質問主意書

第210回国会(臨時会)

質問主意書

質問第九号

安倍元総理の国葬儀と国民、国会、裁判所との関係等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年十月四日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   安倍元総理の国葬儀と国民、国会、裁判所との関係等に関する質問主意書

 政府は、故安倍元総理の国葬儀について、「葬儀は、国において行い、故安倍晋三国葬儀と称する」(令和四年七月二十二日閣議決定)、「国として葬儀を執り行うことで、安倍元総理を追悼する」「故人に対する敬意と弔意を表す儀式を催し、これを国の公式行事として開催し」(令和四年九月八日衆院議院運営委員会)、「国葬儀は、国の儀式として国の名において行われる葬儀であり(中略)我が国として故人に対する敬意と弔意を表す儀式」、「国葬儀は国による葬儀であり、内閣葬に関しては内閣による葬儀」(令和四年九月八日参院議院運営委員会)などと説明し、かつ、「故人に対する敬意と弔意を国全体として表す儀式を催し、これを国の公式行事として開催し」(令和四年八月十日総理会見、官房長官会見)、「国全体として弔意を示す、これはまず国葬儀を行うに当たって基本である」、「国民の皆さんとともに安倍元総理に対して弔意を示すこと、これは重要である」(令和四年九月八日参院議院運営委員会)などと説明している。

 これらを踏まえ、以下質問する。

一 安倍元総理の国葬儀がこれらの答弁等にあるように、「国の名において国の儀式として国において(国により)執り行われる葬儀」であるのであれば、人間社会で最も厳粛な儀式である葬儀について、なぜ、国の構成員である国民、国会の関与もなく行政権(内閣)だけでその実施や内容を決定することが許されるのか、その理由を示されたい。

 この質問の趣旨は「国の儀式として国葬儀を行うということが立法権に属するものなのか、司法権に属するものなのか、あるいは行政権に基づくものなのか、これを考えた場合に、私は、行政権に基づくものであり、その一つの根拠が内閣府設置法第四条三項等に明記されていることである、こういった説明をさせていただき、そして、行政権に含まれるものであるとしたならば閣議決定を根拠に行うことが求められるということで閣議決定を行い、決定をした、これが法的な考え方の整理であると認識をしております」との岸田総理答弁が示すように、仮に、国葬儀が行政権に基づき実施できるものであったとしても、人間社会で最も厳粛な儀式である葬儀の性質に照らして、なぜ、国民や国会の了承もなく行政権だけで安倍元総理の国葬儀が実施可能なのかを尋ねるものであり、答弁拒否することなく明確に答弁されたい。また、岸田内閣は国葬儀の実施に関する国民と国会の了承をいつどのようなプロセスで得たと認識しているのかを示されたい。

二 政府は安倍元総理の国葬儀について「我が国として故人に対する敬意と弔意を表す儀式」などとしているが、九月二十七日の国葬儀の実施により、我が国の構成員である国民と国会が安倍元総理に対する敬意と弔意の意思表示を行ったことになっているのか、あるいは、国民と国会を構成員とする我が国が国として安倍元総理に対する敬意と弔意の意思表示を行ったことになっているのか、「我が国として故人に対する敬意と弔意を表す」との文言と国民及び国会との関係について政府の認識を示されたい。

 また、我が国の構成員である国民と国会が安倍元総理に対する敬意と弔意の意思表示を行うこと、あるいは、国民と国会を構成員とする我が国が国として安倍元総理に対する敬意と弔意の意思表示を行うことなどを、なぜ行政権(内閣)だけで決定等できるのか、その理由を示されたい。内閣はこれらに係る国民と国会の了承をいつどのようなプロセスで得たと認識しているのかを示されたい。

三 政府は、質問主意書や野党国対ヒアリングにおいて、国葬儀と国民などとの関係を説明することを一貫して拒んできているが、そもそも、政府は、国葬儀の定義をどのように考えているのか。国葬儀と国民、国会、裁判所との関係を示しつつ、国葬儀とは何か、国民などとどのような関係を有し、どのような効果を持つものであるのかについて、可能な限り具体的かつ分かりやすく説明されたい。

