質問主意書

第200回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇八号

児童扶養手当受給者のプライバシーに過度に踏み込んだ調査などの是正に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和元年十二月六日

田村 智子   


       参議院議長 山東 昭子 殿



   児童扶養手当受給者のプライバシーに過度に踏み込んだ調査などの是正に関する質問主意書

 児童扶養手当受給者(以下「受給者」という。)に対し、定期的な異性宅への訪問(受給者の自宅への異性の訪問)及びその頻度を尋ねる、受給者や交際相手の妊娠の有無等を尋ねる、妊娠した場合は速やかに市役所に報告をすることの誓約を求めるなど、プライバシーに過度に介入するような質問や文書の提出を担当窓口が求める自治体が少なくない。受給者からは、「「ここまで聞く必要がある?」と毎年憂鬱。まるで母子家庭になった事への罰則のよう」(二〇一九年八月二十七日付け朝日新聞)との声も聞かれる。
 こうした児童扶養手当を担当する窓口の在り方は、異性との交際や恋愛の自由など憲法で保障された幸福追求権を制約しかねないものであり、是正が必要である。この立場から以下質問する。

一 児童扶養手当を受給していたとしても、異性との交際や恋愛の自由は保障されていると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 国や自治体は、受給者の異性との交際や恋愛の自由を侵害することは許されないと考えるがどうか。また、児童扶養手当の毎年の現況報告の中で、異性との交際の事実やその態様の報告を一律に求めるなど、異性との交際や恋愛の自由が制約されていると受給者や住民に思わせるような行為は厳に慎むべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 厚生労働省は本年九月三十日に事務連絡「児童扶養手当の事務運営における調査の適正な実施について」(以下「適正実施事務連絡」という。)を発出し、現地調査として行われる受給者の自宅等への立入調査の適正な実施を求めている。この中で「自宅内を含めた調査で必要な場合には、同条に基づく調査でなく、受給資格者の同意を得て行う必要がある」こと、「必ず丁寧に調査の趣旨を説明し、受給資格者の同意を得た上で、調査される側の状況や立場を考慮し調査担当者や調査日時を設定するなどプライバシーに十分配慮し、対応する必要がある」ことなどについて、改めて周知を図っている。

1 立入調査権限は児童扶養手当法(以下「法」という。)に規定されておらず、立入調査を行う場合には受給者の同意を得なければならないと思うがどうか。また、立入調査に同意しないことのみを理由に児童扶養手当の支給停止決定などの不利益処分はできないと考えるがどうか。これらのことを受給者に周知すべきではないか。
2 適正実施事務連絡には「必ず丁寧に調査の趣旨を説明」とあるが、立入調査についての同意を得るに先立って、立入調査に同意しないことのみを理由に児童扶養手当の支給停止決定などは行わないこととともに、何のために立入調査が必要なのか、何を調査するのか受給者に明確に説明する必要があると思うがどうか。
3 適正実施事務連絡では、調査される側の状況を考慮し、調査日時を設定することを求めている。法は自治体に対して立入権限を認めておらず、受給者の自宅等への立入調査は受給者の同意を前提とする任意の調査である。また、立入権限を明文で規定している生活保護法でさえ、原則として日没前後の立ち入りは行わないとしている。これらの趣旨に鑑み、受給者の自宅等への立入調査を日没後に行うことは慎むべきと考えるがどうか。
4 適正実施事務連絡では、調査される側の状況や立場を考慮して調査担当者を設定するとしているが、この趣旨を説明されたい。立入調査は受給者の同意を前提とする任意の調査であり、私生活の平穏に配慮しなければならないことから、日没前に行うものであっても、異性の自治体職員が一人で行うことは慎み、原則として同性を含めた二人以上の自治体職員で行うことが望ましいと考えるがどうか。
5 適正実施事務連絡では、現地調査は受給者のプライバシーに配慮しなければならないとしている。加えて、私生活の平穏にも配慮することは当然であり、仮に受給者から立入調査について同意を得たとしても、室内や衣服下着などの受給者やその家族の所有物の写真撮影は必要性が厳格に求められ、かつ、撮影された写真は自治体が組織として厳格に管理することが求められると考えるがどうか。公の管理下にはない、立入調査を行った者の私有するカメラ・スマートフォン等での撮影及びデータ、写真の保管・管理はあってはならないと思われるがどうか。

