質問主意書

第210回国会(臨時会)

質問主意書

質問第二八号

台湾有事を想定した国民保護訓練に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年十月二十六日

神谷 宗幣


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   台湾有事を想定した国民保護訓練に関する質問主意書

 台湾有事を想定した場合、沖縄県、特に先島諸島が軍事的攻撃が展開される対象となる可能性が高い。沖縄県は島嶼のみで成り立っている県であるため、災害その他に際する住民避難でも他の都道府県と比べて高度で複雑な訓練と準備が必要とされると言われる。とりわけ先島諸島からの住民避難については十分な態勢を準備し、訓練を重ねておくべきものである。

 しかも、昨今の台湾をめぐる軍事的な緊張の中で、本年八月四日に中国人民解放軍が発射した九発の弾道ミサイルのうち五発が八重山列島南方海上の我が国の排他的経済水域(EEZ)内に着弾する事態が発生している。「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(以下「国民保護法」という。)は、武力攻撃事態等において、武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護し、国民生活等に及ぼす影響を最小にするための措置を国・自治体等で講ずるための規定を定めている。今回のような不測の状況下では、短時間のうちに、弾道ミサイル攻撃によって住民が生活する我が国の管轄領域が危険に晒される実態が明らかとなり、国民保護法に基づく措置について、「事が起こるのを待つ」のではなく、直ちに準備作業に着手されるべきことが示された。

 現在の我が国の法体系に基づけば、国民保護の責任は第一義的に自治体に所在し、自衛隊は外国からの武力による主権侵害、領土への攻撃の排除のための任務に支障の無い範囲で自治体を支援するものとされている。ところが、すでに国とともに都道府県、市区町村は、国民保護法に基づいて、国民保護計画や訓練計画を策定しているとされるものの、有事を想定した国民保護訓練はいずれの自治体においても一度も実施されていない。

 沖縄県の島々から、全住民が安全に避難するためには、(一)迅速な避難実施要領の策定、(二)十分な輸送機材(船舶及び航空機)の手配、(三)避難に必要な時間を考慮した避難命令の発令が必要である。(一)は市町村、(二)は沖縄県、(三)は政府と所管がそれぞれ異なるが、住民避難のために、三位一体となって取り組むことが必須である。

 特に、沖縄県による輸送機材の準備が遅れたり、政府が避難に必要な時間の見積りを誤って避難警報を発令したりすると、多くの住民が逃げ遅れ軍事衝突の渦中に置かれてしまうおそれがある。

 そして、八重山列島が置かれた状況について本年八月の排他的経済水域(EEZ)内への中国ミサイル着弾の事態から鑑みれば、島の外に避難というより住民が居住地区において迅速に危険回避をするためのシェルター整備が焦眉の課題となったこともまた、明白である。

 以上を鑑みるならば、沖縄県及び市町村職員は政府や自衛隊を始めとする関係機関と連絡を密にし、平素から国民保護に関する理解を深め、訓練を繰り返しておくことが必要である。また、日本全国はもとより、特に発生が懸念される「台湾有事」において軍事的衝突の渦中に置かれかねない沖縄県などで住民が緊急避難するためのシェルター整備を早急に進め、必要なら法改正措置によりこれを推進しなくてはならない。しかしながら現状で見る限り、沖縄県においてすら避難計画の十分な検討や訓練、シェルター整備の計画が行われていないという状況は極めて深刻な事態だと考える。

 そこで、以下質問する。

一 国民保護法制に基づく避難計画を確立し、実地の訓練実施に向けて政府として都道府県や市町村に対して過去、いかなる連絡や調整を行ってきたのか。都道府県別の取組について、いつどのような施策が採られているのか具体的に示されたい。

二 国民保護に関わる訓練は、政府、都道府県、市区町村が三位一体となり各段階での実施段階での問題を明らかにしながら必要な態勢整備を図り得る定期的な訓練が必要と考える。各都道府県、市町村段階で全体として訓練計画の策定状況及び市町村から都道府県、国レベルまでが結合した総合的訓練の実施はどこまで具体化されているのか。まだ訓練計画が具体化されていない場合、訓練エリアの決定、訓練目標の設定、実施計画等の策定等については、国から都道府県、市町村に対してどのような働きかけをしながら推進されることになるのか、示されたい。

三 台湾・沖縄有事の際、県民及び旅行者や駐在員など一時的滞在者の沖縄県外への避難も想定される。特に沖縄県について、他の都道府県までまたぐ避難訓練を実施する計画はあるか。その場合、都道府県をまたぐ調整や全体統括はどの機関が担うのか。訓練及び実際の事態における計画実施の両面において、明らかにされたい。

四 現在、台湾有事に備えた先島諸島十万人の避難訓練が課題となっている。沖縄県及び石垣市を始めとする関係自治体を含めた計画の具体化、訓練実施に向けての取組は現在、どういう状況にあるのか示されたい。

五 国として、武力攻撃事態等において国民が緊急避難するためのシェルター整備について、現状の認識や今後の取組に対する考え方を明らかにするため、以下の点についてそれぞれ示されたい。

1 我が国における避難シェルター整備について、主要国における対象人口に対応した避難用必要数の充足率との比較において整備状況を示されたい。主要国とは、米国や主なEU諸国、周辺国のうちの中国、韓国、台湾、ロシアなどでデータのあるものを我が国との比較において示されたい。

2 我が国においてシェルターを整備する場合、(一)堅固な建築物(住宅)のシェルター化、(二)地下商店街・地下道・地下鉄・地下駐車場など既存の地表下施設の改修、(三)国や自治体等が新規に造成、の方向が考えられる。これらを推進するには整備計画と造成・改修費用の補助制度が必要と考えられるが、国としての具体的な計画や適用できる補助制度はあるか。国として今後どう進めていくのか。

3 沖縄県においては、前述した状況からシェルター整備が焦眉の課題となっていることが明らかで、国として県や関係自治体とともに直ちに着手すべきと考えるが、現状の取組と今後の見通しについて明らかにされたい。また、沖縄県がたびたび台風などに直撃されることや、今後予想できない大震災の発生による津波その他の被害に備えて、大規模災害時に住民が避難し緊急事態下で命を長らえるための施設としての整備も、沖縄県における災害救援体制の強化として重要と考えるが、政府の考え方を示されたい。

  右質問する。