戦争のケース(スカッド・ハント)を分析する限り、敵弾道ミサイル戦力等に対する制圧効果の観点からは、それほど大きな違いをもたらすことはなく、抑止の効果もほとんどないとの指摘」及びお尋ねの「この対処力には、いわゆるミサイル戦(相手国とのミサイルの撃ち合い)における対処力も含むのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねの「軍事的に合理性を有するものか」、「政府の見解」及び「抑止力及び対処力」については、国家防衛戦略において、「相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある。」、「こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく。」及び「こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛による迎撃を行い易くすることで、ミサイル防衛と相まってミサイル攻撃そのものを抑止していく。」としているところである。

十二について

 御指摘の「三文書の「統合ミサイル防衛(IAMD)」能力」の意味するところが明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、国家防衛戦略において、「統合防空ミサイル防衛能力」として、「近年、弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機等の能力向上に加え、対艦弾道ミサイル、極超音速兵器や無人機等の出現により、この経空脅威は多様化・複雑化・高度化している。このため、探知・追尾能力や迎撃能力を抜本的に強化するとともに、ネットワークを通じて各種センサー・シューターを一元的かつ最適に運用できる体制を確立し、統合防空ミサイル防衛能力を強化する。相手からの我が国に対するミサイル攻撃については、まず、ミサイル防衛システムを用いて、公海及び我が国の領域の上空で、我が国に向けて飛来するミサイルを迎撃する。その上で、弾道ミサイル等の攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力として、スタンド・オフ防衛能力等を活用する。こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛による迎撃を行い易くすることで、ミサイル防衛と相まってミサイル攻撃そのものを抑止していく。このため、二千二十七年度までに、警戒管制レーダーや地対空誘導弾の能力を向上させるとともに、イージス・システム搭載艦を整備する。また、指向性エネルギー兵器等により、小型無人機等に対処する能力を強化する。今後、おおむね十年後までに、滑空段階での極超音速兵器への対処能力の研究や、小型無人機等に対処するための非物理的な手段による迎撃能力を一層導入することにより、統合防空ミサイル防衛能力を強化する。」及び「我が国の反撃能力については、情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する。さらに、今後、防空、対水上戦、対潜水艦戦、機雷戦、水陸両用作戦、空挺作戦、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)、アセットや施設の防護、後方支援等における連携の強化を図る。」としているところである。

十四について

 お尋ねの「今般の反撃能力の保有は、米国が日本を守る防衛がある中で、「他に手段がない万やむを得ない」と言えるのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いかなる状況において講ずるいかなる措置が自衛の範囲に含まれるかについては、実際に発生した武力攻撃の規模、態様等に即して判断されるべきものであり、限られた与件のみに基づいて判断することはできず、一概にお答えすることは困難である。

十五について

 反撃能力を含む我が国の防衛政策については、周辺諸国を含む諸外国に対し説明してきており、今後とも説明を継続していく考えである。

十七について

 反撃能力と御指摘の「先制攻撃」との関係については、国家防衛戦略において、「この反撃能力は、憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではなく、武力の行使の三要件を満たして初めて行使され、武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されないことはいうまでもない。」としているところである。