質問主意書

第209回国会(臨時会)

質問主意書

質問第二四号

安倍元総理の国葬儀の法的根拠等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年八月五日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   安倍元総理の国葬儀の法的根拠等に関する質問主意書

 岸田総理は本年七月十四日の記者会見で、安倍晋三元総理の国葬儀、いわゆる国葬について以下のように述べている。

 「国葬儀、いわゆる国葬についてですが、これは、費用負担については国の儀式として実施するものであり、その全額が国費による支弁となるものであると考えています。そして、国会の審議等が必要なのかという質問につきましては、国の儀式を内閣が行うことについては、平成十三年一月六日施行の内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として、国の儀式に関する事務に関すること、これが明記されています。よって、国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます。これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております。」

 これを踏まえ、以下質問する。

一 政府は国葬儀とは「国の儀式」としているが、この「国」には国民や国会も含まれるのか。

二 内閣法第一条について、「内閣は、国民主権の理念にのつとり、日本国憲法第七十三条その他日本国憲法に定める職権を行う。」、「内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う。」の規定の趣旨について具体的に説明されたい(内閣法改正以前の条文と比較して文言の趣旨なども含め丁寧に説明すること)。

三 国民や国会も含む国(国家)の儀式(葬儀)である国葬儀を内閣の判断だけで行うことは、憲法の定める国民主権原理、議院内閣制に反し、内閣法第一条にも反する行為ではないのか。

四 憲法の定めるいわゆる「法律による行政の原理」について政府はどのように考えているか、具体的に示されたい。

 また、誰をどのような基準や手続きで国民や国会も含む国の儀式たる国葬儀で追悼できることを定めた国葬儀に関するいわゆる根拠規範たる法律がないのに、内閣の判断だけで国葬儀を行うことは「法律による行政の原理」に反するのではないか。政府は、国民の権利を制限しあるいは国民に責任を課すものでなければ、すべて根拠規範たる法律がなくともその行政権の行使ができると考えているのか。

五 岸田総理は、「国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます」と述べているが、政府は、安倍元総理の国葬儀について内閣府設置法を根拠とするのではなく、あくまでも閣議決定を根拠として実施しようとしているのか。なお、内閣府設置法の「国の儀式」の文言に国葬儀が含まれるかどうかについては国会で内閣府設置法制定時を含めこの間一切審議されておらず、当該「国の儀式」の規定は国葬儀に関する組織規範としての法的正統性は認められないものと解する。

六 岸田総理は、「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところ」としているが、七月十四日付の国葬儀を可能とする政府見解文書を作成するに当たり、内閣法制局は内閣府設置法制定時の「国の儀式」の規定等に関する内閣法制局審査資料を国立公文書館から取り寄せすらしておらず(当該資料は七月十九日以降の私の提出要求によって初めて内閣法制局が取り寄せたところである)、また、内閣府においては内閣府設置当時の内閣法制局審査資料の特定すらもできておらず、当該「判断」は内閣法制局設置法及び内閣府設置法等に反する手続き(当然、内容的にも違法である)によるものではないか。

七 吉田茂元総理の国葬儀は、佐藤榮作政権を含む公式制度連絡調査会議において、国葬には法律が必要との認識に基づき、いわゆる国葬法の制定の検討のための内閣提出法案たる公式制度調査会議設置法案の作成と国会提出の検討まで行っていた従前の政府の取組を無視し、逝去のわずか三日後に実施の閣議決定がなされたものであるが、吉田元総理の国葬儀は憲法の定める国民主権や議院内閣制の趣旨、さらには、「法律による行政の原理」の趣旨に反するものであったと言わざるを得ないのではないのか。

 いずれにしても、岸田政権が安倍元総理を国民と国会を含む国の儀式たる国葬儀で追悼したい、しかも、それを「行政が国を代表して行い」たいとするのであれば国葬儀のための法案を国会に提出し、国会の審議を受けてその制定法に基づいて実施するべきではないのか。

八 政府は安倍元総理の国葬儀の実施に際し、国民や行政組織に何かの追悼行為等を要請等するのか。安倍元総理の政策については、憲法違反などの単なる政策評価を超えた深刻な批判が日本社会や行政内部にもあるところ、そうした要請等は、憲法の定める思想良心の自由に反することにはならないのか。

九 衆議院議院運営委員会の昭和四十二年十二月一日の会議録においては、「そこで議長にお伺いしますが、この間吉田さんの葬式がございましたが、そのときに院のほうで全然知らない間に、佐藤総理から衆議院、参議院の副議長が吉田さんの葬式の実行副委員長というのに任命されておった。それではけしからぬではないかということで、これは表面に出ないままに私どもはそれは断わるべきだ、そういうことで断わったいきさつがあるわけです。」との発言があるが、事実関係について政府の認識を示すとともに、安倍元総理の国葬儀に国会役員等を葬儀関係者として任命等するつもりがあるのかについて説明されたい。

  右質問する。