質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第七八号

新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年三月十七日

舩後 靖彦


       参議院議長 山東 昭子 殿



   新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する質問主意書

 去る三月十三日に新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「同法」という。)が改正されましたが、同法の「緊急事態宣言」に基づく措置が重大な人権侵害をもたらすのではないかという強い懸念があります。現在、社会的に議論されている移動、集会、表現等の自由権の制限、あるいは、所有権の制限だけでなく、私たち障害者や高齢者などにとっては、生存権そのものが脅かされるものと危惧します。
 同法第四十五条では、学校とともに、「社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)」の「使用の制限若しくは停止」を、都道府県知事が要請あるいは指示できることになっています。
 通所施設やショートステイ施設は、入所施設でなく地域で暮らす障害者や要介護の高齢者に、介護・入浴・余暇活動の提供等の重要な役割を果たしています。在宅生活を支えるホームヘルプが恒常的に不足している状況のなか、事実上、いのちを支えるものとなっています。通所施設やショートステイ施設の利用が制限もしくは停止されても、代替え策のホームヘルプが十分に提供される体制にはとうていなっておりません。また、通所施設・ショートステイ施設の職員が代替え策で自宅を訪問するとしても、通所施設と自宅では環境も違う上に必要なスキルも異なり、対応が難しいと考えます。今後、全国の通所施設で感染が広がる可能性もあり、一刻も早く、さらなる対応策を打ち出すべきです。
 さらに、今回の学校一斉休校という措置のなか、仕事を休めない親に代わって学童保育、障害児の放課後等デイサービスなどが子どもたちの生活を何とか支えていますが、これすらも停止されれば、家族全体の生活が崩壊します。
 同法の緊急事態宣言は、二年間とされており、さらに一年間の延長ができるとされています。通所施設やショートステイ施設は、日々の利用者の人数に応じて報酬が支払われる仕組みとなっており、一カ月間利用を停止されただけでも、存続が不可能となる施設も出てくるでしょう。
 こうした状況のなかで、障害者及び障害児は、施設入所という隔離を選ぶか、いのちを落とすかの二者選択という状況に置かれます。こうした状況への政府としてのご認識を、以下伺います。

一 同法の第一条において「国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とする」と規定されていますが、緊急事態宣言の下で、障害者及び障害児や高齢者の通所施設やショートステイ施設の利用を制限したり停止した場合、施設利用者の生活はもちろん命をも奪うことになります。こうした状況が生まれることについての政府の認識をお聞かせください。

二 同法が成立した二〇一二年に、衆議院と参議院の内閣委員会では、「独居世帯を含めた在宅患者への薬剤処方の在り方を明示し、周知徹底を図るとともに、在宅の一人暮らしの高齢者や障害者など社会的弱者に対しては、市町村と協力し、見回り、介護、訪問診療、食事提供、搬送等の適切な支援を図ること。」との附帯決議を行っています。本附帯決議から八年近くが経過していますが、社会的弱者に適切な支援を行うための準備を政府はこれまでに行ってこられましたでしょうか。準備を行っていれば、その詳細をお示しください。

三 現時点においても、障害者や高齢者の在宅介護・看護及び通所介護を巡り、以下の(1)から(9)までのような様々な問題が起こっています。以下の(1)から(9)までのような事態や意見に対して、現時点で政府はどのような対策を取っているのかそれぞれお示しください。

(1) 平熱が高い脳性麻痺患者が、移動支援を行う事業者からサービス提供を拒否され、通所施設に通えなくなっている。

(2) 知的障害者や認知症高齢者の中には、水分不足や着込みすぎで、体調管理が適切にできない方もおり、水分を摂ればすぐに体温が下がる場合も多い。介護が必要な利用者さんを一人にできるわけもなく、介護不足で生活が破たんし、生命の危機が発生するため、一律に体温三十七・五度以上でサービスの利用を制限するのでなく、風邪症状がない場合は利用を受け入れるべきではないか。

(3) 小規模の訪問介護事業所、通所事業所において消毒薬やマスク等が不足しているため、訪問ヘルパーが感染源になる可能性があり、訪問ヘルパー自身を感染から護ることもできない。感染のリスクを減らすため、原価よりも高い価格で転売されている消毒液やマスクを買わざるを得ない状況がある。

(4) 訪問看護事業所では発熱者への訪問の際、全身を覆う使い捨てガウンが必要であるが、不足している。消毒液やマスクだけでなく使い捨てガウンの配布も必要である。

(5) 在宅の人工呼吸器利用者にとって深刻なのは、痰の吸引等、医療的ケア時になくてはならないアルコール、使い捨て手袋の不足である。通常、必要な備品は二週間分くらい備蓄しているが、新型コロナウイルス感染が長期化して、全く手に入らなくなった。三・一一のときは患者・障害者団体のネットワークを通じて非被災地から救援物資として送ってもらえたが、今回は全国的に一般の方々も買おうとするため、いつ欠品が解消されるのか見通しが立たない。

(6) 訪問介護事業所ではヘルパーが感染した場合、シフトの穴埋めをチームで行わなければならず、超過勤務をする人が出てくる。うちの場合は正社員がほとんどなのでぎりぎり調整できるが、登録ヘルパー中心の事業所では、サービスが組めないと聞いている。

(7) 厚生労働省は二月二十四日の事務連絡で三十七・五度以上の発熱の場合、介護職員の出勤停止を要請しているが、人員基準を下げたところで、元の基準でもそもそも人材不足により業務が回っていないのに、これでは本当に回らない。

(8) ヘルパーの中には「自分が新型コロナウイルスを媒介したらどうしよう」と思い、長期の休暇を申請し、利用者の家族が介護のために仕事を休む事態になった例がある。政府からの適切な情報提供がないと、現場がパニックを起こす。

(9) 新型コロナウイルスの影響で、各地で喀痰吸引等第三号研修が中止されている。感染が拡大し、収束の目途が立たないなか、この状態が長期化すると、元々の人材不足に加え、研修ができないために現場で働けず、在宅介護・看護の崩壊が一気に来てしまう。

  右質問する。