質問主意書

第204回国会(常会)

質問主意書


質問第五二号

プラスプーン等無料配布行為の罰金に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和三年四月六日

浜田 聡


       参議院議長 山東 昭子 殿



   プラスプーン等無料配布行為の罰金に関する質問主意書

 令和三年三月九日、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案が閣議決定された。同法案によれば、同法第三十条第四項又は第四十六条第五項の規定による命令に違反する行為(以下「プラスプーン等無料配布行為」という。)には五十万円以下の罰金に処せられる。

 我が国の法令が「五十万円以下の罰金に処する」ことを相当程度の重罪であるととらえていることは、他の法令と比してみれば明らかである。プラスプーン等無料配布行為がこれに比肩するほどの重罪であるとは到底言えないことは国民感情を考えれば明らかであるが、政府はそう考えていないようである。

 そこで、他の法令との比較に関し以下のとおり質問する。

一 ガス、火薬又は危険物の漏えい、飛散、流出等の事故が発生した場合において、当該事故により火災が発生するおそれが著しく大であり、かつ、火災が発生したならば人命又は財産に著しい被害を与えるおそれがあると認められるときは、消防長又は消防署長は、火災警戒区域を設定して、その区域内における火気の使用を禁止することができる。この禁止命令に従わず、火災警戒区域内にて火気を使用し、多数の人命を危険にさらした者に対する罰則は消防法第四十四条第十九号によれば三十万円以下の罰金又は拘留である。

1 政府は、なぜ消防長又は消防署長の命令を無視して多数の人命を危険にさらす行為より、プラスプーン等無料配布行為のほうが重罪であると考え、罰金額の上限を約一・六倍にすることが相当であると考えたのか。政府の見解如何。

2 政府は、消防長又は消防署長による火災警戒区域内に対する火気使用禁止命令など、プラスプーン等無料配布行為をなくすことより約一・六倍価値がないものと考えているのか。政府の見解如何。

二 新型コロナウイルスの影響によって休業になったにもかかわらず、使用者から休業手当が支払われない労働者が多かったために、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」が創設されるまでの間、多くの労働者が激減した収入に対する補償が何もなく、苦しい生活を余儀なくされたことは記憶に新しい。労働基準法第百二十条はこのような不当に休業手当を支払わない事業者に対し三十万円以下の罰金を科すことによって、労働者に休業手当が支払われない状態を回避しようとしている。

1 政府は、なぜ事業者が不当に休業手当を支払わないことに比して、プラスプーン等無料配布行為のほうが重罪であると考え、罰金額の上限を約一・六倍にすることが相当であると考えたのか。政府の見解如何。

2 政府は、不当に休業手当を支払わない企業に対し法令どおり休業手当を支払わせることより、プラスプーン等無料配布行為をなくすことのほうが約一・六倍重要であると考えているのか。政府の見解如何。

3 労働基準法第百二十条はこの他に所定の期日に賃金を支払わないことに対しても事業者に対し三十万円以下の罰金を科している。この賃金には、時間外労働に対する賃金も含まれるのである。政府は、法令及び就業規則等労使が合意した条件のとおりに時間外労働に対する賃金を支払わせることより、プラスプーン等無料配布行為をなくすことのほうが約一・六倍重要であると考えているのか。政府の見解如何。また、政府がそのような姿勢だから、我が国から労働法規を守らない事業者が一向に減らないのではないか。政府の見解如何。

三 先日、無料通信アプリLINE利用者の個人情報が、中国の関連会社で閲覧できる状態になっていたことに対し、平井卓也デジタル改革担当相が「大変脅威に思う」と述べたことは当然である。さて、日本電信電話株式会社の株式が議決権ベースで三分の一以上を、中国を含む外国政府に取得されれば、我が国の情報通信事業においてLINEの個人情報が漏出するよりはるかに脅威であるが、それを防ぐのが日本電信電話株式会社等に関する法律第六条による外国政府等に対する株式取得制限であり、この法律に反して外国政府等を株主名簿に記載すれば、同法第二十四条において五十万円以下の罰金が科される。

