質問主意書

第202回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四号

検察庁法改正案策定経緯文書に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年九月十八日

山添 拓


       参議院議長 山東 昭子 殿



   検察庁法改正案策定経緯文書に関する質問主意書

 第二百一回通常国会において、インターネットのSNS上で爆発的に広がった「#検察庁法改正案に抗議します」という投稿をはじめとした世論と運動に押され、国家公務員の定年引き上げ等を内容とする国家公務員法等の一部を改正する法律案(以下「同改正案」という。)は廃案となった。最大の問題は、本年三月十三日に閣議決定された同改正案において、検察庁法を改正し、検察幹部人事に内閣の介入を可能とする仕組みが盛り込まれた点である。
 同改正案には、元々予定されていなかった検察官に勤務延長を適用することを前提とした規定や、国家公務員のいわゆる役職定年制とその特例を検察官にも適用する規定が盛り込まれており、最高検察庁の次長検事や高等検察庁の検事長、地方検察庁の検事正などは、内閣ないし法務大臣の判断により、六十三歳以降も検事長や検事正を続けさせることができる仕組みとされた。
 ところが、法務省が参議院予算委員会理事会に提出した昨年十月までの法案検討資料には、検察官については、勤務延長を前提とした規定はなく、役職定年制の特例は必要ない旨、明記されていた。森まさこ前法務大臣をはじめ、政府は、昨年の臨時国会への法案提出がかなわなかったことから「時間ができたため」として、昨年十二月以降に検討を始め、検察官にも勤務延長を適用することとし、役職定年の特例についても同改正案に盛り込むこととしたと答弁してきた。
 しかし、「時間ができたため」という説明は理由にならない。実態は、本年一月三十一日黒川元東京高等検察庁検事長の勤務延長を閣議決定したいがために解釈変更が必要となり、解釈変更に合わせて法案の内容も変更したのではないかと思料される。
 そこで、以下質問する。

一 法務省は、本年七月二十二日付で、「検察庁法改正案策定経緯文書」と題する資料を作成した。同資料には、二〇一九年十二月以降に法務省刑事局が作成した文書として、「検察官の勤務延長について(200116メモ)」と題する文書、「勤務延長制度(国公法第八十一条の三)の検察官への適用について」と題する文書、「応接録」と題する文書の写し、「勤務延長に関する規定(国公法第八十一条の三)の検察官への適用について」と題する文書が記されている。これらは、いずれもすでに国会に提出済みの資料であり、そのいずれにおいても、検察官に勤務延長制度を適用するために検察庁法の解釈を変更する旨は明記されず、また、解釈変更の必要性と相当性の検討経緯が記されているわけでもない。
 検察官に勤務延長制度を適用する解釈変更について、その必要性及び相当性(検察の独立性を脅かすことがないのかなど)について、誰が、どのような資料に基づき検討したのか、また、検討の経過がわかる記録を明らかにされたい。

二 前述「検察庁法改正案策定経緯文書」の第二、「本法律案のうち検察庁法改正部分策定の経緯」の五には、「また、特定の職員の定年による退職により、公務の運営に著しい支障が生じる場合があるのであれば、検察官役降り制度についても、同様に、役降りにより公務の運営に著しい支障が生じる場合があると考えられたこと等から、同制度についての特例を設けることとした」と記されている。
 一方、法務省は、二〇一九年十月時点で「検察官については、職制上の段階がなく、降任等が概念し得ないことから、他の一般職の国家公務員に比してより柔軟な人事運用が可能である。また、検察官は、定年に達した時に退官することとされているため、同時期に一斉に退官することとはされていない。さらに、管理監督職勤務上限年齢制の趣旨を踏まえて導入する仕組みにおける異動時期は誕生日を基準としていることから、一斉に異動することにもならない。このように、検察官については、適切な時期に異動を前倒しするなどすることが容易であって、異動により補充すべきポストが一斉に生じることにもならないことから、現在も国家公務員において導入されている定年による退職の特例(国家公務員法第八十一条の三)に相当する規定も置かれていない。したがって、改正検察庁法第九条第一項、第十条第一項、第二十条第二項及び第二十二条第二項により管理監督職勤務上限年齢制の趣旨を踏まえた仕組みを導入したとしても、それにより公務の運営に著しい支障が生じるなどの問題が生じることは考え難く、検察官については、改正国家公務員法第八十一条の五と同様の規定を設ける必要はない」としていた。

1 二〇一九年十二月以降、検察官についても特例を適用しなければ支障が生じる場合があると考えたのは、いかなる根拠に基づくものか、検討の経過を含めて明らかにされたい。

2 検察庁法第十三条には、組織の長に事故があるとき又は欠けたときに備え、臨時職務代行の制度が設けられている。同制度によっては対応できなかった事例として、具体的にどのようなケースがあったのか明らかにされたい。
 また、臨時職務代行の制度があるなかで、前述の特例が別途必要と考えた理由を示されたい。

三 同改正案については、第二百一回通常国会で衆参の予算委員会、法務委員会、内閣委員会などで様々な審議が行われた。その過程で、解釈変更に基づき初めて勤務延長が適用された黒川元東京高等検察庁検事長が賭け麻雀疑惑で辞任し、後任に交代したが、それによっても東京高等検察庁検事長の公務執行に著しい支障が生じることはなかった。
 また、インターネットのSNS上で表明された意見をはじめとする国民世論や、弁護士会、元検事総長ら検察OBの検察庁法改定案に反対する意見書、東京地方検察庁特別捜査部長経験者など、元検察官らの特例規定に反対し同改正案の再考を求める意見書など、多くの反対意見があった。
 上川陽子法務大臣は、二〇二〇年九月十六日の就任記者会見で、「改正部分に様々な意見があったと承知している。それを踏まえ、関係省庁と協議し、再提出に向けて検討したい」などと述べた。
 国会審議や数多く表明された意見を踏まえれば、同改正案の再提出に向けた検討に当たっては、検察官に勤務延長制度を適用するとした解釈変更を撤回し、法案から勤務延長及び役降り制度についての特例に関する規定を削除すべきと考える。現在、政府として、こうした点も含め検討しているのか、明らかにされたい。

  右質問する。