質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第一四四号

我が国の行政運営における「私的懇談会」等の運営等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年六月十一日

石橋 通宏


       参議院議長 山東 昭子 殿



   我が国の行政運営における「私的懇談会」等の運営等に関する質問主意書

 我が国の行政運営において、専門家の知見等を活かす仕組みとして存在しているはずの審議会等の第三者機関が、ともすれば実質的に十分な独立性や専門性を有さず、その時々の政権の既定方針の追認や権威付けのための機関と化しているのではないかとの指摘が有識者等からなされている。
 特に、いわゆる「私的懇談会」や「懇談会等行政運営上の会合」といわれるもの(以下「懇談会等」という。)については、国家行政組織法八条、内閣府設置法三十七条等を根拠とする正規の審議会(以下「審議会等」という。)との違いが不分明であるにもかかわらず、政権の政策決定や政策判断への影響度合いが大きくなってきている傾向が顕著であり、その法的根拠や人選の中立性、予算措置や運用・運営面での妥当性など、立法府や第三者機関による厳格な監視が必要だとの指摘もある。
 このような指摘を受け、「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」(一九九九年四月二十七日閣議決定「中央省庁等改革の推進に関する方針」の一部。以下「基本的計画」という。)などでは、懇談会等の在り方について、参加者個々人の意見を聞くのみで意思決定を行うべきでないことや、答申・意見書など合議体としての結論と受け取られるような呼称を付さないことなど、運営の原則に関わる幾つかの重要な規律を示しているところである。
 以上のような問題認識及び懇談会等の在るべき姿に関するこれまでの議論等に鑑み、以下、近年に設置された二つの懇談会等について、質問する。

一 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

1 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」という。)は、新型コロナウイルス感染症対策本部の私的懇談会であると考えられるが、政府の見解は如何か。

2 基本的計画によれば、私的懇談会は「審議会等の公開に係る措置に準ずる」として、審議会等が「会議又は議事録を速やかに公開することを原則とし、議事内容の透明性を確保する。なお、特段の理由により会議及び議事録を非公開とする場合には、その理由を明示するとともに、議事要旨を公開するものとする。」とあるところが準用されている。この規定を踏まえれば、専門家会議において、議事録を公開しない特段の理由はないものと考えるが、政府の見解は如何か。特段の理由があるとする場合には、その特段の理由を明確に示されたい。

3 「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成二十三年四月一日内閣総理大臣決定、令和元年五月一日最終改正。以下「ガイドライン」という。)十二頁には、「審議会等や懇談会等については、法第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする。」とあり、基本的計画の審議会等、懇談会等の透明性に関する規定にも沿っている。専門家会議は、このガイドライン中の「審議会等や懇談会等」に当たると考えるが、政府の見解は如何か。

4 専門家会議は、法律の根拠がない以上、構成員が公務員として行う公務ではなく、私人としての構成員の意見表明を聴取する会議であり、ガイドライン十三頁の「各行政機関の対応を円滑に行うため、政府全体として情報交換を行う会議等」とは性質が異なると考えるが、政府の見解は如何か。

5 ガイドライン十三頁の「各行政機関の対応を円滑に行うため、政府全体として情報交換を行う会議等」には審議会等、懇談会等は含まれないと解さないと、基本的計画に整合しないと考えるが、政府の見解は如何か。

二 出入国管理政策懇談会及び収容・送還に関する専門部会

1 収容・送還に関する専門部会は、法務大臣の私的懇談会として「出入国管理政策懇談会」が設置され、その下に設置されているという理解でよいか、確認されたい。

2 その上で、出入国管理政策懇談会及びその下に設けられる専門部会の目的は、法務大臣や出入国在留管理庁の持つ方針の実施施策を審議・検討することではなく、また、これらの方針に対する批判も含めて、有識者から幅広く自由闊達な意見聴取をすることであるものと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

3 出入国管理政策懇談会及び収容・送還に関する専門部会における委員の発言は、公務員としての公務ではなく、私人としての思想信条の表明、学問成果の発表であると考えるが、政府の見解は如何か。

4 前記二の2及び3に関連し、出入国管理政策懇談会委員及び収容・送還に関する専門部会の各委員に対し、委員就任時に「(当該懇談会・専門部会は)法務大臣の方針に基づく実施施策を検討する場ではなく、法務大臣の方針に対する批判も含めて、幅広く自由闊達な意見聴取を目的とする場である」という趣旨の説明をしたか否か、明らかにされたい。

