質問主意書

第208回国会(常会)

質問主意書

質問第三四号

暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和四年四月六日

浜田 聡


       参議院議長 山東 昭子 殿



   暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する質問主意書

一 暗号資産モナコイン(以下「モナコイン」という。)は、金融庁が公表する「暗号資産交換業者登録一覧」において、暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産とされている。モナコインは、所得税法第四十八条の二第一項に規定する暗号資産に該当すると解してよいか。

二 モナコインのみで寄付を受け付けている者がいた場合に、その者に対して寄付をするために購入したモナコインは、所得税法第四十八条の二第一項に規定する暗号資産に該当すると解してよいか。

三 たな卸資産とは、事業所得を生ずべき事業に係る商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で、一般に販売(家事消費を含む。)の目的で保有されるものが含まれると解してよいか。

四 所得税法第四十条は、「たな卸資産に準ずる資産」を課税要件とし、所得税法施行令第八十七条は「たな卸資産に準ずる資産」の一つとして、所得税法第四十八条の二第一項に規定する暗号資産を定めている。

 一方、憲法第三十条は、国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うことを定め、同第八十四条は、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としており、課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要である。そして、このような租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないというべきであり、所得税法第四十条にいう「たな卸資産に準ずる資産」とは、たな卸資産と同様又は類似の性質、内容、要件等を有している資産をいい、モナコインのみで寄付を受け付けている者がいた場合に、その者に対して寄付をするために購入したモナコインについて、当該資産は、たな卸資産と同様又は類似の性質、内容、要件等を有していないため、所得税法施行令の規定にかかわらず、「たな卸資産に準ずる資産」に該当しないと解してよいか。

五 所得税法施行令第八十七条に規定する資産は、所得税法第五十九条にいう「譲渡所得の基因となる資産」に該当しないと解してよいか。

六 相続により取得したたな卸資産を譲渡した場合において、所得が生じたときは、各種所得の計算上、相続により取得したたな卸資産の取得価額は、相続が生じた時における時価(具体的には財産評価基本通達において評価した金額、すなわち、被相続人が当該資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額)と解してよいか。

七 相続により取得した外国通貨を譲渡した場合において、邦貨又は外貨との相対的な関係により所得が認識されたときは、各種所得の計算上、相続により取得した外国通貨の取得価額は、相続が生じた時における時価(具体的には財産評価基本通達において評価した金額、すなわち、為替相場により邦貨に換算した金額)と解してよいか。

八 相続税法第二十二条では、相続により取得した暗号資産の価額は、相続が生じた時における時価によるとされているが、国税庁が公表する「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」三十八頁「相続や贈与により取得した暗号資産の評価方法」の趣旨に徴すると、その時価とは、外国通貨に準じて、財産評価基本通達において評価した金額、すなわち、市場の相場により邦貨に換算した金額であると解してよいか。

九 所得税法第四十八条の二第二項は、「暗号資産の評価に関し必要な事項は、政令で定める」とし、所得税法施行令第百十九条の六第二項第一号は、相続により取得した暗号資産を譲渡した場合において、邦貨又は外貨との相対的な関係により所得が認識されたときは、各種所得の計算上、相続により取得した暗号資産の取得価額は、相続が生じた時における時価(具体的には財産評価基本通達において評価した金額、すなわち、市場の相場により邦貨に換算した金額)ではなく、被相続人がその暗号資産につきよるべきものとされていた評価の方法により評価した金額と定めている。

 一方、租税法律主義の原則に照らすと、課税要件等の定めを一般的又は包括的に政令に委任することは許されず、課税要件等に係る基本的事項については法律において定めることを要し、政令に委任することが許されるのはその技術的細目的事項に限られると解するのが相当である。

 そこで、所得税法施行令第百十九条の六第二項第一号について検討すると、相続により取得した暗号資産の取得価額は、各種所得の計算上、欠かすことのできない課税要件であり、政令に委任することが許されるのはその技術的細目的事項に限られる。

 そして、所得税法第五十九条の適用を受けない資産につき、相続により取得した当該資産を譲渡した場合において、所得が生じたときは、各種所得の計算上、相続が生じた時において新たに相続人が当該資産を取得したものと取り扱われており(資産の譲渡に関する計算の特例を定めた所得税法第六十条の反対解釈)、したがって、相続により取得した当該資産の取得価額は、相続が生じた時における時価となる。

 暗号資産は、所得税法第五十九条の適用を受けない資産であるので、相続により取得した暗号資産を譲渡した場合において、邦貨又は外貨との相対的な関係により所得が認識されたときは、各種所得の計算上、相続により取得した暗号資産の取得価額は、相続が生じた時における時価(具体的には財産評価基本通達において評価した金額、すなわち、市場の相場により邦貨に換算した金額)となるが、かような所得税法における取扱いに反する所得税法施行令第百十九条の六第二項第一号は、所得税法の趣旨に適合するものではなく、法律による委任の根拠を欠き、憲法に違反すると解してよいか。

十 譲渡所得とは資産の譲渡による所得であり、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものである。この点、ビットコインなどの暗号資産は、資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されており、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられていることから、暗号資産の譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にするものと考えられる。