1 政府は、なぜ日本電信電話株式会社の株主名簿に議決権ベースで三分の一以上を、中国を含む外国政府を記載する行為と、プラスプーン等無料配布行為が同程度の犯罪であり、 五十万円以下の罰金を科すことが相当であると考えたのか。政府の見解如何。

2 政府にとっては、日本電信電話株式会社の株主総会において外国政府が三分の一以上の議決権を行使することと、プラスプーン等無料配布行為を阻止する行為の重要度は同程度と考えているのか。政府の見解如何。

四 家畜伝染病の急速かつ広範囲なまん延は国民生活にとって脅威である。家畜伝染病予防法によれば、都道府県知事は家畜伝染病のまん延を防止するため、必要があるときは、家畜防疫員に、同法第三十一条及び農林水産省令で定める方法により家畜の検査、注射、薬浴又は投薬を行わせることが可能であり、農林水産大臣は、同法第四十六条第一項の検査の際、届出伝染病の病原体により汚染し、又は汚染しているおそれがあると認められた動物その他の物につき、農林水産省令の定めるところにより、その所有者に対し、これらを隔離し、若しくは消毒すべき旨を命じ、又は家畜防疫官に隔離、注射、薬浴、投薬若しくは消毒を行わせることができる。これらが罰則のない義務とすれば家畜伝染病の急速かつ広範囲なまん延が防げないことは自明の理であり、これらの行為に対し強制性を担保しているのが同法第六十八条による罰則である。

1 政府は、なぜ届出伝染病の病原体により汚染し、又は汚染しているおそれがあると認められた動物その他の物に対する農林水産大臣の隔離・消毒命令に従わないことや、家畜防疫員ないし家畜防疫官が行う検査、注射、薬浴又は投薬を拒み、妨げ、又は忌避することに比して、プラスプーン等無料配布行為のほうが重罪であると考え、罰金額の上限を約一・六倍にすることが相当であると考えたのか。政府の見解如何。

2 政府は、届出伝染病の病原体により汚染し、又は汚染しているおそれがあると認められた動物その他の物に対する農林水産大臣の隔離・消毒命令に従わないことや、家畜防疫員ないし家畜防疫官が行う検査、注射、薬浴又は投薬を拒み、妨げ、又は忌避することは、プラスプーン等無料配布行為より約一・六倍重要ではないと考えているのか。政府の見解如何。

3 家畜伝染病にかかった家畜を消毒しない行為は、プラスプーン等無料配布行為よりはるかに罪が軽い行為とも解釈できる閣議決定までしてアナウンスした効果は、家畜伝染病が発生した地域に対するブランドイメージの回復を阻害し、ひいては、我が国の畜産業に対する諸外国の信頼を毀損する行為であると考えるが、政府の見解如何。また、食料・農業・農村基本計画(令和二年三月三十一日閣議決定)には、農林水産物・食品輸出本部の下で、「輸出阻害要因に対応して輸出拡大を図る体制を強化し、放射性物質や動植物検疫に関する輸入規制の緩和・撤廃をはじめとした食品安全等の規制等に対する輸出先国との協議の加速化、国際基準や輸出先国の基準の策定プロセスへの戦略的な対応、輸出向けの施設整備と施設認定の迅速化、輸出手続の迅速化、意欲ある輸出事業者の支援、輸出証明書の申請・発行の一元化、輸出相談窓口の利便性向上、輸出先国の衛生基準や残留基準への対応強化等、貿易交渉による関税撤廃・削減を速やかに輸出拡大につなげるための環境整備を進める。」とある。家畜伝染病にかかった家畜を消毒しない行為は、プラスプーン等無料配布行為よりはるかに罪が軽い行為であると規定することは、まさに我が国の検疫体制に対する不信を招くものに他ならず、輸出阻害要因とならないか。政府の見解如何。

五 液化石油ガス販売事業者は火災予防のため、その事業所内の指定する場所で火気の使用を禁ずることができる。この火気使用禁止の強制性を担保しているのが高圧ガス保安法第三十七条による火気等の制限であり、同法第八十二条によると、液化石油ガス販売事業者が指定する火気使用禁止を無視して火気を使用した者には五十万円以下の罰金が科せられる。

