質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第一五七号

アイヌ施策推進法に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年六月十六日

紙 智子


       参議院議長 山東 昭子 殿



   アイヌ施策推進法に関する質問主意書

 二〇一九年四月に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(以下「アイヌ施策推進法」という。)が成立してから、一年が経過した。民族の誇りを持って生活できる環境整備や、差別や権利利益の侵害の禁止を明記したが、国連の「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(以下「先住民族の権利宣言」という。)を履行する点からいえば多くの課題を残している。そこで、以下、質問する。

一 アイヌ施策推進法において、「民族共生象徴空間構成施設の管理に関する措置」が規定された。
 本年四月に予定されていた「民族共生象徴空間」(ウポポイ)の開業は新型コロナウイルス感染症の影響で延期されたが、ウポポイは、国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、アイヌの遺骨を収納・慰霊する慰霊施設という三つの施設で構成される。
 ウポポイは、先住民族であるアイヌの尊厳を守り、わが国が将来に向け多様で豊かな文化の異なる民族との共生を尊重していく社会を築くためにアイヌの歴史、文化等の国民的理解の促進やアイヌ文化の振興、発展に関する中心的な拠点と位置付けられている。
 この趣旨に沿って、自己決定権を含めアイヌ民族の意見を取り入れる必要がある。(1)政府が意見を聞いたアイヌの実団体数および延べ団体数、(2)政府が意見を聞いたアイヌの実人数および延べ人数、(3)各地のアイヌ協会の会員でないアイヌから政府が意見を聞いた回数、実人数および延べ人数並びに取り入れた意見を明らかにされたい。

二 アイヌ施策推進法には、先住民族の権利宣言でうたう「先住権」は一切記されていない。アイヌの誇りの源泉を「アイヌの伝統及びアイヌ文化」に求めているが、「先住権」を認めるという国際的な到達点を踏まえるなら、「先住権なき」新法であって、不十分と言わざるをえない。
 アイヌ施策推進法案の立案過程において、四十六条ある先住民族の権利宣言を日本国内において具体化するためにどのような議論をしたのか。検討の過程と討議内容の資料は明らかにならなかった。
 国会の質疑で明らかになったのは、先住民族の権利宣言のうち、差別を受けない権利、国民の理解促進、土地資源に関する権利、先住民族の文化に関する権利の三つの規定のみを参照したということであるが、これらの権利をどのように具体化したのか。明らかにされたい。また、「先住権」をはじめとする先住民族の権利宣言でうたう諸権利を、今後、どのように具体化するのか、明らかにされたい。

三 アイヌの遺骨問題とは、明治期よりアイヌ人墓地から研究目的と称して遺骨が持ち去られ、今日に至るも全面的に返還されていない問題であり、先住民族の権利を復権するうえで重要な課題である。
 遺骨問題に関する「個人が特定されたアイヌ遺骨等の返還手続に関するガイドライン」では、特定遺骨等を返還する意向がある大学は、民法及び裁判例等を考慮し、返還を希望する祭祀承継者に返還することとし、返還する意向がある大学に決定権を認め、遺骨を奪われたアイヌ民族の権利を認めなかった。
 その後、遺骨の返還を求める運動と世論によって「大学の保管するアイヌ遺骨等の出土地域への返還手続に関するガイドライン」が出され、出土地域が明らかなものは出土地域へ返還する手続きがとられた。しかし、アイヌの習慣では墓地に埋葬した死者に対して墓参りはせずに、そのままにして、コタン(集団)が集落内で慰霊行為(イチャルパ)を行うものであることから、遺骨が誰の遺骨なのか、どこのコタンなのかがわかる情報の提供を大学に求め、国の責任で調査する必要がある。
 先住民族の権利宣言は、「先住民族は、遺骨の返還についての権利を有する。国は遺骨へのアクセス又はこれらの返還を可能とするよう努める」旨規定しているが、国は同規定を、どう具体化するのか。政府の遺骨返還方針を明らかにされたい。

四 アイヌ施策推進法は、都道府県は国の基本方針に基づき方針を定めるよう努め、市町村は「アイヌ施策推進地域計画」を作成することができると規定する。方針を定めた都道府県名、地域計画を作成した市町村名を明らかにされたい。

五 前記四の地域計画が認定された場合、国は予算の範囲内で交付金を交付することになっている。地域計画に掲げる事業は、(1)アイヌ文化の保存又は継承に資する事業、(2)アイヌの伝統等に関する理解の促進に資する事業、(3)観光の振興その他の産業の振興に資する事業、(4)地域内若しくは地域間の交流又は国際交流の促進に資する事業、(5)その他内閣府令で定める事業としているが、「内閣府令」で定めた事業を明らかにされたい。また、アイヌ施策推進法では、地域計画を作成しようとするときは関係者の意見を聞かなければならない旨定めているが、「アイヌ民族側の提案を検討せずにできないと結論づけたり、協議と言いつつ自治体側が一方的に事業を提示し、十分な議論がないとの声も聞く」との報道がある(北海道新聞二〇一九年八月二十五日)。アイヌ民族が地域計画の作成に参画する仕組みを明らかにされたい。

  右質問する。