質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第一五八号

新漁業法に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年六月十六日

紙 智子


       参議院議長 山東 昭子 殿



   新漁業法に関する質問主意書

 二〇一八年に改正された漁業法(以下「新漁業法」という。)は、一部を除き年内の施行に向けて政省令の検討作業が行われている。七十年ぶりの大改正であるのに、いまだに説明が不十分であることから、漁業関係者、漁業者の理解は進んでいない。むしろ、何が議論されているのか不透明である。
 そこで、以下、質問する。

一 昨年十二月に私が提出した新漁業法に関する質問主意書(第二百回国会質問第一一五号)の一において、政省令案の説明を行った沿岸漁業協同組合、海区調整委員会名を明らかにするよう求めたが、政府からは、本年(二〇一九年)十月以降、約二十回の説明会を行ったが、参加した漁業協同組合及び海区漁業調整委員会は網羅的に把握していない旨の答弁があった。説明会はたった二十回程度しかなく、参加団体は把握していないという驚くべき実態である。七十年ぶりの大改正なのに、これでは関係者の理解を得られるものとはいえない。漁業関係者に確認したところ、国が出席するこの種の説明会は、漁業団体を通じて参加確認が求められ、会場の確保、資料の準備が行われているという。また、一言一句正確でなくとも議事録は残されているという。議事録を残さなければ説明会を開催した意味はないし、一方的に説明しただけになる。再度聞くが、説明会を行った漁業協同組合、海区調整委員会名を明らかにされたい。また、説明会の開催日時、参加団体、議事録を公表されたい。

二 新漁業法における「海区漁場計画」について

1 新漁業法は、都道府県知事に対し、海区漁場計画を定め、当該海区に設定する漁業権及び保全沿岸漁場について、必要な事項を定めるよう求めている。都道府県の責任と権限を強化すれば、地域の実情に精通し、漁業者間の自主的利害調整に大きく貢献してきた漁協の関与を弱めることになり、地域の漁業紛争を再発させることにならないか、政府の見解を求める。

2 新漁業法は、都道府県知事に対して、海区漁場計画の作成にあたっては、海面全体を最大限に活用するため、漁業権が存在しない海面において、新たな漁業権を設定するよう求めているが、自由漁業、許可漁業との調整をどのように行うのか、政府の見解を求める。

3 新漁業法には、海区漁場計画の作成手続が定められているが、そのうえで農林水産大臣は、生産力を発展させるために都道府県知事に漁場計画の修正を求め、変更等を指示することが出来る。これでは、二〇〇〇年に施行された地方分権推進法以降、国が実施してきた都道府県の権限強化に逆行し、以前のように国がめざす水産業の成長産業化を地方自治体に押しつけるものではないか。

4 新漁業法に定める海区漁場計画は、生産性の定義次第では、零細な沿岸漁業者の実情や意向、漁村経済やコミュニティーの実態からかけ離れた企業優先の計画になるのではないか、政府の見解を求める。

三 漁業を取り巻く現状は、高水温等の海洋環境及び巨大台風など気象災害により生産量が激減し、これに新型コロナウイルス感染症の影響による魚価安が加わり、未曾有の危機状況を迎えようとしている。このようななか、漁業者及び漁協において、年末に向けた新漁業法施行に適切に対応できる人的、金銭的な余力が残っているのか、政府の見解を求める。

四 水産庁は、新漁業法にあわせて国立研究開発法人水産研究・教育機構(以下「機構」という。)の再編、スリム化を進めている。
 機構は、(1)水産資源・海洋環境の調査研究、(2)水産業の振興のための技術開発、(3)これらを支える基礎的な研究開発とモニタリングなどを行っている。
 水産庁は、水産業の成長産業化に沿って全国にある九研究所を「水産資源研究所」と「水産技術研究所」に整理するとしている。
 機構の水産研究所は、一九五四年のビキニ水爆実験の時から、海水に含まれる放射能調査を継続・分析しており、そのデータは福島の原発事故に際し大きな役割を果たした。諫早湾干拓事業によって有明海に異変が発生した際にも、貧酸素水魂が居座っていることを突き止めた。さらに、サケマスの不漁原因調査なども行われてきた。
 地球温暖化が急速に進むなかで研究所の役割は高まっている。
 政府が進める水産業の成長産業化に沿って、継続的に行ってきた研究・調査を一方的に打ち切ってはならない。機構の再編、スリム化について、広く研究者、漁業関係者、漁業者と協議したのか、明らかにされたい。

  右質問する。