第207回国会(臨時会)
質問第二一号 再処理工場の高レベル廃液重大事故を防ぐためにIAEA基準を尊重し再審査を求めることに関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和三年十二月十六日 福島 みずほ
参議院議長 山東 昭子 殿 再処理工場の高レベル廃液重大事故を防ぐためにIAEA基準を尊重し再審査を求めることに関する質問主意書 私は令和三年二月十七日に「六ケ所再処理工場に関する質問主意書」(第二百四回国会質問第一八号。以下「前回質問主意書」という。)で高レベル廃液の重大事故について質問したが、前回質問主意書に対する答弁書(内閣参質二〇四第一八号。以下「前回答弁書」という。)において、高レベル廃液の重大事故である「大容量液体貯槽の破裂」についての答弁はなかった。福島原発の過酷大事故を現実に経験した現在、人々を守るため最悪の事態を想定し、今後起こる可能性がある事故を評価する方針ではなかったのか。再処理施設の新規制基準適合性に係る審査(以下「安全審査」という。)で人々が最も心配している高レベル廃液を含有する「大容量液体貯槽の破裂」の重大事故評価をせずに済ませることは、国民への重大な背信行為ではないか。 以上を踏まえ、以下のとおり質問する。 一 「大容量液体貯槽の破裂」と「蒸発乾固」について 第十五回原子力災害事前対策等に関する検討チーム会合(平成二十八年十一月二十五日。以下「第十五回チーム会合」という。)の資料四「再処理施設及びプルトニウムを取り扱う加工施設において発生するおそれがある緊急時に講ずべき防護措置について」(平成二十八年十一月原子力規制庁)中、「三.再処理施設の防護措置」において、「IAEA基準では、再処理施設の災害対策上のハザードを①臨界事故、②大規模火災又は爆発(水素爆発等)、③大容量液体貯槽の破裂(蒸発乾固)、④使用済燃料貯蔵設備の事故と定めている」との記載があった。 1 第十五回チーム会合の資料四の三の③に「蒸発乾固」とあるが、IAEA安全指針No.GS―G―2.1(以下「IAEA安全指針」という。)には記載されていない。IAEAが「蒸発乾固」を重大事故としていないのにもかかわらず、当該文言が挿入されていることは事実に反し、文書の改ざんに当たるのではないか。また、高レベル廃液の「蒸発乾固」と「大容量液体貯槽の破裂」とでは、重大事故時の放射性物質の発生量が極端に異なり、その後の審査に大きな影響を与え、大問題になることが考えられるが、政府の見解を示されたい。 2 「蒸発乾固」が第十五回チーム会合の資料四の三の③に挿入された目的とその経緯を示されたい。 二 IAEA安全指針の基準にある「大容量液体貯槽の破裂」について 前回答弁書の三の2についてに関して、政府は「福島第一原子力発電所の事故のような事故を二度と繰り返さないという覚悟の下、原子力規制委員会は、最新の科学的知見や国際原子力機関等の規制基準を参考にしつつ再処理施設の規制に必要な基準を設定し・・・審査で確認したものである」と答弁している。 しかし、高レベル廃液について、IAEA安全指針の表六の中で、「行為に関する標準的な脅威区分」の「使用済燃料の再処理」に関わる「脅威の概要」について「大型の液体貯蔵タンクが破裂すると、広範な介入が必要とされる汚染が生じうる」旨の記載がある。一方、日本の使用済燃料の再処理の事業に関する規則(以下「再処理規則」という。)第一条の三では「使用済燃料から分離された物であつて液体状のもの又は液体状の放射性廃棄物を冷却する機能が喪失した場合にセル内において発生する蒸発乾固」となっており、IAEA安全指針に記載のある「大容量液体貯槽の破裂」は除かれ、IAEA安全指針には記載されていない「蒸発乾固」が重大事故とされている。これではIAEA安全指針が参考にされていない。 1 放出放射性物質が少ない「蒸発乾固」がなぜ高レベル廃液の重大事故とされるのか理由を示されたい。 2 IAEA安全指針に記載のある「大容量液体貯蔵タンクの破裂」は重大事故ではないのか。重大事故とみなされるのならば、IAEA安全指針に記載されている「大容量液体貯槽の破裂」を再処理規則第一条の三に設定すべきであるが、設定しなかった理由を示されたい。 三 IAEA安全指針を踏まえた六ケ所再処理工場の脅威区分について 1 IAEA安全指針の表六において、「行為に関する標準的な脅威区分」の「使用済燃料の再処理」に関わる「脅威区分」は「ⅠまたはⅡまたはⅢ」と挙げられていた。