質問主意書

第201回国会(常会)

質問主意書


質問第五八号

コンセッション事業の導入に伴う労働者の労働条件の変化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和二年二月二十六日

吉田 忠智


       参議院議長 山東 昭子 殿



   コンセッション事業の導入に伴う労働者の労働条件の変化に関する質問主意書

 令和元年十一月七日に提出した「コンセッション事業の導入に伴う労働者の労働条件の変化に関する質問主意書」(第二百回国会質問第五三号。以下「前回質問主意書」という。)に対する答弁(内閣参質二〇〇第五三号。以下「前回答弁書」という。)について、以下改めて質問する。

一 前回答弁書の「一及び二について」に関し、平成二十年七月に設置された国家公務員制度改革推進本部の労使関係制度検討委員会で確認された「交渉事項の範囲に関する論点について(検討用資料)」の「1.交渉事項の範囲に係る整理の枠組について」の「(1)現行制度の整理」では、「③ 非現業公務員においては、管理運営事項については、交渉ができない(国公法第百八条の五第三項、地公法第五十五条第三項)とされているが、民間では使用者が経営に属する事項について任意に交渉し、協約を締結することは可能とされている。ただし、労働協約に規定された事項全てが必ずしも規範的効力をもつわけではなく、債務的効力にとどまる部分もある。(参考 菅野和夫「労働法 第八版」P550)」と明記されている。
 この見解に立てば、「非現業公務員においては、管理運営事項については、交渉できない」ため、コンセッション方式によるPFI事業(以下「コンセッション事業」という。)の導入に伴う「転籍」により、公務員から非公務員となった後は、転籍先の労働条件について協議・交渉ができなくなるとも解釈されるが、どうなのか。過去に国鉄の民営化の際にも、「管理運営事項」について同様の問題が起き、労使交渉ができなかった経緯があったことも踏まえ、政府の見解を明らかにされたい。

二 前回質問主意書の三及び四で言う「転籍」とは、「公務員」が「非公務員」となり、移転先に「出向」するまたは「退職派遣」されるという意味である。
 前回答弁書の「三について」では「当該派遣の運用に当たって留意する事項を示した「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン」(以下「同ガイドライン」という。)(平成三十年十月十八日民間資金等活用事業推進会議決定)等を策定・公表し、地方公共団体に対し説明・周知している」としている。
 しかし、同ガイドラインの三十三頁に記述されている「10 退職派遣制度」の内容には次の1から4のように不明な点が多い。

1 同ガイドラインの10の(2)における「公募において・・・公務員の派遣人数を少なくする、あるいは派遣期間を短くすることを評価するような評価基準を設定しないこと」との記述。

2 同ガイドラインの10の(3)における「実際の派遣職員が決定している場合のみならず、決定していない期間であっても、派遣職員の人数や条件、保有するスキルイメージ等の情報について、原則競争的対話時までに応募予定者に対し公表すること」との記述。

3 同ガイドラインの10の(5)における「運営事業の初期段階は、退職派遣制度の趣旨にのっとり、当該運営事業の開始から最大おおむね五年間程度と想定されること」との記述。

4 同ガイドラインの10の(6)における「国派遣職員について設けられている以下の給与、任用、年次休暇等に関する規定について、・・・地方派遣職員についても、当該規定に準じた規定を関係条例等において設けることが適当である」との記述。