 ところで、代物弁済として、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値には、例えば、金地金や宝石などがあるが、金地金や宝石の譲渡益は資産の値上がりによる増加益と解してよいか。

十一 支払手段の中には、収集品としての支払手段や金地金と兌換可能な支払手段があるが、このような支払手段の譲渡益は資産の値上がりによる増加益と解してよいか。

十二 支払以外に用途(使用価値)のない支払手段(例えば不換紙幣や旅行小切手)について、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にすると解してよいか。

十三 支払以外に用途(使用価値)を有する支払手段(例えばコレクション用の古銭や記念硬貨)について、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益と解してよいか。

十四 代価の弁済のために不特定の者に対して使用すること以外に用途(使用価値)のない財産的価値(例えば不換紙幣や金銭債権)については、それ自体が価値の尺度とされており、固有の用途(使用価値)を有しておらず、それ自体の価値の増加益を観念することが困難であるため、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にすると解してよいか。

十五 代価の弁済のために不特定の者に対して使用すること以外に用途(使用価値)を有する財産的価値(例えば金地金や宝石)については、固有の用途(使用価値)を有しており、それ自体の価値の増加益を観念することが可能なため、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益と解してよいか。

十六 代物弁済として、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値には、例えば、特定の役務の提供に係る請求権を表象する証書(例えば指定席特急券や美術館入場券)があるが、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益と解してよいか。

十七 指定席特急券の所有者は、自己の指定席特急券と引換えに特急に乗車することができる。そして、引き換えられた指定席特急券は、乗車サービスの対価として、鉄道事業者が取得する。

 鉄道事業者が提供するこの乗車サービスは、事業として対価を得て行われる役務の提供にあたるので、消費税法第二条第一項第八号に規定する資産の譲渡等に該当すると解してよいか。

十八 国税庁が公表する「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」十頁「マイニング、ステーキング、レンディングなどにより暗号資産を取得した場合」によると、マイニングにより暗号資産を取得した場合、その取得に伴い生ずる利益は所得税又は法人税の課税対象となる。なお、マイニングの意味するところが必ずしも明らかではない場合、マイニングに係る利益が所得税又は法人税の課税対象となるかどうか(所得の認識、益金不算入、非課税所得、所得区分等に係る課税要件該当性)を判断することは困難であるため、政府におかれては、マイニングの意味するところについて、これを明瞭に理解しているものと承知している。

 ところで、モナコインの保有者は、自己の保有するモナコインと引換えに、NFT技術等の基盤となるブロックチェーンと呼ばれる改ざん不可能なデータベースに、モナコインの保有者が指定するデータ(例えば論文、数値など)を記録することができる。そして、引き換えられたモナコインは、マイニングによって、記録サービスの対価として、マイナーと呼ばれる記録事業者が取得する。

 記録事業者が提供するこの記録サービスは、事業として対価を得て行われる役務の提供にあたるので、消費税法第二条第一項第八号に規定する資産の譲渡等に該当すると解してよいか。

十九 モナコインは、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値であるが、モナコインの保有者は、自己の保有するモナコインと引換えに、NFT技術等の基盤となるブロックチェーンと呼ばれる改ざん不可能なデータベースに、モナコインの保有者が指定するデータ(例えば論文、数値など)を記録することができ、かつ、モナコインを保有するのでなければ何人も当該データベースに記録することはできないこととなっている。このため、モナコインは、ブロックチェーンへの記録請求権を表象する証書と経済実態において同じであるので、モナコインは固有の用途(使用価値)を有している。

 モナコインは、代価の弁済のために不特定の者に対して使用すること以外に用途(使用価値)を有する財産的価値であり、モナコイン自体の価値の増加益を観念することが可能なため、強制通用力を有しないことも考慮に入れると、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益であると考えられる。

 モナコインは、所得税法第三十三条第一項にいう「資産」に該当すると解してよいか。

二十 モナコインのように、支払手段としての性質を有しているものの、価値の増加益が観念可能な固有の用途(使用価値)を有している、性質のあいまいな資産については、法律の用語の自然な解釈に従い、所得税法第三十三条第一項にいう「資産」に該当するものと解してよいか。

二十一 個人向けのバイナリーオプション取引と暗号資産デリバティブ取引は、ともに賭博罪の構成要件に該当する。一方、これらの取引は、丁半博打等の手慰みと異なり、流動性のある市場を創造し、市場における競争均衡を生じさせるという働きがあり、厚生経済学の基本定理が示すように、競争均衡はある種の最適な資源配分を実現することから、リスクシェアリング等の経済的有用性が認められ、正当な業務による行為として違法性が阻却されることとなっている。

 しかるに、現状では、個人向けのバイナリーオプション取引による所得については分離課税の対象となり、個人向けの暗号資産デリバティブ取引による所得については総合課税の対象となっている。個人向けの暗号資産デリバティブ取引については、税制が金融市場にゆがみを与える可能性が考えられるほか、他の所得の状況を踏まえ、全体の税負担の軽減を目的とし、意図的に金融取引のタイミングを調整する行為が可能となっている。このように、現状の税制は、租税の公平性中立性等の観点から問題があると考えるが、政府の見解を問う。

 なお、本質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、転送から七日以内での答弁は求めない。国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内には答弁されたい。

  右質問する。