また、IAEA安全指針の表四中、「施設及び行為の緊急事態脅威区分を判断するために推奨される基準」について脅威区分Ⅰの判断推奨基準として「最近取り出された、合計およそ〇・一EBq(一〇〇PBq)を超えるセシウム一三七を有する照射済原子炉燃料を収容する施設及び/又は場所」とある。六ケ所再処理工場の使用済燃料プールには三千トンの使用済燃料が貯蔵されており、その中にはセシウム一三七だけでも基準一〇〇PBqの百倍以上も含まれている(十五年経過した使用済燃料について計算)ことが分かった。国は使用済燃料に関し、IAEA安全指針の表四により六ケ所再処理工場の脅威区分を調べたのか。六ケ所再処理工場は脅威区分Ⅰに該当するのではないか。 2 IAEA安全指針の表四にある「施設及び行為の緊急事態脅威区分を判断するために推奨される基準」では、脅威区分Ⅰの判断推奨基準として前記三の1で挙げた基準のほかに「敷地外に緊急防護措置をとることを正当化する線量をもたらすのに十分な、放散性放射性物質のインベントリを有する施設」を挙げている。高レベル廃液貯槽(約百二十立方メートル)はこの項目に該当すると思われる。IAEA安全指針の附属書Ⅲに計算方法が出ており、六ケ所再処理工場の廃液についてストロンチウム九〇とアメリシウム二四一について計算したところ、いずれも基準の十万を数十倍も超えていることが分かった(核種の放射能は「再処理施設の事故影響について」日本原燃平成二十六年三月十八日の資料二十二頁による)。これにより高レベル廃液貯槽についても脅威区分Ⅰに該当することが分かった。 政府はIAEA安全指針の表四を基に六ケ所再処理工場の脅威区分を調べたのか。六ケ所再処理工場は脅威区分Ⅰに該当するのではないか。 3 IAEA安全指針の二.六(五頁)に「脅威区分Iの施設から大量の放射性物質が放出されるため、重篤な確定的影響が敷地外で生じる可能性がある。この脅威は、大型の原子炉と、核燃料廃棄物を再処理するための施設など、揮発性放射性物質が大量に存在する施設に限定されるであろう」旨の記載があり、IAEAは再処理施設を脅威区分Ⅰの施設と想定していたことが分かる。これを踏まえ、政府は六ケ所再処理工場の現在の脅威区分Ⅱを訂正すべきでないか。 また、政府が六ケ所再処理工場の脅威区分を決定する際に、IAEA安全指針の表四を適用しなかった理由を併せて示されたい。 4 第十五回チーム会合の資料二―一において、日本原燃は「ハザード評価においては、この再処理施設の特徴及びIAEA基準を踏まえて、施設固有の解析により、重篤な確定的影響が生じるか否かを評価することで、ハザード分類を導出する」としている。 「IAEA基準を踏まえる」ならば、IAEA安全指針の基準にある「大容量液体貯槽の破裂」による放射能放出を踏まえた評価が行われるべきではないか。IAEA安全指針の基準にない「蒸発乾固」による放射性物質の過小放出量のみで評価を行ったのであればIAEA安全指針の基準を全く踏まえていないことになる。このような恣意的な過小評価によるデータで安全審査を済ませてよいのか。政府の見解を示されたい。 また、「施設固有の解析により、重篤な確定的影響が生じるか否かを評価することで、ハザード分類を導出する」とあるが、ハザード分類の導出に関する法規則等の根拠を併せて示されたい。 四 蒸発乾固後の評価をせずに安全審査を済ますことにより重大事故時に「未必の故意」を問われるおそれについて 前回答弁書の一の1について及び一の2についてに関して、政府から「蒸発乾固で事故が収束するとは認識していない」としつつ、「蒸発乾固後の揮発や爆発の対策は対象外であり審査しない」との無責任な答弁があった。福島原発事故を経験したこの国で、今後起こりうる高レベル廃液に関する重大事故としてIAEAが「大容量液体貯槽の破裂」という基準を提示しているにもかかわらず、その安全審査をせずに済ますことは、政府が今後「未必の故意」を問われてもやむをえない姿勢と断定せざるをえない。IAEAが想定しているのは、実際に一九五七年九月に起こった再処理施設液体貯槽蒸発乾固物の大爆発事故「ウラルの核惨事」があったからではないのか。一九七六年八月に旧西ドイツ原子炉安全研究所が作成した再処理工場の大事故評価に係る報告書を踏まえると、もし我が国で「貯槽の破裂による放射性物質の環境大放出」事故が起これば、最悪の場合、日本国民の多くが死亡し、北半球を広く汚染するなど、国の存在を危うくする可能性がある。その時には国民・諸外国からもこの国の安全審査に取り組む姿勢に起因する事故として厳しく責任を問われることになる。このまま安全審査を済ませてよいと考えるのか、政府の見解を示されたい。 右質問する。 |