質問主意書

第203回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二号

菅義偉内閣総理大臣が「日本学術会議」が推薦した会員候補百五名のうち、六名の任命を見送ったことに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年十一月十一日

鈴木 宗男


       参議院議長 山東 昭子 殿



   菅義偉内閣総理大臣が「日本学術会議」が推薦した会員候補百五名のうち、六名の任命を見送ったことに関する質問主意書

 本年十月一日、日本共産党中央委員会機関紙「しんぶん赤旗」一面に「菅首相、学術会議人事に介入」という見出しの記事(以下「しんぶん赤旗記事」という。)が掲載され、日本学術会議が推薦する会員候補六名を菅義偉内閣総理大臣が任命しなかったと報道された。
 菅義偉内閣総理大臣は、本年十月九日インタビューや十月二十八日から三十日の衆参両院での本会議代表質問、両院予算委員会においても一貫して、「過去の国会答弁は承知しておりますが、憲法第十五条第一項は、公務員の選定は国民固有の権利と規定しており、日本学術会議の会員についても、必ず推薦のとおりに任命しなければならないわけではないという点については、内閣法制局の了解を得た、政府としての一貫した考えであります。今回の任命は、任命権者たる内閣総理大臣が、その責任をしっかりと果たしていく中で、日本学術会議の推薦に基づいて任命を行ったものであります。その上で個々人の任命の理由については、人事に関することであり、お答えを差し控えますが、任命を行う際には、総合的、俯瞰的な活動、すなわち、専門分野の枠にとらわれない広い視野に立ってバランスのとれた活動を行い、国の予算を投じる機関として、国民に理解される存在であるべきということ、更に言えば、例えば民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りが見られることも踏まえて、多様性が大事だということを念頭に、私が任命権者として判断を行ったものであります」との旨を答えている。
 以上を踏まえ、質問する。

一 日本学術会議には、国家予算が年間約十億円計上されていると承知するが、予算の詳細を明らかにされたい。

二 日本学術会議の会員は、会員と連携会員に分けられているが、各会員の人数、役割を明らかにされたい。

三 日本学術会議には国家公務員である職員が五十人いると承知しているが、それぞれの役職、役割は如何。

四 日本学術会議は、年間を通して主にどのような活動をしているのか。

五 日本学術会議は内閣総理大臣が所轄する内閣府の特別機関であり、政府が介入することは当然であると考えるが、政府としての見解は如何。

六 日本学術会議は、どのような基準、方法で百五名を選出したのか、詳細を明らかにされたい。

七 日本学術会議法第十七条の規定には「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする」とある。日本学術会議が規定に基づき、推薦する百五名の会員候補リストを提出し、菅義偉内閣総理大臣が決裁に至るまで、一連の手続きの詳細、関わった者の官職、氏名を明らかにされたい。

八 日本学術会議が推薦した会員候補に関する内容を、最初に問題だとして取り上げたのは、本年十月一日しんぶん赤旗記事であると承知するが、この記事の内容は事実であるか、事実と異なるか、政府としての認識は如何。

九 しんぶん赤旗記事の日本学術会議に関する記事の内容について、日本共産党が何処から入手した情報であるか、政府として把握しているか。

十 しんぶん赤旗記事の内容は本年九月三十日までの取材内容と承知する。日本学術会議会員の任命は十月一日発令であることから、記事内容は情報漏洩となり、国家公務員法第百条第一項「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」に該当し、国家公務員法違反になると考えるが、政府の見解は如何。

十一 日本学術会議が推薦した六名の任命を見送ったことについて、一部の学者が「学問の自由の侵害」と批判している。また、日本共産党の志位和夫委員長は本年十月二十九日の衆議院本会議代表質問で「基本的人権の侵害」とまで述べている。「任命の是非」と「学問の自由の侵害」、「基本的人権の侵害」は、全く別の問題であると考えるが、政府の見解は如何。

十二 本年十月二十八日の衆議院本会議代表質問において、立憲民主党の枝野幸男代表は、「憲法六条一項は、「天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する。」と規定しています。基づいて任命するという法的な構造は全く同じです。学術会議の任命に、総理による実質判断の余地を認めたら、内閣総理大臣の任命についても、陛下による実質判断の余地が生じてしまいます。」と述べられた。「日本学術会議が会員候補を選定する事」と「国民から選ばれた国会議員が内閣総理大臣を選ぶ事」は全く別の話であり、「基づいて、任命する」という言葉だけを引用して、「日本学術会議が推薦する会員候補の任命」と「天皇陛下が内閣総理大臣を任命」する事を比較するのは、的確ではないと考えるが、菅義偉内閣総理大臣の見解は如何。

