質問主意書

第203回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五号

国家安全保障戦略としての新型コロナウイルス感染症対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年十月二十八日

熊谷 裕人


       参議院議長 山東 昭子 殿



   国家安全保障戦略としての新型コロナウイルス感染症対策に関する質問主意書

 「国家安全保障戦略」(平成二十五年十二月十七日 国家安全保障会議決定・閣議決定)では、「政府の最も重要な責務は、我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うすることである」と示されている。「国家安全保障戦略」は、「国防の基本方針について」(昭和三十二年五月二十日国防会議及び閣議決定)に代わるものであるため、伝統的な安全保障についての記述が多い。他方、「「人間の安全保障」に関する課題」についても章が割かれ、「グローバル化が進み、人、物、資本、情報等が大量かつ短時間で国境を越えて移動することが可能となり、国際経済活動が拡大したことにより、国際社会に繁栄がもたらされている」とした上で、「貧困、格差の拡大、感染症を含む国際保健課題、気候変動」への言及もなされている。
 令和二年一月二十八日、政令第十一号により、新型コロナウイルス感染症は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第六条第八項の指定感染症に定められた。
 本新型コロナ感染症との戦いは戦争であるという議論があるが、戦争ではないと考える。本新型コロナ感染症のウイルス(以下「本ウイルス」という。)はタンパク質の殻と核酸から構成され、生命の最小単位の細胞を持たない。つまり自らの意思はなく、宿主の細胞が誤って本ウイルスの遺伝子を取り込むことにより、自らを複製させることしかできない。戦争はある者が他者に自らの意思を武力等により強制するものであり、政治(国家の意思)に従属する。したがって、本ウイルスとの戦いは戦争ではない。
 しかしながら、政府は「国家安全保障戦略」で、「我が国の国益と国家安全保障の目標を明確にし」、「あらゆる手段を尽くしていく必要がある」ことを明示した。「国防の基本方針」では伝統的な安全保障の課題を四条明記していたに過ぎず、「国家安全保障戦略」では大幅に内容が追加されている。その中に「感染症を含む国際保健課題」が示されていることから、政府は国家安全保障上の問題として 本ウイルスに対処しなければならない。
 新型の感染症についてはほぼ知見がなく、国益が脅かされる。そもそも実態も分からないし、その場合の国家の責務についてもほとんど議論されていない。このため、国家の安全保障上の問題としてどのようなものかを確認しておく必要があると考える。
 右を踏まえて、以下質問する。

一 政府は現在の本新型コロナ感染症対策について、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という。)上の事案として対処しているのか、それとも国家安全保障戦略上の「我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うすること」を脅かす事態であると考えているのか。政府の見解如何。

二 四月七日の政府による緊急事態宣言は特措法第三十二条第一項の規定に基づき、本新型コロナ感染症に関する緊急事態が発生した旨の宣言であると解するが、もっぱら右法律に依拠するもので、政府の国家安全保障戦略でいう「感染症を含む国際保健課題」について「我が国の国益と国家の安全保障の目標を明確にし」、「あらゆる手段を尽くしていく」ことを根拠にする措置ではないという理解で良いか。

三 令和二年一月三十一日の国家安全保障会議(以下「NSC」という。)は、初めての緊急事態大臣会合であるのか。

四 令和二年一月からのNSCの開催状況を見ると、緊急事態大臣会合と政府の新型コロナウイルス対策本部(以下「対策本部」という。)が同じ日に行われているが、これは、概ね対策本部会議の決定を持ち回りのNSC緊急事態大臣会合で確認しているということか。

五 持ち回りのNSCの緊急事態大臣会合の内容は、第三回の対策本部の会議などで北村国家安全保障局長が説明しているように、わが国への出入国管理に関わることが主であるのか。

六 本新型コロナ感染症対策に関する一連のNSCの緊急事態大臣会合の根拠は国家安全保障会議設置法第二条第一項第十二号であるとの理解で良いか。この場合、実質的な議論が行われ、何らかの政府としての意思決定が行われるのか。それとも意見交換にとどまるのか。

七 政府の本新型コロナ感染症対策においては、特措法第十五条第一項の規定に基づく対策本部で進められており、国家安全保障会議では実質的な議論や決定はなされていないと思われるが、政府の見解如何。

八 令和二年十月十八日、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブは有識者で構成した「新型コロナ対応・民間臨時調査会」による新型コロナウイルス対策の検証報告書を発表した。水際対策の遅れなどに触れた上で、政府の一連の対応について首相官邸スタッフの証言を引き合いに「泥縄だったが結果オーライだった」と総括した。右報告書では、感染が急速に広がった欧州への日本人渡航者らを介し、国内に新型コロナが流入したとの分析を明らかにし、三月以降に実施した欧州諸国を対象とする強い水際対策について「もう少し早く実施できていれば、四月以降の国内の感染拡大を抑えられた可能性があった」との見解を示している。また「最大の誤算」として、司令塔役を果たすはずの厚生労働省が「パンデミック(世界的大流行)への十分な備えをしていなかった」ことに言及し、横浜市で停泊中に集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の対応をめぐり、当時の加藤厚生労働大臣が官房長官だった菅氏に「(厚労省では)荷が重い」と伝えていたと明らかにしている。右のことからも政府の本新型コロナ感染症対策は特措法第十五条第一項の規定の基づく対策本部で進めるのではなく、国家の責務として、国家の安全保障上の問題として、国家安全保障戦略に基づき、NSC主導で行われるべきだと考えるが、政府の見解如何。

九 前記八に関連して、「泥縄だったが結果オーライだった」、「(厚労省では)荷が重い」等の認識が示されたのは、本新型コロナ感染症対策について、政府がNSCを司令塔として国家の安全保障上の問題として捉えなかったからではないのか。政府の見解如何。

  右質問する。