質問主意書

第204回国会(常会)

質問主意書


質問第一二二号

「プロサバンナ事業」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年六月十五日

井上 哲士


       参議院議長 山東 昭子 殿



   「プロサバンナ事業」に関する質問主意書

 二〇〇九年九月に日本・ブラジル・モザンビークの間で調印された「三角協力による熱帯サバンナ農業開発計画」(以下「プロサバンナ事業」という。)は、モザンビーク北部(三州十九郡)を対象に、ProSAVANA―PI/PD―/PEMの三つの技術協力プロジェクトを通じて進められてきた。

 しかし、二○一二年九月、事業対象地の小農が加盟するモザンビーク最大の小農組織・全国農民連合(UNAC)が事業に反対を表明し、この問題は国会でも取り上げられてきた。しかし事態は改善されず、「モザンビーク弁護士会(OAM)」が、事業対象地住民やモザンビーク市民の訴えに基づき、モザンビークのマプト市行政裁判所に訴えを起こした(訴訟番号第百二十番/2017―CA)。裁判の結果、二○一八年八月八日に、モザンビーク最高裁判所によって農業省に通知されたマプト行政裁判所による判決では、プロサバンナ事業並びに「プロサバンナ調整室を所管するモザンビーク農業食料安全保障省(以下「農業省」という。)」が憲法並びに国内法に違反しているとの弁護士会の訴えを、「裁判官全員一致で受け入れる」との判決が下された(地裁判決番号第三十番/TACM/18。以下「判決」という。)。

 以降、約二年に渡りプロサバンナ事業は継続されていたが、二〇二〇年七月二十一日、何ら説明もないままに、駐モザンビーク日本大使館のホームページ上で「「ナカラ回廊農業開発におけるコミュニティレベル開発モデル策定プロジェクト(PEM)」の終了をもって、プロサバンナ事業を完了することを確認しました」と発表された。

 以上を踏まえ、以下質問する。

一 プロサバンナ事業に関する支出額等

1 二〇一九年度のPD、PEMの拠出額ならびにそれぞれの日本のコンサルタント企業への拠出があれば金額を示されたい。

2 二〇二〇年度のPD、PEM支出額について、「「プロサバンナ事業」に関する質問主意書」(第二百一回国会質問第一五九号)に対する答弁書(内閣参質二〇一第一五九号。以下「前回答弁書」という。)において、質問「四の2」への答弁として「令和二年六月十七日時点で確認している範囲では、ないと承知している」とあるが、それ以降に確認された二〇二〇年度の支出があれば、それぞれの支出額を期間とともに示されたい。また、同年度のもともとの「予算」計上の有無について示し、計上されていた場合、それぞれの金額と対象期間を示されたい。

3 二〇一九年度および二〇二〇年度における「プロサバンナ調整室」関連の資金拠出額をそれぞれ明らかにされたい。また、プロサバンナ事業終了後の二〇二〇年七月以降は、資金拠出はないものと理解してよいか。違っていれば、いつまで、どのような理由で拠出していたのかを明らかにされたい。

4 JICAが人材派遣会社を通じて「プロサバンナ調整室」に派遣していたスタッフ(Eduarudo Costa氏)に関連した資金拠出(人材派遣会社との契約金額、その他)について、二〇一九年度ならびに二〇二〇年度それぞれの月額契約金額ならびに年間拠出額を明らかにされたい。また、同スタッフとの契約期間について明らかにされたい。契約を終了しているか継続しているかについて明らかにするとともに、その理由についても示されたい。

