質問主意書

第203回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇号

諸外国のパートナーシップ制度のもとで出生した子の出生手続きに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年十一月十日

熊谷 裕人


       参議院議長 山東 昭子 殿



   諸外国のパートナーシップ制度のもとで出生した子の出生手続きに関する質問主意書

 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第二十四条第一項では、「婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による」と規定されている。さらに通則法第二十八条第一項で「夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする」と示されている。
 海外では年々これまでの婚姻制度に加えてパートナーシップ制度が法的に整備され、婚姻と同等あるいはその一部の権利を享受することができるようになっている。
 親子関係についても同様で、パートナーシップ制度のもとで出生した子どもについても婚内子と同様に父は母のパートナーと推定され、出生と同時に父としての権利と義務を負う国も多い。
 一九九四年に日本も批准した子どもの権利条約の第七条第一項では、「児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有する」とされている。さらに同条第二項では「締約国は、特に児童が無国籍となる場合を含めて、国内法及びこの分野における関連する国際文書に基づく自国の義務に従い、一の権利の実現を確保する」ことが強調されている。
 しかしながら、日本ではパートナーシップ制度が法的に認められていないために、日本人が他国の法に基づいてパートナーシップ婚をした場合に出生した子どもについて、戸籍記載をしようとするときに父は誰かという問題が生じる。
 外国でパートナーシップ制度を選択した日本人の中には、民法第七百七十二条のいわゆる離婚後三百日規定により日本法では前夫に嫡出推定が及ぶものの、外国法では婚姻内に生まれた子については後夫が父と推定されるため、嫡出推定が重なる。この場合は「父未定」として出生届を提出することも可能だが、後婚が法的婚でなくパートナーシップ制度を選択していると、日本ではそれが嫡出に当たるか否か、評価が定まっていないために「父未定」とされるか否かが判然としないため、子どもが無戸籍となっているケースが存在している。
 また、外国で生まれた日本人の子は生まれて三か月以内に出生届と国籍留保の届出を行わなければ、出生時に遡り日本国籍を失うことになる。現在のような出生届の受付の運用では出生から三か月以内に間に合わない場合もあるため、将来、子ども本人の意思で国籍を選ぶ権利が奪われることになる。
 このような現状は通則法第二十四条および第二十八条、さらには子どもの権利条約第七条に反すると考える。
 右を踏まえて、以下質問する。

一 パートナーシップ制度が法制化された国で、父子関係も「婚姻に準じて」決定されている場合、日本人母の子として戸籍記載をする際に、当該国の登録されているパートナーを子の父とみなすか。その法的根拠とともに政府見解を示されたい。

二 前記一に関連して、当該国の登録されているパートナーを子の父とみなさないとすれば、その法的根拠を示されたい。

三 日本人の母がフランス、ギリシャでパートナーシップ制度を利用し、パートナーとの間に子が生まれた場合、日本において出生届を提出するとき、そのパートナーを父と認めるのか。政府の見解如何。

四 日本人の母がフランス、ギリシャでパートナーシップ制度を利用し、その日本人の前夫との法的離婚後の三百日以内にパートナーとの間に子どもが生まれた場合、日本の法令に従えば前夫に嫡出推定がなされる。一方、すでに出生時にパートナーシップ制度で婚姻に準ずる身分を得たパートナーが子の父と推定され、当該国において出生登録が受理されている場合、日本での出生届を提出すれば嫡出推定が重なる。このような場合、日本での子どもの出生届の父欄は「父未定」という記載で受理することはできるのか。政府の見解如何。

五 海外で暮らす日本人が在外大使館、領事館で出生届に関する相談をする場合、十分な情報が与えられない現状がある。例えばイギリスで暮らしていた日本人女性は、二〇〇三年頃、前夫との離婚後、妊娠中に新たな婚姻届を提出しに在英国日本国大使館に行ったところ、「離婚後三百日以内のお子さんが生まれた場合、前のご主人の子として出生届を出していただくことになる」と示唆された。イギリスの法令には待婚期間の規定がなく、当時の法例第十七条の規定の適用を求めたものの、領事館の担当者に「これまで例外はなく、前夫の子としてしか出生届は受けつけていない。法務省に照会するまでもない」と言われ、対応を拒否された。以来二十年が経つが、民法第七百七十二条による無戸籍児家族の会(代表 井戸まさえ元衆議院議員)によれば、現在も同じような対応が行われており、当事者を不安に陥れるような当該運用は改善すべきであると考える。また、通則法第二十四条および子どもの権利条約にも反すると考えられる。政府として改善の方法を具体的に示されたい。

六 近年、無戸籍者ゼロタスクフォースが立ち上がり、省庁横断での無戸籍対策が進められているところ、海外在住日本人への支援の現状とその対策についても充実の必要性があると思われるが、政府の見解如何。

  右質問する。