質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第五九号

コンセッション事業と自治行政のあり方に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年二月二十六日

吉田 忠智


       参議院議長 山東 昭子 殿



   コンセッション事業と自治行政のあり方に関する質問主意書

 令和元年十一月七日に提出した「コンセッション事業の推進がもたらす自治行政のあり方の変化に関する質問主意書」(第二百回国会質問第五二号。以下「前回質問主意書」という。)に対する答弁(内閣参質二〇〇第五二号。以下「前回答弁書」という。)について、以下改めて質問する。

一 前回質問主意書の中で「当該技術者の減少は、技術やノウハウの伝承に支障をきたしていないのか。技術やノウハウの伝承に支障が生じると、行政側がコンセッション事業をモニタリングする能力を失うことにならないか。政府の見解を明らかにされたい」とした部分について、前回答弁書では「「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン」(平成三十年十月十八日民間資金等活用事業推進会議決定)を策定・公表し、地方公共団体の職員に対して説明・周知している」としている。
 しかし、公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン(以下「同ガイドライン」という。)の「11 モニタリング」の「2 留意事項」では、「運営権者と管理者等の間での認識の齟齬が生じた場合に備え、第三者である専門家の意見を聞く仕組み」を用意する、「運営権者の営業上のノウハウ、特定の者の不利益となる情報など、一定の配慮を要する情報を除き、公表する」と、仕組みの説明をしているにとどまっている。
 問題は、すでに当該技術者の減少が「技術やノウハウの伝承に支障をきたしている」現状に加え、コンセッション方式によるPFI事業(以下「コンセッション事業」という。)の導入により、一層、技術やノウハウの伝承が困難になることである。このため、結果として管理者である公務員のモニタリングの能力も落ちる問題をどうするのかという点について、前回答弁書では答えていない。
 さらに問題なのは、コンセッション事業における「安全性」が必ずしも「収益性」と同時に担保されない可能性があることである。つまり、管理者である公務員側のモニタリング能力の低下に加え、責任の所在が曖昧になることによって、事故が起きる確率が高くなるのではないか。同ガイドラインにおける「専門家に聞く」という手段では、日常の安全管理ができるのか不明であるが、政府の見解如何。

二 また、前回答弁書の六及び七についてで、「コンセッション事業は公共施設等の利用料金を徴収するものに限られており、その利用について料金を徴収しない道路の管理については、コンセッション事業の対象とはなら」ないとしている。しかし、これは、平成二十五年六月十四日に閣議決定された「日本再興戦略」に掲げられたものであって、当面の目標である。そもそも、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律にはその対象として「道路」と明記されており、英国などの例を挙げるまでもなく、一般道路もコンセッション事業に含まれている。
 また、日本の実態としては、一般道路(生活道路)においても、自動販売機や駐輪場、さらに「道の駅」などの収益施設がある。これらの延長として収益施設を拡大し、コンビニやカフェ、スーパーなどの店舗を設置することが増加している。河川敷でもすでにカフェ等を設置している自治体が全国にあるという実態を政府は承知しているのか。
 収益施設の規模に拘らなければ、全ての公共施設はコンセッション事業の対象になるのではないか。また、現在は小さくとも、今後その規模を大きくすることができる場合が多い。
 また、収益施設をAI化、機械化することによって、余ったスペースで宿泊・休憩施設などを併設し、さらに様々な条件を持った別の公共施設を組み合わせることによって、収益を上げることができる。その結果、コンセッション事業の範囲は、無限大に広がると考えられる。
 前記一の同ガイドラインは、コンセッション事業の範囲について、「既設の公共施設で収益施設がすでにあるもの」に限定するような説明であるが、実態は「収益施設の無い公共施設」に分類されているものでも、規模の大小を問わず収益施設を持っているケースが多い。これを拡大させる、あるいは新たに収益施設を設置すれば、コンセッション事業の対象となり、公共施設は無限大に拡大できるということではないか。政府の見解如何。

三 平成三十年の衆参の厚生労働委員会における水道法改正案についての論議でも「関係台帳」の不備が問題となった。特に中小の自治体で不備が多くみられている旨の報告があった。道路等では一層こうした傾向が強いと現場からの報告を受けている。加えて、高架、橋げた、トンネルなど安全性が特に求められている部門では、緊急性も求められている。政府の取り組み姿勢ではなく、その実態についての認識と具体的な対応について明らかにされたい。

四 「文化・体育施設」に係るコンセッション事業の導入については、「PPP/PFI推進アクションプラン(令和元年改定版)」においてオリンピック施設のような大きな施設について方向性が示されているが、既設の施設で、特に中小のものについてはどうするのか明記されておらず、平面的で曖昧である。また、MICE(国際会議、イベント等)のための施設についても同様である。市町村合併あるいは一部事務組合に関係して、「収益性」が優先される結果、大きな施設が優先され、中小の施設については、住民の声が尊重されることなく「廃棄」されるか、民間への「安易な」売却などが進められる傾向が強まると予想される。こうした問題は、当事者となった自治体が決めることとして済ましてはいけない。日本の国のあり方が問われることである。政府の見解如何。

五 日本の動物園関係者が多く参加している日本動物園水族館協会(以下「JAZA」という。)は、英米独をはじめとする先進国の動物園園長、査察官あるいは動物学者らが参加している世界動物園水族館協会(以下「WAZA」という。)に加盟している。
 WAZAの会議において、いまだに見られる「狭くて檻に囲まれた無機質な動物舎」は、「動物の福祉の向上」という観点で好ましくないとして、動物の習性や生態を配慮した十分なスペースを確保し、施設を充実するよう、世界の動物園団体と関係政府に働きかけている(アニマルウェルフェアと環境エンリッチメント運動)。
 本来、公立動物園の場合は、自治体として、アニマルウェルフェアと環境エンリッチメントの観点から、獣舎の移設や大幅な改築等を行うべきであるが、資金の見通しが厳しいこともあり、明確な方針を示せていない。
 そのため、WAZAに加盟しているJAZAが、約二年かけて飼育施設の大きさや構造などについて自主的に規制するために「適正飼育施設ガイドライン」を設けることになった。
 このことは、二〇二〇年一月二十九日付の朝日新聞で「動物に優しい動物園ってどんな場所? 協会が自主規制へ」という見出しで報道されている。
 公園に関しては、国土交通省がすでに「都市公園の質の向上に向けたPark-PFI活用ガイドライン」を提示しているが、動物園事業においても同様に政府としてガイドライン等を提示すべきではないか。また、現在、他の方法も含めた基本的な方針を作成しているのかについても併せて明らかにされたい。

  右質問する。