質問主意書

第208回国会(常会)

質問主意書

質問第四五号

暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する第三回質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年五月十一日

浜田 聡


       参議院議長 山東 昭子 殿



   暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する第三回質問主意書

 今般、私が提出した「暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する質問主意書」(第二百八回国会質問第三四号)に対する答弁書(内閣参質二〇八第三四号)及び「暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する再質問主意書」(第二百八回国会質問第三九号)に対する答弁書(内閣参質二〇八第三九号)を踏まえ、更に質問する。

一 暗号資産に関して、所得税法第四十条第一項に規定する「資産の価額」とは、所得税基本通達三九によると、贈与等の時における通常売買される価額であり、この価額は、贈与等により取得した暗号資産に係る暗号資産交換業者が公表するその贈与等の時における取引価格によって評価した額と等しいと考えられるので、相続税法上の「時価」と等しくなる。

 このような政府の取扱いを前提とすると、分裂(分岐)に伴い取得した暗号資産を贈与した場合において、新たに発生する租税負担の金額は、納税者の事情により異なるものの、最も高い限界税率が適用されるときは、贈与者の所得税及び住民税について、当該暗号資産の時価の五十五パーセント、受贈者の贈与税について、当該時価の五十五パーセント、合計で当該時価の百十パーセントとなり、当該贈与に係る暗号資産の時価を上回る。当該贈与によって生じる担税力の算定額は、当該贈与に係る暗号資産の通常売買される価額(時価)を超えないと考えられるため、当該贈与によって新たに発生する租税負担は担税力を超える可能性のあるものである。

 そのため、一般に担税力を超える課税を行うこと、例えば、百万円の所得に百十万円の租税を賦課することは、著しく不合理であることが明白であるので、憲法第十四条が規定する法の下の平等及び同第二十九条が規定する財産権の保障に抵触する可能性が高いと考えられるところ、政府の取扱いを前提として暗号資産の贈与に係る税額を計算した場合、憲法上の問題が生じるおそれがあると考えるが、政府の見解を問う。

二 相続税法上、贈与により取得した暗号資産の価額は時価であるところ、その時価は、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)の定めによって評価した価額によると評価通達は定めている。暗号資産の評価方法については、評価通達に定めがないことから、評価通達五の定めに基づき、評価通達に定める評価方法に準じて評価することとなり、所得税法施行令第八十七条は、暗号資産について、「贈与等の場合の棚卸資産に準ずる資産」と位置付けていることから、評価通達第六章第二節(たな卸商品等)の定めに準じて評価することが相当である。

 そのため、贈与税の計算上、贈与により取得した暗号資産の評価については、評価通達一三三の定めに準じて、所得税法施行令第百十九条の二に定める方法のうち贈与者が所得の金額の計算上選定している方法によることができると解してよいか。

 また、右のように評価できないのであれば、財産評価上の問題点を具体的に示されたい。

三 所得税法第四十八条の二第二項は、「暗号資産の評価に関し必要な事項は、政令で定める」と規定しているので、贈与又は相続により取得した暗号資産及びこれに類する外国通貨の取得価額についてまで、政令で、暗号資産に係る譲渡原価の計算と同様の定めができるように見える。

 他方、行政事件裁判例集第十九巻第六号一一三〇頁(大阪高裁昭和四十三年六月二十八日判決)等に鑑みると、憲法第八十四条が規定する租税法律主義の原則から、法律が政令に委任する場合には、法律自体から委任の目的、内容、程度などが明らかにされていることが必要であり、贈与又は相続により取得した外国通貨の取得価額といった課税要件について、法律で概括的、白地的に政令に委任することは許されないと解するのが相当である。

 そのため、所得税法第四十八条の二第二項により、政令で、法律と同様な前記課税要件を広範囲にわたって規定することまでも委任したものではないと考えられるところ、贈与又は相続により取得した外国通貨の取得価額を、その贈与又は相続の時における時価ではなく、その贈与者又は被相続人がその外国通貨につきよるべきものとされていた評価の方法により評価するものとして取り扱うには、同法同項及びその委任を受けた政令を根拠とするだけでは不十分であり、他に法律上の根拠が必要となると考えるが、政府の見解及び根拠を示されたい。

四 令和元年度の税制改正において、所得税法施行令第八十七条及び第百十九条の六が改正又は新設されたが、これらの規定は関連する法律案を見るだけでは予見することが困難であり、唯一の立法機関である国会を重視するのであれば、毎年度の税制改正において、法律案を国会に提出する場合には、これに関連する政令案を国会に提示することが適切であると考えるが、政府の見解を問う。

五 所得税法第三十三条第一項に規定する「資産」に該当しない資産について、仮に、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、独立した経済的価値が認められて取引の対象とされているとは考えられないところである。こうしたことから、当該資産について、資産の価値の増加益が生じる性質が失われたとしても、それにより当該資産の取引価格(客観的な交換価値)が影響を受けることはないと解してよいか。

六 暗号資産モナコインは、不換紙幣のように政府等の権威ある機関の信用をもって流通しているものではなく、他の財産的価値による担保も有していないため、モナコイン自体の価値の増加益が生じる性質なくしては、短期的にはともかく長期的には無価値であり、価格はゼロになると考えられる。モナコインは八年以上の長期にわたり、価値のあるものとして取引の対象とされているところ、その理由は、モナコイン自体の価値の増加益が生じる性質にあると考えられ、当該性質が、モナコインの取引価格に影響を与えていると認められるので、当該性質については、独立した経済的価値が認められて取引の対象とされているとするのが自然である。

 そのため、モナコインは、所得税法第三十三条第一項に規定する「資産」に該当するものと解してよいか。

七 経済産業省が公表する「スポーツ分野でのNFT/FTの可能性と課題」では、FT(代替性トークン)としてファントークンが取り上げられている。ファントークンは、当該トークンを保有することにより特典(例えば特別席で観戦する権利、すなわち優先的施設入場権など)を受けることができる性質を有しており、当該性質のためにファントークンが売買されることから、当該性質は独立した経済的価値が認められて取引の対象とされていると考えられる。ファントークンは、代替性トークンであり、ゴルフ会員権において、優先的施設利用権に価値の増加益が生じることを踏まえると、譲渡所得の基因となる資産に該当する場合もあり、当該トークンを保有することにより特典を受けることができる性質は、価値の増加益が生じる性質であると認められる可能性もある。

 他方、ファントークンは、決済手段等の経済的機能を有しているかどうかにより、暗号資産に該当する可能性があるとされており、実際、金融庁が事前相談を受けたファントークン「FCRコイン」は暗号資産に該当するとされている。

 そのため、暗号資産に該当するファントークンについては、価値の増加益が生じる性質を有する場合があり、当該性質について、独立した経済的価値が認められて取引の対象とされている可能性も否定できないところである。こうしたことから、暗号資産について、所得税法第三十三条第一項に規定する「資産」に該当しないとした政府の取扱いを維持することは困難であると考えるが、政府の見解を問う。

 なお、本質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、転送から七日以内での答弁は求めない。国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内には答弁されたい。

  右質問する。