 これらの記述は、地方派遣職員についても国派遣職員の場合に準じるというだけのことではあるが、すでに行われている「コンセッション事業としての仙台空港等への国家公務員派遣」の場合のように、五年で交替できるようなケースであるならば良いが、五年後に戻る職場がない、あるいは定数が削減されているために「過員」となるというケースが自治体で予想される。この場合、地方自治体で決めることということになる可能性もあるが、労使の係争事件に発展する可能性もあると思われる。
 コンセッション事業ではなくとも、地方自治体では、指定管理者、独立行政法人などの新組織に事業が譲渡されるケースは、すでに起きている。このことに伴い、労働条件の変更、解雇・分限免職といった問題はすでに起きている。
 例えば、銚子市立病院では、指定管理者制度の導入により指定管理者に事業が譲渡される際に、ほぼ全員が解雇(分限免職)されている。こうしたことは、地方自治体が行ったことであり、国が行ったことではないから答弁する必要はないということになるのか。
 前回答弁書では、コンセッション事業の導入に伴う地方派遣職員の労働条件の変化等について触れていない。政府としてこの点について明らかにすべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 公立病院を設置・運営する一部の事務組合の解散に伴い、米内沢病院解雇事件が起きた。元職員五人は、高裁では損害賠償が認められたものの、新組織には、この元職員の地位承継義務はないとしている。
 この米内沢病院解雇事件については、平成三十年二月十五日に内閣府が中心となった「公務員関係判例研究会」で取り上げられた。ここでは「官」の公務員法と「民」の労働契約法との違い及び官から民への移行に伴い法整備が必要等の意見も出ていたが、こうしたことについて、前回答弁書では一言も触れていない。
 国では、社会保険庁の年金機構への「移行」に伴い、「五百二十五人が分限免職された」と言われているが、こうした分限免職は、コンセッション事業に伴う譲渡では一切起きない、あるいは関係ないということか。こうした事案について、同ガイドラインのどこにも記述されていないのは、どういう意味か。

四 前回答弁書は、コンセッション事業の移行に伴う「転籍」後、五年程度で元の職場に戻るという前提条件での労働条件について答弁していると思われる。地方自治体の中でも特に人口減少に悩む中小の市町村にとっては深刻な問題であるが、結果としてコンセッション事業への移行に伴う「転籍」は、地方公務員法第二十八条などを適用するということになる可能性が高い。これらのことについても、同ガイドラインで触れられていないのはなぜか。

五 前回答弁書の「五について」では、「「厚生労働省をはじめとした・・・TUPE(事業を譲渡する会社の雇用を守ることを目的とした法規制)について研究・討議してきた」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である」とのことである。しかし、TUPEの経過と重要性について、政府が全く認識していないとは考えられない。
 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律が平成十一年に成立する前に、小渕第一次内閣の下で、内閣府政策統括官室が中心となり、厚生労働省(当時、厚生省)、総務省(当時、総務庁、自治省)、経済産業省(当時、通商産業省)等の担当者とともに、三井物産研究所、三菱UFJ総合研究所等の民間研究機関からのメンバーとの合同PTの立ち上げによって、雇用問題を含めた当該法案の作成が進められていた。
 この中のスタッフでもあった広島国際大学の森下正之教授はその後、日本で最初にPFIに関する総合的な解説をした冊子「PFI」を発表した。この中でも、当該法案の作成にあたりTUPEについて議論されていたことが詳述されている。
 厚生労働省医政局は、PFI等についての研究調査を行い、平成十七年三月付で「医療関係PFIにおける公務員の利活用・移籍等に関する検討調査結果報告書」の「第四章 公務員の処遇に係る多様な選択」(調査受託 三井物産戦略研究所)を発表した。
 この中で、英国等の現地調査を含め、研究調査に参加したスタッフの一員でもあった三井物産戦略研究所長(当時)の美原融氏は、日本でPFIを導入する場合、日本版TUPEが必要ではないかとの意見が出され議論されたと証言している。
 また、平成十七年六月付で内閣府政策統括官室が作成した「行政改革にともなう雇用問題課題」のなかでもTUPEについて紹介されている。
 宮城県の水道事業のコンセッション化のために取り組んできた福田隆之官房長補佐官(当時)は、平成二十五年十二月付の「規制改革のアイディア」で「公務員の出向制度・転籍制度の整備」について、「現在の官民交流法が、小規模で三年から五年程度の出向しか想定していないことから、新たに数百人規模、十年~二十年程度の出向を想定した仕組みを設けるべきである。また、公務員を転籍させる場合に、現在の労働契約承継の個別同意という手法ではなく、労働契約の包括的な承継(転籍前の条件で)を可能とする仕組みを導入すべきである(日本版TUPE)」と述べている。
 前回答弁書では、こうした経過が全て欠落しており、担当者の認識不足の責任は重い。政府は、今後、水道事業を始め、インフラ整備事業全般をコンセッション事業に転換すると思われるが、並行してTUPEについて、より論議を深め、国家公務員、地方公務員を問わず、非公務員を含め、職場で働く職員・労働者、自治体当局等に対して、その情報提供を進める必要があるのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。