5 第七次出入国管理政策懇談会の令和元年五月三十一日の議事録に、出入国在留管理庁政策課長の発言として「これは、前回の基本計画からも積み残しの検討課題となっているものでございますけれども、退去強制手続中に難民認定制度を行えば送還が停止されるという制度の見直しでございます。このような問題については、特に御検討をお願いしたいと考えているところでございます。また、検討方法につきましては、別途専門部会を設けるというようなことも選択肢に入れて、今後検討していきたいと考えております。」とある。これは、送還停止制度を見直すという方針を前提に、その実施のための具体的施策の検討を同懇談会に諮問したものと読めるところ、これは、法務大臣や出入国在留管理庁の方針と異なる意見の表明を妨げるおそれがあると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

6 出入国管理政策懇談会及び収容・送還に関する専門部会の会合は、法務大臣の方針に縛られることなく幅広く自由闊達な意見聴取ができるよう配慮されるべきと考えるが、毎回の会合に、出入国在留管理庁長官、同庁各課課長、同庁各室長などが出席していることは、出入国在留管理庁に批判的意見を述べることについて抑制的な影響を生じさせるおそれがあるのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

7 収容・送還に関する専門部会の結果を踏まえた出入国管理政策懇談会は、個々の委員の意見聴取にとどまらない懇談会としての意見の策定を予定しているか否か、明らかにされたい。もしそれを予定している場合、基本的計画との整合性についての政府の見解を明らかにされたい。

8 私的懇談会においては、自由闊達な意見聴取をするべきであって、官僚が委員の意見を誘導するべきでないし、まして、誤った情報や差別・偏向を含む見解を事前に与えて誤導することは許されないと考える。その上で、収容・送還に関する専門部会の第一回会合に、出入国在留管理庁から「送還忌避者の実態について(令和元年六月末現在)」(令和元年十月一日付発表)が資料として提出されたが、同資料については、同年十二月二十日、「捜査段階の通報内容に基づいて記載したものですが、今般の御指摘を真摯に受け止め、今後このような公表を行う場合には、判決結果等を踏まえて行ってまいります。」などと説明が掲示され、法務省ホームページから削除されたが、令和二年三月二十七日に、新たな「送還忌避者の実態について(令和元年十二月末現在)」が法務省からプレスリリースとして発出され、再び法務省ホームページに掲載されている。これについて、以下、質問する。

(1) 「送還忌避者の実態について(令和元年六月末現在)」は、不適切な内容を含む資料として撤回されたものか、そうであれば当該文書のどの箇所・記述が不適切だと判断されたのかを含め、同文書の扱いについて明らかにされたい。

(2) 「送還忌避者の実態について(令和元年六月末現在)」の四頁に、被退令仮放免者の逮捕件数等のグラフが記載されていたが、記録された逮捕事案について、その後の起訴、判決結果を確認していたか否か、明らかにされたい。仮に確認していた場合、その結果を示されたい。特に、「殺人未遂二件」、「性犯罪(わいせつ)三件」の起訴の有無、起訴された場合の罪名、判決結果を明らかにされたい。

(3) 「送還忌避者の実態について(令和元年六月末現在)」の二頁に「我が国で罪を犯し刑事罰を科された者や退去強制処分歴又は仮放免取消歴を有する者を仮放免することは、我が国の安全・安心を確保する観点から認めるべきでなく、一刻も早い送還を期すべき」、三頁に「法律上、難民認定手続中は一律に送還が停止されることに着目して、申請に及んでいる者が一定数存在することが考えられ、こうした難民認定制度の濫用的利用者の存在は、早期送還にとって大きな支障となっている」との記載があったところ、「送還忌避者の実態について(令和元年十二月末現在)」(令和二年三月二十七日付発表)には、それらの記述が存在しない。それらの記述を削除した理由を明らかにされたい。

(4) 前記二の8の(3)に関連し、「送還忌避者の実態について(令和元年六月末現在)」の扱い及び同文書の一部を「送還忌避者の実態について(令和元年十二月末現在)」(令和二年三月二十七日付発表)において削除したことについて、専門部会委員に説明をしたのか否か、説明していた場合は、説明内容とその時期を明らかにされたい。

(5) 前記二の8の(4)に関連し、もし「送還忌避者の実態について(令和元年六月末現在)」の削除された記述部分の影響が未だに専門部会の委員に残っているとすれば、その影響がない場合と比して委員の意見が異なるものとなるおそれがあり、真に自由な意見表明・聴取の場とは言えなくなることが懸念されるが、政府の見解は如何か。

(6) 「送還忌避者の実態について(令和元年十二月末現在)」の四頁にも、被退令仮放免者の逮捕件数等のグラフが記載されているが、そこに記録された逮捕事案について、その後の起訴、判決結果を確認したか否か、明らかにされたい。確認していた場合、その結果を示されたい。

  右質問する。