質問主意書

第202回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四二号

陸上配備型イージス・システムに係る経緯に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年九月十八日

小西 洋之


       参議院議長 山東 昭子 殿



   陸上配備型イージス・システムに係る経緯に関する質問主意書

 令和二年九月四日、防衛省は、陸上配備型イージス・システム(以下「イージス・アショア」という。)の配備に関するプロセスの停止について、経緯等をまとめた「イージス・アショアに係る経緯について」(以下「防衛省資料」という。)を発表した。
 以下、イージス・アショアに係る経緯等について質問する。

一 イージス・アショアについては、トランプ米国大統領から、米国製兵器の大量購入を求められた安倍前総理の主導で導入が決定されたものであるとの指摘や、費用対効果の検討も行われていなかったとの指摘もあるところ、防衛省資料においては、「平成二十九年十二月に国家安全保障会議及び閣議において導入を決定」したという記述があるのみで、それ以前の導入に至る経緯について、妥当であったかどうかに関する記述がない。本件について総括するのであれば、平成二十九年十二月の閣議決定以前の導入に至る経緯についても検証されるべきではないか。

二 防衛省資料においては、地元住民に対する説明など、配備に関するプロセスを開始する段階で、「SM―三のブースターの落下による影響について、防衛省の担当部局では、何らかの安全措置は必要との認識であったが、具体的な検討には至らなかった」と記されており、早期から安全措置の必要性を認識していたことがうかがえる。この点について、防衛省は、関係自治体に対し、「迎撃ミサイルの飛翔経路をコントロールし、ブースターを演習場内に落下させるための措置をしっかりと講じます」と説明する一方で、米側との協議やそれを踏まえた安全措置の検討を行い、結果として、できもしない約束を地元に対して行ったこととなるが、このような慎重さ、誠実さを欠いた対応は、安倍前総理の主導で決まったイージス・アショアの導入ありきで、前に進めるしかなかった状況が引き起こしたものではないか。安倍前総理への忖度がなかったと言い切れるか。

三 防衛省資料においては、防衛省内の体制について、「令和二年の早い時期に、ブースターを演習場内または海上に確実に落下させるためには、それまで防衛省が想定していたイージス・システムのソフトウェアの改修のみでは不十分な恐れがあり、SM―三のハードウェアを含め、システム全体の大幅な改修が必要ではないかとの懸念が生じた」とあるが、河野防衛大臣に報告があったのは六月三日とのことである。事務方の判断でトップである防衛大臣への報告を遅らせたことになるが、そのような判断を行った理由は何か。また、「省内の意思疎通や情報共有の在り方などを含め、仕事の進め方に係る問題を改善するため、風通しの良い業務環境を整備していく必要がある」とされているが、この「風通しの良い業務環境」の具体的内容とその実現方法について説明されたい。

四 防衛省資料においては、地元への説明に対する評価として、「イージス・アショアがSM―三を発射する事態は、弾道ミサイルが我が国に向けて発射されているような状況であり、このような極限の状況を想定していることに理解を得つつ、当初から住民避難等の国民保護措置を含めて安全対策に万全を期すとの考えに立って、丁寧な説明を実施することも検討されるべきであった」と記されているが、これは弾道ミサイルが我が国に向けて発射されているような状況であれば、住民の安全は避難等で確保し、ブースター等が民家や公共建築物等に落下し被害が生じた場合でも、極限の状況ゆえ致し方ないということを意味するのか。

五 報道によれば、政府はイージス・システムを搭載した、弾道ミサイル防衛に専従する護衛艦を建造する案を有力案としており、米国にも説明しているとのことだが、護衛艦による弾道ミサイル防衛では、海上自衛隊の人繰りの問題の解決になっておらず、悪天候の影響も受けるなど、弾道ミサイル防衛の在り方として二十四時間・三百六十五日我が国を防護するとの政府の考え方に逆行しているように思うが、政府の見解如何。

六 報道によれば、防衛省はイージス・アショアの配備プロセス停止を受けた代替案として、メガフロートにイージス・アショアを配備する案や、陸地にレーダーを配備し、迎撃ミサイルの発射装置は海上に配備する案を検討しているとのことだが、地元住民の保護を重視するのであれば、これらの案はイージス・アショアの導入が決まった当初から検討されているべきではなかったか。なぜ導入が決まった直後から演習場等の陸地への配備と並行してこれらの案を検討しなかったのか。

七 河野防衛大臣がイージス・アショアの配備プロセスの停止を発表し、国家安全保障会議においてイージス・アショアの配備を断念して以降、政府・自民党は前のめりにいわゆる敵基地攻撃能力(自民党の提言における「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」)の保有に関する議論を進めようとしているが、政府としてまず取り組まなければならないことは、イージス・アショアに係る経緯について、導入決定に至る経緯も含めて総合的・包括的な検証を行った後、国会における議論も踏まえ、我が国のミサイル防衛の在り方を検討することではないか。イージス・アショアに関する十分な検証も行われていない段階で、拙速に敵基地攻撃能力の保有に関する議論を進めるべきではないのではないか。

  右質問する。