質問主意書

第210回国会(臨時会)

質問主意書

質問第八一号

国葬儀の法的本質及び法的効果並びに法的根拠等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年十二月十日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   国葬儀の法的本質及び法的効果並びに法的根拠等に関する質問主意書

 国葬儀について以下の事項を質問する。答弁に際しては、令和四年十一月十五日及び同二十二日の参議院外交防衛委員会における政府答弁に基づき、丁寧に分かりやすく答え、国民及び国会への説明責任を全うするように最大限に努めること。

一 政府はこの間、安倍元総理の国葬儀について、国として葬儀を行う、国において行う、国の名において行う、そして、故人に対する敬意と弔意を国全体で表す儀式、国全体として弔意を表す、これは国葬儀を行うに当たって基本であるといった国会答弁や記者会見を行っているところであるが、国葬儀を実施したことで国民や国会などの国家機関などは安倍元総理に敬意や弔意を表したことになるのか、また、これら国民等が敬意や弔意を表していると擬制したことになるのか。

二 政府は外交防衛委員会において前記一の趣旨の質問に対する答弁の一環として、「今般の国葬儀は国の儀式として国の名において行う葬儀であり、それを実施したことのみをもって、国民一人一人や国会が弔意を表したことを意味することにはならないと考えております。」と述べているが、ここにいう「それを実施したことのみをもって」の意味するところを説明されたい。

三 「故人に対する敬意と弔意を国全体として表す儀式を催し、これを国の公式行事として開催し」、「国全体として弔意を示す、これはまず国葬儀を行うに当たって基本である」との岸田総理の国会答弁や記者会見にある「国全体」の言葉の意味について説明されたい。

 国全体という言葉を用いているからといって、国民や国会などの国家機関などは安倍元総理に敬意や弔意を表したことになるものではなく、また、これら国民等が敬意や弔意を表していると擬制されているものではないと理解してよいか。

四 前記三について、政府は、国全体で安倍元総理に弔意や敬意を表すとの意味について、「今般の国葬儀は国の儀式として国の名において行う葬儀であり、国として故人に対する敬意と弔意を表す儀式であるという趣旨でございます」という答弁を行っているが、ここでいう「国の儀式」、「国の名において」、「国として」の文言の趣旨についてそれぞれ説明されたい。

五 前記四について、政府は、外交防衛委員会において、「国の名においての意味なんですが、よろしいですか、日本国という名前を、名称を使ってと、そういう意味でおっしゃっているということでよろしいですね。」との質問に「御指摘のとおりと考えております。」と答弁し、更には、「今般の国葬儀は国の儀式として行う葬儀であり、前回の質疑の際に、議員から、日本国というクレジット、言わば日本国という名義を使ったと指摘いただいたように、国の名において行う葬儀でありますが、」と述べているところであるが、「国として故人に対する敬意と弔意を表す儀式である」という説明の趣旨はどういう意味のものであると考えているのか。「国の名において」と同じく日本国という名義を使用した葬儀という意味なのか、あるいは、国家が主催する葬儀といった意味も含んでいるのかについて具体的に説明しつつ答弁されたい。

六 前記一から五を踏まえつつ、要するに国葬儀とはその定義や実態において一体どのようなものであるのか、「日本国というクレジット」、あるいは、「日本国という名義」という文言を使用しつつ、可能な限り具体的かつ分かりやすく説明されたい。

七 安倍元総理に対する敬意と弔意を国全体で表す儀式などと説明されている国葬儀の実施は、憲法第十三条が保障する国を構成する国民一人一人の個人の尊厳の尊重及び憲法第十九条が定める思想、良心の自由に抵触するのではないか。

八 前記七について、政府は、「今般の国葬儀は国の儀式として行う葬儀であり、前回の質疑の際に、議員から、日本国というクレジット、言わば日本国という名義を使ったと指摘いただいたように、国の名において行う葬儀でありますが、それを実施したことのみをもって国民一人一人が弔意を表したことを意味することにはならないと考えており、したがって、国民一人一人の個人の尊重を定めた憲法十三条や、思想、良心の自由を定めた憲法十九条に抵触するものではないと考えております。」などと答弁しているが、国葬儀の実施は安倍元総理に対する国民の敬意や弔意に法的な効力を及ぼすものではなく、また法的な効力を及ぼすための法的な根拠も我が国には存在しないと考えてよいか。

九 安倍元総理に対する敬意と弔意を国全体で表す儀式などと説明されている内閣による国葬儀の実施は、国会や裁判所が安倍元総理に対して弔意等を表したことになる、または、国会や裁判所の弔意等が擬制されるなどして、憲法の定める三権分立に抵触することになるのではないか。これら弔意等を表したことになる、または、擬制される法的効果やその法的根拠の有無を含めて答弁されたい。

