質問主意書

第210回国会(臨時会)

質問主意書

質問第五二号

石綿健康被害救済基金の治療研究への活用に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年十二月二日

辻元 清美


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   石綿健康被害救済基金の治療研究への活用に関する質問主意書

 中皮腫などを始めとするアスベスト(石綿)被害は、関係企業を中心とした石綿関連製品の製造や販売・流通の過程で生じ、拡大した。国に関しても、危険性を認識していながら規制を強化しなかったことなどから、その責任が司法判断でも認められ、一部被害者への賠償手続が進められている。

 「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下「石綿健康被害救済法」という。)に基づき、石綿健康被害救済基金(以下「救済基金」という。)が設立された。現在、救済基金からは、患者に対する医療費の助成が行われているが、救済基金の残高のボリュームを踏まえた時、「命の救済」という観点から、中皮腫の治療研究についても、救済基金からの支出を認めるべきと考える。実際に患者団体からは、臨床試験や基礎研究、中皮腫治療研究に寄与するための遺伝子解析データ収集などの登録事業の構築など、ポイントを絞った研究の支援に年間で三億円程度の支援があるだけでも十分に展望が開けてくるという声が上がっている。この使途拡大は、国と事業主の責任の具体化という基金の本来的な意義からも十分に認められるべきであり、中皮腫を「治せる病気」にすることで、基金からの将来的な医療費助成を抑制することもできる。西村環境大臣は就任時の記者会見でも「人の命と環境を守る基盤的取組としての公害健康被害対策」の着実な実施に意欲を示されている。

 こうした状況を踏まえ、基金からの治療研究への支出を前向きに検討すべきという患者団体からの意見について、政府は真摯に耳を傾けるべきと考える。

 以下、質問する。

一 アスベストが原因の代表的な疾患である中皮腫について

1 今後のアスベスト健康被害予測について、政府の認識を明らかにされたい。

2 中皮腫は予後二年程度と厳しい疾患であると知られている。中皮腫の予後について、政府の認識を明らかにされたい。

3 石綿健康被害救済法が施行された二〇〇六年時点では、石綿中皮腫に対する標準治療がなかった。そのため、同法の逐条解説には「中皮腫は治癒が困難な疾病であり、このままでは、現に存在し、また今後発生する健康被害者は何ら救済を受けられずに死に至ることは厳然たる事実」という記載があるように、同法自体が中皮腫は「治らない病気」が前提の制度設計となっている。しかし二〇一八年にオプジーボ単剤療法が世界に先駆けて日本で承認され、また免疫療法により胸膜中皮腫の生存期間が向上するなど、中皮腫治療を取り巻く現状はこの間大きく変化している。現時点での、政府の中皮腫に対する認識は前記「何ら救済を受けられずに死に至る」と同様の認識か。

二 アスベスト被害への国の責任が認められたことで、発症や死亡に伴う補償をしていくことに加え、患者団体等からは国に「命の救済」を求める声が上がっている。特に石綿健康被害救済法成立後は、立法府から附帯決議などによる治療研究促進の要請がある。二〇二二年六月十日には、参議院環境委員会において、「国は、石綿による健康被害者に対して最新の医学的知見に基づいた医療を迅速に提供する観点から、中皮腫に効果のある治療法の研究・開発を促進するための方策について石綿健康被害救済基金の活用等の検討を早期に開始すること。」などとする改正石綿健康被害救済法案に対する附帯決議が決議された。

1 アスベスト被害によって発生した病気を治すことの重要性について、政府の認識を明らかにされたい。

2 患者団体からは、最も予後が悪いとされている「中皮腫」に関しても、決して諦めて死に向かうのではなく、「中皮腫を治せる病気にしてほしい」との切実な声も上がっている。これまでの中皮腫の治療研究に関する政府支援にはどのようなものがあったのか。また今後、更なる支援を行う必要があるという認識か。

3 治療研究の促進について、厚労省と環境省が連携して行ったこれまでの取組にはどのようなものがあるか。また今後、連携した取組を進めていく必要があるという認識か。

4 特に、治療研究の促進について具体的な成果を実現するためには、環境省と厚労省など関係省庁が連携して「中皮腫治療推進戦略会議」を設置し、そこで戦略的な計画を立案し、予算・人的体制なども含めた対応を行うことも極めて重要と考えるが、政府の認識を明らかにされたい。

5 治療研究の促進について、患者団体からは残高が約八百億円、また運用益が十六億円に上っている救済基金の活用を求める声が上がっている。この基金には、「命の救済」のための使途拡大を目的に、全国の事業者から広く拠出されているにもかかわらず、現在開催されている中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会(以下「小委員会」という。)には一部の経済団体しか参加していないのが現状である。拠出者である事業主の声をできるだけ多く拾い上げ、今後の施策の展開を図る上でも、小委員会に参加する事業主団体の拡大を図るべきと考えるが、政府の認識を明らかにされたい。また救済基金の小委員会として、多くの事業主団体からヒアリングを行う場を設けるべきと考えるが政府の見解を示されたい。

三 環境省は、救済基金の支出予測とそれに伴う基金残高の推計を二〇一三年と二〇二二年の二回にわたって行っている。しかし、この二つの推計値がかなり異なっている。二〇一三年推計では、将来的な支出が四十億円程度でピークまで推移するとされていたが、二〇二二年八月に小委員会で環境省が示した推計では、将来的な支出がピーク時に向かって増加し、最大で百四十億円ほどになるとされている。そのため、二〇三五年以降は基金残高がマイナスになり、赤字幅が最大で千五百億円になると予測される。

 なお二〇一三年推計では、ピークである二〇三九年以降支出額は漸減して二〇六八年に支出額はゼロになると想定している。この試算に基づいて救済基金における企業の一般拠出金率は千分の〇・〇二と低く設定されている。

1 政府は、二〇二二年推計が正しくて二〇一三年推計は誤りという認識か。

2 二〇一三年推計と二〇二二年推計の算定方法について明らかにされたい。また、異なる算定方法を用いた理由を明らかにされたい。

  右質問する。