四 政府は安倍元総理の国葬儀について「故人に対する敬意と弔意を国全体として表す儀式」、「国全体として弔意を示す、これはまず国葬儀を行うに当たって基本である」などとしているところ、この「国全体」には個々の国民、国民全体、国会、裁判所も含むのか。また、国葬儀の実施により個々の国民、国民全体、国会、裁判所も安倍元総理に敬意と弔意を表したこととなるのか。

五 政府は安倍元総理の国葬儀について、「故人に対する敬意と弔意を国全体として表す儀式」、「国全体として弔意を示す、これはまず国葬儀を行うに当たって基本である」などとしているところ、安倍元総理の国葬の実施に対しては各世論調査でも反対が賛成を上回る状態にあり、また、国民各層で明確にこれに反対する意見があるのであるから、実態として「敬意と弔意を国全体として表す儀式」等とはなっておらず、安倍元総理の国葬儀は政府の考える国葬儀の要件を欠くのではないか。また、こうした反対が賛成を上回る等の事態に直面した段階で、国葬儀の閣議決定を撤回し、せめて内閣葬とすべきではなかったのか。

六 「安倍元総理に対する敬意と弔意を国全体として表す」、「国民の皆さんとともに安倍元総理に対して弔意を示すこと、これは重要である」との見解に基づく国葬儀の実施は、敬意と弔意を表すことを望まない国民の憲法第十九条に定める内心の自由たる思想・良心の自由を侵害することになるのではないか。政府は、「国民一人一人に弔意を強制するものではない」、「国民一人一人に弔意を求めるものであるとの誤解を招くことがないように」などと述べているが、黙とうの実施など望まない意思表示を強制しなくとも、前記二で質問しているように、国葬儀の実施により「国全体」に属する国民の一人として望まない意思を有し、その意思表示を行ったとされることに対する苦痛など、思想・良心の自由又は憲法第十三条に定める個人の尊厳尊重に反する事態が生じるのではないか、具体的に説明されたい。

 また、安倍元総理に対して国葬儀により敬意と弔意を表すとの決定を何ら行っていない国会や裁判所との関係においては、「国全体として表す」とすることは三権分立に反することになるのではないか。

七 安倍元総理の国葬儀の実施に際して、教職員や児童生徒に黙とうなどの敬意や弔意の表明を求めた教育委員会や学校は存在するのか。また、職員に同様の弔意等の表明を求めた自治体は存在するのか。全国のどれぐらいの自治体や学校で半旗(弔旗)の掲揚を行ったと政府は認識しているのか。

八 政府は、「国民一人一人に弔意を強制するものではない」、「国民一人一人に弔意を求めるものであるとの誤解を招くことがないように」などと述べているが、仮に、官公庁、自治体、学校等において黙とうなどの弔意表明が求められた場合は、これら政府の見解や方針に反するものであったと理解してよいか。黙とうなどの強要・強制が生じることがないよう、弔意表明を行う必要はなく求めるべきでないことについての通知を発するべきではなかったのか。さらに、弔意表明の実施の有無によって、各地域において混乱が生じ、ひいては、国民に分断が生じないようにするためにも通知を発するべきではなかったのか。

九 安倍元総理の国葬儀に際して、官公庁、自治体、教育委員会、学校において弔意表明が求められ、職員や教職員や児童生徒がこれを拒んだ場合に、不利益(懲戒や処分)や指導等を課すことは法的に可能であるのか。政府は、「学校現場で教職員に処分を行うことは想定していない」などと答えているが、これは不利益などを課す法的根拠の有無を法律論として尋ねているものであり、答弁拒否することなく明確に答弁されたい。

 また、岸田総理が務める葬儀委員長の決定により、各府省で弔旗の掲揚や黙とうによる弔意の表明を行うことになっていたが、各府省の職員は黙とうを行ったのか。また、その黙とうを行った職場や職員の割合はどれぐらいのものであったのか。この黙とうによる弔意の表明については、内閣法においては「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする」(第四条)などとあるところ、従前の国葬儀や内閣葬における閣議了解に拠らずに葬儀委員長の決定でなぜ各府省における職員の黙とうの実施などが可能であるのか、その法的根拠(法令の条文を含む)を示されたい。

  右質問する。