質問主意書

第210回国会(臨時会)

質問主意書

質問第一一号

文化庁が宗教法人法第八十一条の解散命令の請求を裁判所に行わないことが違法であることに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年十月四日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   文化庁が宗教法人法第八十一条の解散命令の請求を裁判所に行わないことが違法であることに関する質問主意書

一 政府が認識する旧統一教会による民事裁判、刑事裁判の例について示されたい。このうち、宗教法人としての旧統一教会の民法上の不法行為責任及び使用者責任が認定された例、信者などの刑事犯罪が認定された例について何件ぐらい存在すると認識しているか、示されたい。

二 文化庁が所轄する宗教法人において、旧統一教会は民事裁判、刑事裁判で違法責任が認定された件数は飛び抜けて多く、また、その被害額も桁違いに甚大ではないのか、政府の認識を示されたい。

三 故安倍元総理への襲撃事件以前及び以後において、文化庁が旧統一教会について宗教法人法第八十一条の解散命令の請求を裁判所に行っていない理由について示されたい。端的に、安倍元総理を始めとする旧統一教会と自民党の国会議員ら政治家との癒着のために解散命令の請求を行っていなかったのではないか。

四 政府は旧統一教会について文化庁が裁判所に解散命令の請求を行うことが法的に可能であると考えているのか。法的に出来ないと考える場合はその理由を示されたい。

五 政府は、宗教法人であったオウム真理教に対する解散を命じた平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定にある宗教法人法第八十一条に関する東京高等裁判所の見解を理由に旧統一教会について裁判所への解散命令の請求を行うことは出来ないとの旨を繰り返し説明しているが、同見解にある「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」との文言の趣旨についてどのように理解しているのか。

六 宗教法人であったオウム真理教に対する解散を命じた平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定にある宗教法人法第八十一条に係る東京高等裁判所の見解における「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」との文言について、「刑法等」の「等」には民法など刑法犯罪を定めた法令も含まれると解しているのか、「実定法規」には民法などの刑法犯罪を定めた法令も含まれると解しているのか、「禁止規範」及び「命令規範」の意味をどのような意味と理解しているのか、「~してはならない」、「~しなければならない」と日本語で明記された条文以外はこの「禁止規範」及び「命令規範」には該当しないと考えているのかについて、政府の見解を具体的に示されたい。

七 数多くの民法の基本書の不法行為の説明においては、「行為者の権利にも配慮しつつ設定した禁止・命令規範に違反すると評価されるものをいう」、「その侵害行為が法秩序の禁止・命令に違反する態様のものであること(禁止・命令規範に対する違反行為)」(野党国対ヒアリングで文化庁に示された潮見佳男教授の基本書からの引用)との趣旨の説明がなされているところ、なぜ、平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定の「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」にある「禁止規範」及び「命令規範」の文言の趣旨について「~してはならない」、「~しなければならない」と日本語で明記された条文以外は該当しないとする政府の主張が正しいと言えるのか。端的に、閣僚等を含む自民党の国会議員らと旧統一教会の癒着から旧統一教会に関する解散命令請求を行いたくないことを理由とする裁判所の決定文の政府による曲解ではないか。

八 平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定には「法の定める禁止規範もしくは命令規範に違反し、公共の福祉を害する行為に出る等の犯罪的、反道徳的・反社会的存在に化することがありうるところから」との文言があるところ、なぜ、この文言の後の「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」との文言における「禁止規範」及び「命令規範」の文言の趣旨について、「~してはならない」、「~しなければならない」と日本語で明記された条文以外は該当しないとする政府の主張が正しいと言えるのか。

九 政府は、文化庁が旧統一教会に関する解散命令の請求を裁判所に行わない理由について、「現在、把握している中で、旧統一教会の役職員が刑罰を受けた事案を承知しておらず、請求の要件を満たしていないと考えている」などとも説明しているが、宗教法人法第八十一条第一項は、裁判所は、「宗教法人について」、「法令に違反して」著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたことに該当する事由等があると認めたときは、所轄庁等の請求等により、その解散を命じることができることを規定しているところ、この「法令に違反して」の解釈について、文化庁が実務で用いているとする宗教法人法の逐条解説においては、「「法令」とは、宗教法人法はもちろん、あらゆる法律、命令・条例などを指す。宗教法人が法令に違反するとは、宗教法人の役員または職員がその業務等の執行に関し、違法行為を行っている場合(責任役員がそのような決議をしている場合も入る。)を指す」(渡部蓊『逐条解説宗教法人法』三百七十八頁)とされ、政府が示すような「旧統一教会の役職員が(刑事裁判で有罪とされ)刑罰を受けた事案」というような要件は何ら示されていないのであり、前記六及び前記七で質問する政府における「禁止規範」及び「命令規範」の文言の理解を含め、政府の主張は宗教法人法の曲解ではないか。

十 前記八に関して、宗教法人法第八十一条の解釈に関する国会答弁においても、「この法令に違反して云々というような文言は、何も宗教法人法ばかりに限ったことではありませんで、他の一般のいろいろな法規に違反するという場合をさしているわけであります。(中略)たとえば今御指摘の問題でありますならば、法務省あるいは人権擁護委員会でいろいろお調べになっておりまして、将来そういうところで客観的にはっきりした事実が確認できれば、それは文部大臣としてもその事実を認めて必要な措置をとられる」(衆議院法務委員会昭和三十一年六月三日福田繁文部省調査局長)とされており、逐条解説の示す通り、刑法犯罪以外の違法行為について適用され、かつ、その事実関係の調査も刑事捜査に限定されているものではないのであり、前記六及び前記七で質問する政府における「禁止規範」及び「命令規範」の文言の理解を含め、政府の主張は宗教法人法の曲解ではないか。

十一 旧統一教会の違法行為については、民事事件では、民法の規定により宗教法人の第七百九条の不法行為責任を認めた判決のほか、第七百十五条の使用者責任を認めた判決が二十件以上存在し、信者・関連会社の行為について、平成十九年以降十件を超える刑事事件で有罪判決が出ているところ、解散命令の事由に該当する疑いは十分にあるのではないか。文化庁においては、解散命令請求の実施のために設けられた宗教法人法第七十八条の二の規定に基づく旧統一教会に対する質問等の権限を行使する必要があるのではないか。なぜ、この質問等の権限を行使しないのかについて説明されたい。

  右質問する。