質問主意書

第200回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二一号

安倍総理の「人種平等」に関する所信表明演説が歴史の曲解及び捏造であることに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和元年十二月九日

小西 洋之   


       参議院議長 山東 昭子 殿



   安倍総理の「人種平等」に関する所信表明演説が歴史の曲解及び捏造であることに関する質問主意書

 安倍総理は、本年十月四日の参議院本会議での所信表明演説において、「提案の進展を、全米千二百万の有色の人々が注目している。百年前、米国のアフロ・アメリカン紙は、パリ講和会議における日本の提案について、こう記しました。一千万人もの戦死者を出した悲惨な戦争を経て、どういう世界をつくっていくのか。新しい時代に向けた理想、未来を見据えた新しい原則として、日本は人種平等を掲げました。世界中に欧米の植民地が広がっていた当時、日本の提案は、各国の強い反対にさらされました。しかし、決してひるむことはなかった。各国の代表団を前に、日本全権代表の牧野伸顕は、毅然としてこう述べました。困難な現状にあることは認識しているが、決して乗り越えられないものではない。日本が掲げた大いなる理想は、世紀を超えて、今、国際人権規約を始め国際社会の基本原則となっています。」と述べている。
 これに関して、以下の事項を質問する。

一 安倍総理が「日本は人種平等を掲げました」とするところの「日本の提案」とは、パリ講和会議において、牧野伸顕日本全権代表が大正八年二月十三日と四月十一日に国際連盟規約に挿入することを求めた人種差別撤廃規定に係る提案のことを指しているのか。なお、人種差別撤廃規定との文言及び当該規定の内容並びにその提案の経緯については、日本外交文書(大正八年第三冊上巻 外務省編纂)の四百四十三頁以下に記されているところである。

二 「日本の提案」の内容について、当時の日本がどのような提案を行ったのかについて政府の認識するところを具体的に示されたい。その際には、なぜ、当該提案が「人種平等を掲げました」と評価できるのかについての理由も示されたい。

三 「世界中に欧米の植民地が広がっていた当時、日本の提案は、各国の強い反対にさらされました。」とあるが、「各国の強い反対にさらされ」た理由について、政府は、「人種平等」に関する「日本の提案」が当時の欧米各国による植民地の広がりやそれに関する人種差別等の植民地政策と矛盾するために欧米各国は当該提案に対して反対したと考えているのか。

四 安倍総理が「日本は人種平等を掲げました」とするところの「日本の提案」とは、当時の欧米各国による植民地の広がりやそれに関する人種差別等の植民地政策に反対する趣旨を含むものであったのかについて、政府の見解を示されたい。含むものであると考える場合はその根拠について具体的に示されたい。

五 パリ講和会議の当時、日本は朝鮮半島及び台湾を植民地としていたが、「人種平等」に関する「日本の提案」は、日本が朝鮮半島及び台湾を植民地としていたことと矛盾しないものであったと考えているのか。矛盾しないものと考える場合はその根拠を示されたい。

六 日本がパリ講和会議以降の朝鮮半島を植民地として統治している間に行ったいわゆる創氏改名について、政府の見解を示されたい。また、パリ講和会議での「人種平等」に関する「日本の提案」の内容が、この創氏改名と矛盾しないかどうかについて政府の見解を示されたい。なお、矛盾しないと考える場合は具体的な根拠を示すこと。

七 「国際人権規約を始め国際社会の基本原則」とは具体的に何を指すのかを説明されたい。特に、例示されている国際人権規約においては、どの規定を指すのか、また、当該規定のどの文言を指すのかについて具体的に示されたい。

八 パリ講和会議において日本が掲げたという「人種平等」と、人種に係る「国際人権規約を始め国際社会の基本原則」とは内容として同趣旨のものと考えているのか。同趣旨のものと考える場合はその理由について、違いがあると考える場合はその違いについて具体的に示されたい。

九 人種に係る「国際人権規約を始め国際社会の基本原則」は、どのような経緯によって国際法として形成されたものと認識しているか政府の見解を示されたい。

十 「国際人権規約を始め国際社会の基本原則」の形成に当たり、パリ講和条約において日本が「人種平等」を掲げたことが具体的にどのような影響を与えたと考えているのか、具体的に示されたい。

十一 「日本が掲げた大いなる理想」の内容について具体的に示されたい。

十二 「新しい時代に向けた理想、未来を見据えた新しい原則として、日本は人種平等を掲げました。・・・日本が掲げた大いなる理想は、世紀を超えて、今、国際人権規約を始め国際社会の基本原則となっています。」との見解について、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の第一条第三項においては「この規約の締約国は・・・自決の権利が実現されることを促進し及び自決の権利を尊重する」とされているところ、政府は、当該条項の制定にはパリ講和会議での「日本が掲げた大いなる理想」なるものが何らかの影響を与えたと考えているのか。影響を与えたと考える場合はその具体的根拠を示されたい。

十三 安倍総理が「日本は人種平等を掲げました」とするところの「日本の提案」とは、日本国憲法が定める国際協調主義と合致するものであるのかについて政府の見解を示されたい。合致すると考える場合は、具体的な根拠を示されたい。

十四 パリ講和会議で日本が提案した事項は、国際連盟加盟国内における日本人への差別の解消のみを企図したものであり、欧米及び日本による人種差別に基づく植民地を有していた事実や各国の自決の権利の実現の促進及び自決の権利の尊重等を定めた国際人権規約を始めとする現在の国際社会の基本原則とは整合し得ないものであり、「新しい時代に向けた理想、未来を見据えた新しい原則として、日本は人種平等を掲げました。・・・日本が掲げた大いなる理想は、世紀を超えて、今、国際人権規約を始め国際社会の基本原則となっています。」との主張は歴史の曲解かつ歴史の捏造というべきものではないか。

十五 当該所信表明演説の「人種平等」に関する部分は誰の発案によるものなのか。安倍総理自身なのか、総理秘書官等によるものなのか、具体的に示されたい。また、このような内容を当該演説で行った目的や意図は何かについて、具体的に示されたい。

  右質問する。