質問主意書

第205回国会(臨時会)

質問主意書

質問第三五号

令和三年八月六日広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式の内閣総理大臣挨拶文に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年十月十三日

熊谷 裕人


       参議院議長 山東 昭子 殿



   令和三年八月六日広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式の内閣総理大臣挨拶文に関する質問主意書

 第一次岸田文雄政権が成立した。

 令和三年十月八日、岸田総理は、衆参の本会議で所信表明演説を行い、「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは、「核兵器のない世界」で」あり、「唯一の戦争被爆国としての責務」を果たすことを明言した。広島出身の政治家が日本国の内閣総理大臣に就任したことの意義は国際的にも小さくない。

 令和三年八月六日、菅総理(当時)は、「原爆の日」を迎えた広島市中区の平和記念公園で開かれた広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式のあいさつで「核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くします」などと誓う部分を読み飛ばした。その結果、本来予定していた「核兵器の非人道性」、「唯一の戦争被爆国」などのキーワードが現地での読み上げから欠落した(以下「本件読み飛ばし」という。)。

 このことについて菅総理は、同日の記者会見で「この場をお借りしてお詫び申し上げる」と発言し、「のちほど全文を配る」と陳謝を行った。

 広島被爆者団体連絡会議事務局長の田中聡司氏は、「不勉強かつ不誠実。菅首相の基本的な姿勢が表れたのだと思う」と憤りを見せたという。このように本件読み飛ばしは、被爆地広島の多くの人々に深い失望を与えている。

 これについて、同日、共同通信は、政府関係者が、菅総理が本件読み飛ばしを行った原因について、原稿を貼り合わせる際に使ったのりが予定外の場所に付着し、めくれない状態になっていたためだと明らかにしたことを報じている。

 政府関係者は、これは「完全に事務方のミスだ」と釈明し、原稿は複数枚の紙をつなぎ合わせ、蛇腹状にしていたが、つなぎ目にはのりを使用しており、蛇腹にして持ち運ぶ際に一部がくっついたため、めくることができない状態になっていたという。

 令和三年九月、ジャーナリストの宮崎園子氏は、広島市情報公開条例に基づき、広島市長宛てに提出した公文書開示請求に対する開示決定がされたとの連絡を受け、広島市公文書館で、同年八月六日に菅総理が広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式で読み上げた挨拶文の原本そのもの(以下「本件挨拶文原本」という。)を確認した。

 本件挨拶文原本は、「A4サイズの和紙のような薄紙を、横に七枚並べたもの」で、「会議室の横長の会議机からはみ出る長さ。二メートルほどあった。紙と紙の継ぎ目部分は、幅約二センチの同材質の紙を裏側からのりのようなものでくっつけた形状だった。挨拶は縦書きで、三行分ごとに折り畳んである。「御霊」「哀悼」「焦土」「尊さ」などの単語には、丁寧にルビが振られて」いた。宮崎氏が「本当にのりの不具合があったのだろうか。入念に挨拶文を観察した」ところ、「紙と紙の間を接続する細い紙は、表面ではなくて裏面に貼り付けてある。万が一のりがはみ出したとしても、裏面同士がくっついてしまう構造であるため、蛇腹をめくれない状態になどならない。接続部分をよく見てみると、たるみやシワ、うねり、ズレが何一つなく、ピシッとのり付けがされている。貼り付け部分からのりがはみ出した形跡もまったくない。ましてや、くっついてしまった部分を無理にはがした跡もなかった」。

 また、宮崎氏は「挨拶が済んだら、挨拶文は広島市の取得(入手)文書になる。読み飛ばしが発覚した時点で、「政府関係者」はその状態を見られるはずがない。どうして「のりが付着していた」などという説明ができるのか」との疑問を呈している。

 右を踏まえて、以下質問する。

一 本件挨拶文原本は、公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)第二条第四項でいう「行政機関の職員が職務上作成し」たものであるという理解でよいか。

二 前記一に関連して、本件挨拶文原本は、公文書管理法第二条第四項でいう「この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し」たものだが、広島市が既に取得し「当該行政機関が保有しているもの」に当たらない可能性がある。本件挨拶文原本は「行政文書」であるとの理解でよいか。そうでないとしたら、本件挨拶文原本ならびに首相官邸ホームページ等に掲載されている本件挨拶文はそれぞれどのような法的性質を持つのか。政府の見解如何。

三 本件読み飛ばしが生じた原因について、「完全に事務方のミスだ」、「のりが付着していた」などとされる事実はあったのか。政府の見解如何。

四 岸田総理は所信表明演説で、「被爆地広島出身の総理大臣」であることを強調しているが、本件読み飛ばしは被爆地広島の多くの人々に深い失望を与えた。本件読み飛ばしが生じた原因はどのような理由であると政府は考えているのか。「被爆地広島出身の総理大臣として」誠実かつ具体的に示されたい。

五 本件挨拶文原本について、「挨拶が済んだら、挨拶文は広島市の取得(入手)文書になる」ことは事実か。菅総理が読み終えた後は、本件挨拶文原本を壇上に置いて帰ったのか。政府の見解如何。

六 前記三ないし前記五に関連して、本件挨拶文原本を壇上に置いて帰ったとすれば、事後に政府がその本件読み飛ばしの理由を確認することができないのではないか。政府の見解如何。

七 本件挨拶文原本は、菅総理が読み、壇上に置いて帰ったあと、政府の職員が手を触れた事実はあるか。また、のりの付着を除去した事実はあるか。政府の見解如何。

八 本件挨拶文原本は「行政機関の職員が職務上作成し」たものと推認するが、その作成は政府内のどの部署が行ったのか。特にその「紙と紙の間を接続する細い紙は、表面ではなくて裏面に貼り付けてある」とされるが、「接続部分をよく見てみると、たるみやシワ、うねり、ズレが何一つなく、ピシッとのり付けがされて」いたと宮崎園子氏は報告しているが、かかる作業を政府内の誰が行ったのか。具体的に示されたい。

九 本件挨拶文原本は、菅総理が広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式で読み終えるまでは、公文書管理法第二条第四項でいう「行政文書」に該当すると推認するが、総理秘書官などが直前に確認し、菅総理が本件挨拶文原本を読むことに支障がないことを確認したのか。

十 岸田総理は、「被爆地広島出身の総理大臣」であることを強調し、「私が目指すのは、「核兵器のない世界」で」あり、「唯一の戦争被爆国としての責務」を果たすことと発言されているが、本件読み飛ばしは被爆地広島の多くの人々に深い失望を与えている。また、菅総理が広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式で読み終えるまでは、本件挨拶文原本は公文書管理法第二条第四項でいう「行政文書」に該当すると推認できる。岸田総理は、菅総理から政権を引き継いだ政治責任もあり、本件読み飛ばしについて軽んじるべきではなく、どのような経緯であったのかを明らかにして、陳謝すべきではないか。岸田総理の見解如何。

  右質問する。