質問主意書

第210回国会(臨時会)

質問主意書

質問第一〇号

安倍元総理の国葬儀が法的根拠を欠く違憲かつ違法の行為であることに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年十月四日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   安倍元総理の国葬儀が法的根拠を欠く違憲かつ違法の行為であることに関する質問主意書

 政府は、安倍元総理の国葬儀の法的根拠について、「まず、国の儀式として国葬儀を行うということが立法権に属するものなのか、司法権に属するものなのか、あるいは行政権に基づくものなのか、これを考えた場合に、私は、行政権に基づくものであり、その一つの根拠が内閣府設置法第四条三項等に明記されていることである、こういった説明をさせていただき、そして、行政権に含まれるものであるとしたならば閣議決定を根拠に行うことが求められるということで閣議決定を行い、決定をした、これが法的な考え方の整理であると認識をしております。」との旨を説明している(令和四年九月八日衆院議院運営委員会、参院議院運営委員会)。

一 この法的根拠に関する考え方は、「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」(令和四年七月十四日 内閣官房・内閣府)の「3 閣議決定を根拠として国葬儀を行うことについて」において示されているものと同じ趣旨と考えてよいか。

二 この法的根拠に関する考え方は、「その一つの根拠が内閣府設置法第四条三項等に明記されていることである、こういった説明をさせていただき、」との内閣府設置法に関係する言い回しを除いては吉田茂元総理の国葬儀の法的根拠と同じであると考えてよいか。

三 前記一及び前記二に関して、政府が考える国葬儀の直接の法的根拠は法令の条文でいうとどこの法令の何条となるのか。明確な根拠条文は憲法第六十五条「行政権は、内閣に属する。」及び内閣法第四条「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。」のみであると理解してよいか。なお、内閣府設置法案に関する内閣法制局の審査資料においては、内閣府設置法第四条第三項の「国の儀式」の文言の趣旨について国葬儀を含むものとの旨の記載があるが、そうした条文解釈は国会では一切審議されておらず、政府の本年七月十四日の国葬儀に関する政府統一見解にも示されておらず、また、政府は七月二十二日の国葬儀実施の閣議決定の後になって内閣法制局が私の要請を受けて国立公文書館から取り寄せた当該内閣法制局審査資料を確認して初めて内閣府が所有していた文書が当該内閣法制局審査資料と内容的に同一であることを確認したのであるから、政府において、当該「国の儀式」の文言は国葬儀の法的根拠とは考えていないということでよいか。

四 「その一つの根拠が内閣府設置法第四条三項等に明記されていることである、」について、国の儀式として国葬儀を行うということが行政権に基づくものであると政府が考える「その一つ」以外の他の根拠が何であるのかについて該当する法令の条文なども示しながら具体的に説明されたい。

五 政府は一貫して「国葬儀は閣議決定を根拠に行う」とし、内閣府設置法第四条第三項の「国の儀式」の規定は国の儀式たる国葬儀の執行が行政権に属することの「一つの根拠」とのみ説明しているにもかかわらず、本年の八月三十一日の総理会見及び九月八日の衆参の閉会中審査において「国葬儀を内閣府設置法及び閣議決定を根拠として行う」と発言ぶりを変更しているが、内閣府設置法は国葬儀の法的根拠であると政府は考えているのか説明されたい。また、こうした発言ぶりの変更は、国葬儀には個別の法律の根拠が無いことの批判に対して国民や国会を欺罔しようとする行為ではなかったのか、発言ぶりの変更の目的について説明されたい。

 今後は「安倍元総理の国葬儀は、故吉田茂国葬儀と同じく、憲法の定める行政権に基づき閣議決定のみを根拠として行ったものである」との見解を明確に述べるべきではないかについて、この見解を国葬儀の法的根拠の説明として正しいものと考えているのかどうかを示しながら政府の考えを答弁されたい。

六 政府は「葬儀は、国において行い、故安倍晋三国葬儀と称する」(令和四年七月二十二日閣議決定)、「国として葬儀を執り行うことで、安倍元総理を追悼する」、「故人に対する敬意と弔意を表す儀式を催し、これを国の公式行事として開催し」(令和四年九月八日衆院議院運営委員会)、「国葬儀は、国の儀式として国の名において行われる葬儀であり(中略)我が国として故人に対する敬意と弔意を表す儀式」、「国葬儀は国による葬儀であり、内閣葬に関しては内閣による葬儀」(令和四年九月八日参院議院運営委員会)などと説明しているが、このように、「国の名において国の儀式として国において(国により)執り行われる葬儀」とする国葬儀を行うことが、なぜすべて行政権のみに基づくものと考えるのか、その根拠を説明されたい。

 例えば、国葬儀の対象者や実施方法等の決定について国会決議など国会が関与することは可能であり、また、国葬儀の事務の執行についても、衆議院及び参議院は議長経験者に議院葬を行い、衆議院においては三木武夫衆議院・内閣合同葬儀を行ってきたところであり、行政権のみが執行し得るものではないと解されるが、これらの見解に対する具体的反論とともに政府の見解を示されたい。