十三 日本学術会議の会員の選出にあたり、推薦する側と任命する側がいることから、任命権者の判断があって当たり前であり、一部野党や一部学者が騒動を大きくすることが不自然と考えるが、政府の見解は如何。

十四 一部野党が騒動を大きくすることで、何かの思惑、特定の意図があるのではないかと思われるような印象、受け止めをされてしまうと考えるが、政府としての見解は如何。

十五 昭和五十八年五月十二日、参議院文教委員会において、中曽根康弘内閣総理大臣(当時)が「学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません。したがって、実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので、政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば、学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております」と発言されている。また、同年十一月二十四日、同委員会において、丹波兵助総理府総務長官(当時)が日本共産党の吉川春子君の質問に対し、「学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけの任命をしていく」と述べられている。菅総理は本年十月二十九日衆議院本会議の中で日本維新の会の馬場伸幸君への質問に対し、「国民に理解されるよりよい組織となるよう、未来志向で梶田会長と議論を続けていきたいと考えております」と述べられている。中曽根総理、丹波総理府総務長官の発言を引き合いに、一部の野党が、菅総理が任命しなかったことに「違法」又は「学問の自由の侵害」と批判することは的確ではなく、内閣府所轄である以上、これまで形式的に任命してきたことこそが無責任であり、悪しき慣例であって、見直していく必要があると考えるが、政府の見解は如何。

十六 日本学術会議は、昭和二十五年「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明(声明)」をし、昭和四十二年にも同様の声明を発表。平成二十九年には三度目の声明を発表し、昭和二十五年、昭和四十二年の声明を継承している。この背景には「科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった」とされていることから、過去に特定の政党や政治目的に事実上加担し、組織的に活動してきたことを示している。また、平成二十九年に三度目の声明を出したということは、少なくとも組織的活動が続いていたことを声明が証明していると承知する。この日本学術会議の組織的活動こそが「学問の自由を侵害」しているのではないかと考えるが、政府の見解は如何。

十七 日本学術会議の会員選考にあたり、選考システムが閉鎖的であることが背景にあると考える。本年十月十六日毎日新聞朝刊三面「会員後継者指名難しく」という記事の中でも、元幹部は選考について、「えこひいきが無いとは言い切れない」、「自分の弟子を引っ張ってきたり、悪いところが無いとは言えない仕組みだ」と指摘している。菅総理は、本年十一月四日の衆議院予算委員会、日本共産党の志位委員との質疑の中で「新しい会員を選ぶについて、九十万人も研究員がいる中であって、連携会員二千人と約二百人の会員と何らかのつながりを持っていなければ会員になれないということも、これは事実じゃないですか。今年の会員を見てみますと、連携会員から上がった人が七割で、会員、連携会員の推薦者が残りを占めているんじゃないでしょうか」との旨を述べ、更には「閉鎖的、既得権のようになっていると言われても仕方がないと思います」との旨を答弁している。また、菅総理は任命を見送ったことについて一貫して「前例踏襲でよいのか考えた結果」である旨を答弁している。日本学術会議は国民の税金を投入している組織であり、会員は公務員となることから、菅総理が発言されているように、人選にあたって「閉鎖的」、「既得権益」にならないよう、日本学術会議が推薦する会員候補を選考する全ての過程を明らかにし、国民に知らしめることは最も重要だと考えるが、政府の見解は如何。

十八 本年十一月七日東京新聞に「事前調整巡り山極前会長反論「直接会うことも電話も断られた」」という記事の中で、政府と日本学術会議の間で人事の事前調整がなかったのが、会員候補六人の任命拒否の理由だとする菅総理の国会答弁を巡り、山極前会長は「事前調整というのは、相互が話をして調整するもの。私は(杉田和博官房副長官と)直接会うことも電話で話をすることも、事務局長を通じて断られた。話し合いたいとの官邸からの誘いもなかった」と反論している。また、「(内閣府日本学術会議事務局の)事務局長は百五十人の(推薦者)名簿を提出前に杉田さんに見せていると思う」と指摘しているが、山極前会長の話は事実であるか、政府の見解は如何。

十九 菅総理は日本学術会議が推薦した会員候補六名の任命を見送った理由について「人事に関わる事であり、答弁は差し控える」旨を答弁している。野党やメディアは「なぜ答えられないか」と批判しているが、「答弁を差し控える」は、菅総理が日本学術会議に推薦された会員候補の人格やプライバシーに配慮した答弁であり、質問に誠実に向き合い立派に答えられていると認識するが、政府の見解は如何。

  右質問する。