二 プロサバンナ事業のマスタープランについて

1 PDにおいて策定してきた事業のマスタープランについては、農業省が運営するウェブサイト上で、二〇一六年十一月十一日付で「Disclosure of the Master Plan Provisional Version」として公開したもの(https://www.prosavana.gov.mz/disclosure-of-the-master-plan-provisional-version/)が最新版と理解してよいか(現在、当該ホームページは「停止(suspended)」とされている。)。違う場合は、いつ作成されたどのバージョンかを明らかにされたい。なお、Provisional Version(当該ホームページ上には「Provisional Draft of Master Plan」とも説明があり、ダウンロードしたデータの表紙には「Draft Version」とある)には日付が入っていないため、作成日(成果物として完成させた日)を明らかにされたい。また、日本語への翻訳(参考訳)の最新版が、二〇一五年六月にNGO側に提出された「平成二十七年三月 ドラフトマスタープラン バージョン0」であるかについて明らかにされたい。違う場合は、いつ作成されたどのバージョンが日本語への翻訳(参考訳)の最新版かを明らかにされたい。

2 前記二の1に関連して、現存するマスタープランは、「暫定版」あるいは「ドラフト」であり完成されていないという理解でよいか。その場合、約八年をかけて完成していない理由は何か。あるいは完成している場合、いつ誰によってどういう経緯で完成されたのかを具体的に明らかにされたい。

三 プロサバンナ事業に関するモザンビークの裁判所による判決への外務省・JICAの対応

1 二〇一八年八月八日の判決に対する日本政府・JICAとしての対応ついて、訴訟の対象が、JICAが資金(税金)を投じてきた「プロサバンナ調整室」だったにもかかわらず、外務省はこれまで「モザンビーク政府を当事者とする行政裁判であり、同国政府によって適切に対応されるものと考えている。」との答弁を繰り返してきた(内閣参質二〇〇第九七号、内閣参質二〇一第一五九号)。これはすなわち、判決を受けて、外務省ならびにJICAとして何ら対応をしてこなかったという理解でよいか。違う場合は、いつ何について誰に対しどのように対応をされたのか具体的に示されたい。

2 プロサバンナ事業については、二○一七年四月に、事業対象地の住民十一名が行った、JICA環境社会配慮ガイドラインに基づく異議申立に対し、日本の三名の審査役による「調査報告」が二○一七年十一月一日に発表され「JICAのガイドライン違反は認められないと判断する」との結論が導かれている。調査報告後には、「審査役」はJICAに対し、年に一度の「レポート」において異議申立審査のフォローアップを行うことになっており、担当部署(農村開発部とアフリカ部、現地事務所)へのヒアリングがなされたことが記されているが、現在まで同「レポート」には、裁判ならびに判決についての言及は一切ない。これを受けて、担当部署が、審査役(事務局を含む)に、①「モザンビーク弁護士会(OAM)」により「プロサバンナ調整室を所管する農業省」が憲法並びに国内法に違反しているとしてマプト行政裁判所に訴えを起こしたこと、②これに対し「モザンビーク共和国の名において判決を下す。マプト市行政裁判所は、裁判官全員一致で、原告「モザンビーク弁護士会(OAM)」による訴えを受け入れる。この結果を受けて、被告である農業食料安全保障省に対して、市民の自由と権利を侵害する可能性のある計画・活動および決定に関する公益に関する情報―特にプロサバンナ事業によって影響を受けるコミュニティの土地・食料安全保障・栄養に関連する情報―の全面開示を命じる。開示までの期間は十日以内とする」との判決が下されたことを伝えたか否かについて、明らかにされたい。伝えていない場合にはその理由を示されたい。

四 JICAホームページでの小農リーダーへの名指し非難

 プロサバンナ事業に関連し、判決を受けて、日本に来日したモザンビーク最大の小農運動のリーダー(事業対象地住民)に対し、二〇一九年九月二〇日、JICAは「モザンビーク国プロサバンナ事業に関する一部報道について」との文章をJICAホームページに掲載した。これは名指しの非難文章であり、公的機関による人権侵害として、多くの国会議員、本邦NGO関係者、市民が、繰り返し抗議してきたが、JICAは取り下げを拒んできた。前回答弁書では、質問五に対する答弁で「お尋ねの「文章」については、JICAが認識している熱帯サバンナ農業開発プログラムの事実関係及びJICAの見解等を記載したものであると承知している」と答弁している。だが、事業終了直後に当該ホームページから削除されている。これについて、具体的にいつ何の理由でどのような判断があり取り下げたのか明らかにされたい。

  右質問する。