1 政府は、なぜ液化石油ガス販売事業者が指定する火気使用禁止を無視して火気を使用する行為と、プラスプーン等無料配布行為が同程度の犯罪であり、 五十万円以下の罰金を科すことが相当であると考えたのか。政府の見解如何。

2 液化石油ガス販売事業者にとって、自らが指定する火気使用禁止区域を無視して火気を使用される行為は、液化石油ガス販売事業者の人命及び財産をいたずらに危険にさらす、まさに許すべからざる行為である。政府にとっては、液化石油ガス販売事業者の人命及び財産と、プラスプーン等無料配布行為を阻止することは同程度の重要性であると考えているのか。政府の見解如何。

六 憲法第二十六条第一項は国民に対する教育を受ける権利を保障し、これを担保すべく、同条第二項は、国民に対し、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を課している。教育を受ける権利を保障すべく、学校教育法第十七条は保護者に対し、小学校や中学校等に就学させる義務を負わせ、その履行の督促を受けてもなお従わない者には、同法第百四十四条により、十万円以下の罰金が科せられる。

1 政府は、なぜ憲法上の義務である普通教育を受けさせる義務の督促を受けてもなお従わないことに比して、プラスプーン等無料配布行為のほうが重罪であると考え、罰金額の上限が五倍の罰金を科すことが相当であると考えたのか。政府の見解如何。

2 学校・教育委員会等向け虐待対応の手引き・本体(令和二年六月改訂版)二ページにおいて、「子供を学校に通学・通園させない」ことは「いわゆる教育ネグレクト」であり、虐待の一種とされている。虐待が及ぼす子供への影響は身体・知的発達・心理にわたり広範囲であることは周知のとおりである。そのため、教職員、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、児童相談所等は連携して、教育ネグレクトを早期発見、阻止するため日夜努力しているのである。これらの努力の結晶が義務教育機関の長等による就学督促である。この就学督促に反する行為を、プラスプーン等無料配布行為より五倍軽い罪であると規定することは、教育ネグレクトを行う親に対して、子供を学校に通学・通園させない行為がプラスプーン等無料配布行為より悪い行為ではない旨の口実を与えることになり、ひいては、教育ネグレクトなどは大したことではないという誤った理解が広がり、憲法第二十六条が規定する権利実現を後退させないか。政府の見解如何。

七 原子力規制委員会は、原子力事故調査に際し、原子力規制委員会設置法第二十三条に基づき、関係者に出頭を求めて質問することや、原子力事業所その他の原子力事故の現場、原子力事業者の事務所その他の必要と認める場所に立ち入って、帳簿、書類その他の原子力事故に関係のある物件を検査し、試験のため必要な最小限度の量に限り、核原料物質、核燃料物質その他の必要な試料を収去することができる。この原子力事故調査の強制性を担保しているのが同法第三十条であり、原子力規制委員会が行う原子力事故調査による検査若しくは試料の提供を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はこれらの規定による質問に対し虚偽の陳述をした者には、三十万円以下の罰金が科せられる。

1 政府は、なぜ原子力事故調査による検査若しくは試料の提供を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はこれらの規定による質問に対し虚偽の陳述をしたことに比して、プラスプーン等無料配布行為のほうが重罪であると考え、罰金額の上限を約一・六倍にすることが相当であると考えたのか。政府の見解如何。

2 原子力事故調査を原子力規制委員会が行うことは相当程度重大事態であり、事業者がこれらの調査に協力しない若しくは虚偽の陳述を行うことは、我が国の原子力事業に対する信頼を著しく毀損する行為であるが、これらの行為は、政府にとっては、プラスプーン等無料配布行為より約一・六倍重要ではないと考えているのか。政府の見解如何。また、このような政府の感覚と国民感覚の著しい乖離こそが、政府の原子力行政に対する不信を招いているのではないか。政府の見解如何。

 なお、本質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、転送から七日以内での答弁は求めない。国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から四十五日以内には答弁されたい。

  右質問する。