七 一般論として、政府は故吉田茂国葬儀や故安倍晋三国葬儀のような総理経験者の国葬儀の実施について、立法権(国会)や司法権(裁判所)がその実施について同意することができる憲法などの法令上の根拠があると考えているか、それぞれについて説明されたい。

八 政府は、国の儀式として国葬儀を行うことが行政権に含まれるものであり閣議決定を根拠に行うことができるとしているが、仮にそのような主張に立ったとしても、そもそも内閣の行政権の行使は「内閣は、国民主権の理念にのつとり、日本国憲法第七十三条その他日本国憲法に定める職権を行う。」(内閣法第一条第一項)及び「内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う。」(同法同条第二項)の制約に服するのであるから、国民や国会が一切関与していないこの度の国葬儀の決定とその実施は内閣法第一条の趣旨に反し、同条が基づく憲法の定める国民主権及び議会制民主主義(議院内閣制における内閣の国会への連帯責任)の原理に反するものではないか。仮に、反しないと考える場合は、この度の国葬儀の決定と実施がどのように内閣法第一条に定める「国民主権の理念にのっと」っているものであり、「全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負」っているものであると考えているのか、具体的に説明されたい。

九 日本国憲法が定める自由主義、民主主義、個人の尊厳の尊重について政府はどのような見解にあるか説明されたい。自由主義と個人の尊厳の尊重については、憲法第十九条の保障する思想良心の自由の趣旨を説明しながらそれとの関係についても説明されたい。

十 政府は、前記六で示したように、国葬儀について、「国の名において国の儀式として国において(国により)執り行われる葬儀」との旨を説明しつつ、「故人に対する敬意と弔意を国全体として表す儀式を催し、これを国の公式行事として開催し」(令和四年八月十日総理会見、官房長官会見)、「国全体として弔意を示す、これはまず国葬儀を行うに当たって基本である」(令和四年九月八日閉会中審査における岸田総理答弁)などと説明しているが、国葬儀は個人の尊厳の尊重の確保を目的とする日本国憲法の定める自由主義、民主主義に反するのではないか、また、個人の尊厳の尊重と思想良心の自由に反するのではないか、反しないとする場合はその理由について説明されたい。

十一 いわゆる全体主義について政府の認識を示されたい。また、政府はこの間、前記六で示したように、国葬儀について、「国の名において国の儀式として国において(国により)執り行われる葬儀」との旨を説明しつつ、「故人に対する敬意と弔意を国全体として表す儀式を催し、これを国の公式行事として開催し」(令和四年八月十日総理会見、官房長官会見)、「国全体として弔意を示す、これはまず国葬儀を行うに当たって基本である」(令和四年九月八日閉会中審査における岸田総理答弁)などと説明しているが、特定の政治家に対して国民、国会、裁判所を含む国全体で敬意と弔意を表する国が執り行う国葬儀とは一種の全体主義の表れというべきものではないか。

十二 前記六で示したように、政府が「国の名において国の儀式として国において(国により)執り行われる葬儀」との旨を説明する国葬儀を行うためには、憲法の定める国民主権及び議院内閣制並びに三権分立の原理に照らし、国民、国会、内閣、裁判所を構成員として有する我が国が国家として国葬儀を行うこと及びその際の基準や要件等を定めた法律(根拠規範)、その実施をどの国家機関の任務とするかなどを定める法律(組織規範)が必要となるのではないか。これら国会による具体的な根拠規範、組織規範の法律が存在しないにもかかわらず、国葬儀を行うことは憲法の定めるこれら国民主権等の原理に反し、憲法が採用する「法律による行政の原理」に反することになるのではないか。

十三 岸田総理は、「今、国葬儀について具体的に定めた法律はありませんが、先ほど申し上げたように、行政権の範囲内で、内閣府設置法と閣議決定を根拠に決定したわけですが、こうした国の行為について、国民に更なる義務を課するとか何か行為を強要するということではない限り、具体的な法律が必要がないという学説に基づいて、政府としても、今回の件についてしっかり考えています。」(令和四年九月八日衆議院議院運営委員会)と答弁しているが、このいわゆる侵害留保説たる学説は、前記十二の国民主権原理等を踏まえた根拠規範及び組織規範の法律が不要であることの根拠とはならず、「国葬儀について具体的に定めた法律」がないことが許容されることの理由足り得ないものではないかについて政府の見解を示されたい。

十四 結局、政府の国葬儀の法的根拠の説明は、「国葬儀は国の儀式であり、国の儀式は行政権に属し(内閣府設置法にも「国の儀式」の文言があり)閣議決定を根拠に実施できるから、政府は閣議決定のみで国葬儀を実施できる」という独自の見解を述べているだけであり、憲法や内閣法に基づく国民や国会との関係における国葬儀の法的正統性については何も説明できていないのではないか。

十五 政府が実施してきた内閣・自民党合同葬は、国民がその費用の半分を負担して自民党のための葬儀を行っているものであり、国民主権や議会制民主主義の観点から不適切ではないか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。