質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第一七五号

黒川検事長の処分における「懲戒処分の加重要件」の違法な切り捨てに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年六月十七日

小西 洋之


       参議院議長 山東 昭子 殿



   黒川検事長の処分における「懲戒処分の加重要件」の違法な切り捨てに関する質問主意書

 人事院の「懲戒処分の指針について」(平成十二年三月三十一日職職―68)においては、「標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合」として、「① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき」、「② 非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき」、「③ 非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき」、「④ 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき」、「⑤ 処分の対象となり得る複数の異なる非違行為を行っていたとき」がある、としている。
 これに関し、以下質問する。なお、答弁案の作成を担当する検察官出身の法務省幹部においては、国会と国民を愚弄する答弁拒否などは断じて行わないことを求めることを付言する。

一 森法務大臣は前述の①から⑤までの事項(以下、懲戒処分の「加重要件」と総称する。)について、東京高等検察庁黒川弘務検事長(当時。以下「黒川氏」という。)の賭け麻雀の事件をこれらの事項に現時点で「当てはめ」行為をした場合、②、③、⑤については当てはまる旨を答弁しているが、現時点で当該事件を「① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき」に当てはめた場合は当てはまると考えるか。当てはまると考えない場合はその理由についても示されたい。

二 前記一について、現時点で黒川氏の事件を①の一部である「非違行為の結果が極めて重大であるとき」に当てはめた場合は当てはまると考えるか。当てはまると考えない場合はその理由についても示されたい。

三 一般論として、政府は、黒川氏の賭け麻雀の非違行為の結果が極めて重大であると認識しているか。もし、そのように認識していないのであれば、その理由を示されたい。

四 森法務大臣は①の一部である「非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき」について、令和二年六月十一日の参議院予算委員会において「一について申し上げますと、どのような場合に動機、態様が極めて重大と言えるかについて画一的にお答えすることは困難でございます。」と答弁しているが、個別の事案の処分の検討に際して「どのような場合に動機、態様が極めて重大と言えるかについて画一的に判断」する必要などそもそもないのではないか。なぜ、「画一的に判断」できる必要がある、あるいは、「画一的に判断」する必要があると考えるのか、その理由について示されたい。

五 人事院の政府参考人は、首相官邸や法務省などから黒川氏の処分について相談を受けたことがあるかとの質問に対し「相談を受けておりません」と答弁しているが、森法務大臣及び法務省において「どのような場合に動機、態様が極めて重大と言えるかについて画一的にお答えすることは困難でございます。」との認識にあるのであるならば、黒川氏の処分の検討の段階で人事院に対して「非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき」の趣旨や解釈のあり方について相談するべきではなかったのか。相談しなかった理由を示すとともに、相談さえしなかったのは最初から黒川氏を懲戒処分にはしないという意図的かつ独善的な姿勢によるものではないかについて政府の認識を示されたい。

六 森法務大臣の「一について申し上げますと、どのような場合に動機、態様が極めて重大と言えるかについて画一的にお答えすることは困難でございます。」との答弁の意味するところは、「動機、態様が極めて重大と言えるかについて画一的」に判断できないために、①は黒川氏の処分の検討の際には当てはめに用いなかったということなのか。黒川氏の処分の検討の際に、①を当てはめに用いなかった理由について具体的に示されたい。

七 政府は黒川氏の賭け麻雀の非違行為の動機についてどのように認識しているか示されたい。その際には、黒川氏は東京高等検察庁検事長の職にあったにもかかわらず、さらには、外出自粛要請等がなされている緊急事態宣言下であったにもかかわらず、どのような動機によって本年四月及び五月に複数回に渡って賭け麻雀を犯していたのか、政府の認識を明確に示されたい。

八 黒川氏の東京高等検察庁検事長としての職責及び外出自粛に係る東京高等検察庁の服務管理者としての職責等も踏まえると、黒川氏が賭け麻雀を犯した動機は「自分が楽しめればそれでよい」というこの上なく自己中心的で悪質極まりないものという他ないのではないか。政府として、黒川氏の賭け麻雀の動機が「自己中心的で悪質極まりないもの」と認識しているか否かについて示されたい。

九 政府は黒川氏の賭け麻雀の非違行為の態様についてどのように認識しているか示されたい。その際には、黒川氏において、東京高等検察庁検事長の職にあったにもかかわらず、さらには、外出自粛要請等がなされている緊急事態宣言下であったにもかかわらず、本年四月及び五月に複数回に渡って賭け麻雀を犯していたその非違行為の態様をどのように考えているかについての政府の認識を明確に具体的に示されたい。

十 黒川氏は東京高等検察庁検事長の職にあったにもかかわらず、さらには、外出自粛要請等がなされている緊急事態宣言下であったにもかかわらず、本年四月及び五月に複数回に渡って賭け麻雀を犯していたのであるから、その態様は反社会的で悪質極まりないものと断ずる他ないのではないか。政府として、黒川氏の賭け麻雀の態様が「反社会的で悪質極まりないもの」と認識しているか否かについて示されたい。

十一 検察の最高幹部である黒川氏が緊急事態宣言下に賭け麻雀を犯していたことは「① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき」に該当することは義務教育を受けた日本国民であれば誰でもそのように認識し、理解・納得するものであると考えるが、政府はどのように考えるか。

十二 政府は前述の①から⑤の各事項について、黒川氏の処分の検討の際に当てはめを行ったのか。行っていない場合はその理由を示されたい。

十三 森法務大臣においては、黒川氏の事件に関し、前述の①から⑤の各事項について現時点で「当てはめ」行為をした場合は少なくとも②、③、⑤については当てはまる旨を答弁しているところ、現時点で当てはまるものを黒川氏の処分の検討の際に当てはめを行っていないということは、最初から黒川氏を懲戒処分にする気は一切なかったということではないか。

十四 森法務大臣は前述の①から⑤の各事項について、黒川氏の賭け麻雀の非違行為についてこれらの事項を現時点で「当てはめ」行為をした場合、②、③、⑤について当てはまる旨を答弁しているが、現時点でこれら②、③、⑤の事項を黒川氏の事件に当てはめた場合、その結論として黒川氏は懲戒処分相当であると考えるか、政府の見解を示されたい。なお、当該当てはめを行わず、あるいは、その結論を明らかにしない場合は、そうした政府の態度が国民に理解されると考えるかについて政府の見解を示されたい。

十五 黒川氏の処分の検討に際し、人事院の「懲戒処分の指針」において「標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合」とされる①から⑤の加重要件を一切用いない(当てはめすらしない)ということは、この度の黒川氏の処分が国家公務員法の趣旨に反する違法なものとなるのではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。