質問主意書

第204回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇二号

いわゆる名ばかり事業主問題を始めとするフリーランスの就業状況の改善に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年六月十一日

牧山 ひろえ


       参議院議長 山東 昭子 殿



   いわゆる名ばかり事業主問題を始めとするフリーランスの就業状況の改善に関する質問主意書

 現在、政府はフリーランス(個人事業主)の拡大を推進している。二〇二〇年七月十七日に閣議決定した「成長戦略実行計画」の中でも、フリーランスは、多様な働き方の拡大、ギグエコノミーの拡大などによる高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などの観点からも、その適正な拡大が不可欠であると述べられている。

 しかしながら、このフリーランスとしての就業については、プラスの側面ばかりではない。個人事業主には原則、労働基準法が適用されないことから、残業代未払い、休憩なしの長時間労働、最低賃金以下といった「働かせ放題」が一部でまかり通っている実態がある。労働者ならば適用を受ける保護ルールに守られない、いわば無防備な状態に放置されている。

 委託の諾否に関する選択肢や受託業務の処理に対する自由な裁量、それに加えて委託者(委託企業)に対する価格交渉力を有しているフリーランスであれば問題は深刻化しないかもしれないが、そのようなタイプのフリーランスは多くはない。

 これらの状況を前提に、以下質問する。

一 働き方改革や同一労働同一賃金を推進しても、個人事業主の働き過ぎや正規雇用に比較しての低報酬などについても目配りを行わないと、我が国全体としての就業状況の改善という意味で課題が残ると考える。

1 個人事業主の就業時間や報酬水準の傾向について政府は把握をしているか。把握している場合には、その大要を示されたい。

2 この問題提起に関する政府の認識を伺う。

二 さらに深刻なケースとしては、使用側(依頼側)が個人事業主に対する業務委託という契約形態を悪用するケースもある。実態が雇用であるにもかかわらず、個人事業主との業務委託という契約形態をとることにより、残業代を支払わず長時間就労させる等、労働法の保護ルールを潜脱するばかりか、社会保険や労働保険に加入させずに会社負担の法定福利費を浮かすという、いわゆる名ばかり事業主とも言うべき事例である。

1 このような事例が頻発することは、労働者保護を空文化するばかりか、公正な企業間競争を確保するという労働法の重要な機能を阻害し、コンプライアンスを遵守する企業が不公正な企業間競争を強いられるという弊害もある。これらも含め、社会的にも極めて弊害が大きいと考えるが、この問題に関する政府の認識を示されたい。

2 このような事例に対する積極的な指導や取締りを政府は行うべきと考えるが、政府の見解を伺う。また、現在このようなケースに対して労働局はどのような対応を行っているか。「契約形態が雇用契約ではない」との理由で調査等を行わないケースはないか示されたい。

3 労働法や保険関係法規の適用を受ける「労働者」であるかないかは契約内容に関係なく実態を見て判断するとされている。すなわち、労働者が、労働基準法で与えられる労働者に対する保護(会社に対する規制)は、当事者間で合意しても、脱法の意図はなかったにしても、適用を免れることはできない。業務内容や実質から、労働者か個人事業主か否かの見極めが行われる。これは、契約の形式では決まらず、指揮監督下の労働か否か、報酬の労務対償性があるか、事業者性があるかどうか、専属性の程度など、総合的に事情を勘案して個別にその実態で判断されるとされている。

 この事実に関し、関係者が正確な知識を持たず、事態の解決から遠ざかるケースもままある。このような違法状態を改善するためには、経営者側、就労者側の双方が労働法の正確な知識を持つ必要があると考える。これに関する政府の認識と対策について示されたい。

三 労働問題の解決に携わる団体からは、コロナ禍により正社員やパートなどの雇用労働者を強制的に業務委託契約に転換させる「偽装請負」など、脱法的フリーランス化の動きもあるとの懸念が示されている。この懸念に関する政府の認識を明らかにされたい。

四 総務省の国勢調査によると、「雇用的自営」が大幅に増加している。「雇用的自営」とは、契約上は自営(個人事業主)であるものの特定の発注者との関係が強く、「雇用」の要素が強い働き方をいう。この増加傾向に合わせた新たな保護の枠組みが必要ではないか。政府の見解を伺う。

  右質問する。