十 内閣が国葬儀を実施できる直接の法的根拠は、「行政権は、内閣に属する。」と定める憲法第六十五条及び「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。」と定める内閣法第四条第一項のみであると理解してよいか。

十一 前記十について、政府は、外交防衛委員会において、「内閣府設置法においては、内閣府の所掌事務として国の儀式に関する事務に関することが明記されており、国葬儀を含む国の儀式を行うことが行政権の作用に含まれることが法律上明確になっていることから、議員御指摘のとおり、国葬儀の実施が行政権に属することの根拠という意味で根拠と申し上げてございます。」と述べているところ、内閣府設置法の「国の儀式」の文言は「国葬儀の実施が行政権に属することの根拠」に過ぎないものであり、内閣が国葬儀を実施できる直接の法的根拠とは考えていないということでよいか。

 これについて、岸田総理は、「(前略)行政権に基づくものであり、その一つの根拠が内閣府設置法第四条三項等に明記されていることである」と答弁しているところ、この「一つの根拠」、「等」とは何なのかについても説明されたい(政府からは、内閣府設置法の「国の儀式」以外のものは存在しないとの説明を受けているが、総理答弁の当該箇所が特段の意味のない発言である場合はそうした趣旨を示されたい)。

十二 国葬儀が、国の名義(国のクレジット)で行う葬儀というものであるとしても、日本国という名義を使うにも関わらず、主権者である国民や国会の了解も取らず、内閣だけで日本国という名義を使った国葬儀なるものが実施可能なのか。国民主権や議院内閣制の趣旨に反するのではないか。

十三 政府は、「国の儀式である国葬儀は国が行政権の作用として行うものであり、政府としては、国が主催者となる行政上の事実行為としての国葬儀を、閣議決定を根拠として行政権の作用により実施することは可能と考えてございます。」としているが、参議院や衆議院では議長のための議会葬を実施し、過去には、三木元総理の衆議院と内閣の合同葬も行われているところ、事実行為としての葬儀の実施が三権分立において内閣だけしか実施できない、あるいは、内閣が独占して行うべきである、あるいは行うことが出来るとする法的根拠はないのではないか、法的根拠があるとする場合はそれを示されたい。

 また、これについて、政府は、外交防衛委員会において、「内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として国の儀式に関する事務に関することが明記されており、国葬儀を含む国の儀式を行うことが行政権の作用に含まれることが法律上明確になっていること等を踏まえれば、一義的には行政権がその主体となるものと考えてございます。」と答弁しているが、当該「国の儀式」に国葬儀を含むとする政府の見解は国会では全く審議されておらず、そのような趣旨の法規範として認めることは適切ではないのではないか。

十四 前記十三について、憲法は国会を国権の最高機関と定めており、国葬儀が日本国という名義を使用して行う葬儀というものに過ぎないとしても、国の名義を使う以上は、内閣がそうした葬儀を行うことの根拠規範たる法律が必要ではないのか。

十五 政府は行政権の行使として国葬儀を実施したとしているところ、国民や国会の同意を取ることなく内閣の独断で実施したことは、内閣法第一条に定める行政権の行使と国民主権及び国会への連帯責任の趣旨に反する違憲、違法の行為ではないか。

十六 前記十五について、政府は「今般の国葬儀は国の儀式として国の名において行う葬儀であり、国民の権利を制限したり義務を課したりするものではなく、法律による授権は必ずしも必要ではないと考えております。」と述べているが、この侵害留保説に基づく主張は、内閣法第一条が定める「内閣は、国民主権の理念にのつとり、日本国憲法第七十三条その他日本国憲法に定める職権を行う。」及び「内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う。」という内閣に課された行政権行使の規律が国葬儀の実施において適切に遵守されていたかについて、何か法的な意味(法的な効果や法的な効力)を有するものなのか。

十七 安倍元総理の国葬儀の実施に際して、教職員や児童生徒に黙祷などの敬意や弔意の表明を求めた教育委員会や学校は存在するのか。仮に、黙祷の実施を求めた場合は、その行為には法的正統性はなく、かつ、それに関する処分や指導などの不利益行為は違法となると認識してよいか。また、山口県教育委員会が行った弔旗掲揚の職務命令は違法であり、それに関する処分も違法ではないのか。

十八 安倍元総理の国葬儀について、岸田総理はいわゆる弔問外交を国葬、内閣葬ではなくて国葬儀でなければいけない柱の理由にしていたが、政府は二百十七の国や国際機関等と国葬の前後で会談等をしたとしているところ(うち国の数は百七十四)、これらのうちに事前の準備によって具体的な新しい外交案件が成果として得られたものは、岸田総理のUAE(アラブ首長国連邦)との会談のみであるということでよいか。外交防衛委員会において「国葬儀の際に新たに署名した文書や協定に実質的に合意したものは、アラブ首長国連邦との諸案件のみと承知しております。」と答弁しているが、事実関係を示されたい。

  右質問する。