四 住民から児童扶養手当の不正受給を疑う通報があれば、文書の提出や立ち入りなどの調査が行われている。
 香川県高松市では、不正受給を疑う通報を受けた市の男性職員が一人で、約束のないまま母子世帯を夜間に訪問し、その場で調査に協力しなかった場合には児童扶養手当の支給を打ち切ることを示唆した上でその場で受給者の「同意」を得たとして、立ち入りを行い洗濯物やトイレ、浴室、寝室を調査した。その際に、当該男性職員が私物のスマートフォンでタンスの中の衣類等を撮影し、その事実を管理職などは把握していなかったことも明らかになっている。その結果、受給者である女性はうつ病の診断を受け、しばらく仕事にいけなくなった。
 本事案は本年六月に高松市議会でも問題となっており、このような不適切な立入調査はあってはならないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 1 適正実施事務連絡では、立入調査について「必ず丁寧に調査の趣旨を説明し、受給資格者の同意を得」ることを求めている。この点、立入調査に応じなければ児童扶養手当の支給が止まるなどの虚偽の説明などによって、受給者の同意を得ることはあってはならないと考えるがどうか。また、このことについて、児童扶養手当の受給者にも周知を図るべきではないか。

2 夜間に、児童扶養手当の受給決定の可否を審査する担当職員が受給者の帰宅を自宅前で待ち受けて、自宅の中等を見せて欲しいと言ったら、受給者や児童扶養手当の申請者は、児童扶養手当の支給の打ち切りや不支給の決定などの不利益を恐れて、本意ではないが同意をせざるを得ない状況に追い込まれかねない。これでは同意の任意性が担保されたとは言えない。そもそも受給者の自宅等への立入調査は犯罪調査を目的としたものではなく、受給者の同意がなければ行えないのであり、自宅前で待ち構えて同意を迫るようなことは許されない。立入調査を行う場合、自治体職員は電話や窓口で事前に受給者の同意を得るとともに、訪問日時を約束するようにすべきではないか。

六 1 児童扶養手当事務マニュアルでは、児童扶養手当の認定申請時、現況届時に疑いがあった場合、住民や関係機関から通報があった場合には、自治体職員や民生委員等による現地調査を行うことを求めている。この規定を受けて、自治体においては、独身である旨を民生委員へ説明し、証明をもらうことを認定申請者に求めている例、現況届が正しいことの確認を民生委員からもらうことを受給者に求めている例、認定申請時などに民生委員に家庭訪問をしてもらって様子を確認してもらう例、地域住民などから不正申請を疑わせる通報・情報提供があった場合に民生委員に聞き取りや立ち入りを行わせている例などがある。
 児童扶養手当事務マニュアルは、右に例示したように、児童扶養手当の認定申請や現況届の事実関係について民生委員に証明を一律に行うことを求めているのか、自治体職員が行うべき聞き取りや現地調査を民生委員に行わせたり、一律に立ち会わせたりすることを求めているのか。これらが政府の求めていることではないとするならば、児童扶養手当事務マニュアルの改訂等によって政府の意図を明らかにすべきではないか。
2 非常勤公務員とはいえ、民生委員は地域住民のボランティアである。都会などでは民生委員が担当地域の受給者や認定申請者等の顔さえ知らないケースも増えている。民生委員が既に把握している情報の提供はともかく、児童扶養手当の認定申請時や現況届時に民生委員に聞き取りを行わせ、その上で事実の確認をさせること、立入調査を民生委員に行わせ、または受給者や認定申請者等から求めたわけでもないのに立入調査へ同席させることは、受給者や認定申請者等にプライバシーを近隣住民にさらけ出すことを強いることであり、児童扶養手当の認定申請等の不必要な障壁となっているのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

七 自治体窓口で行われる児童扶養手当の認定申請や現況届の際に、隣との仕切りはあるものの、他の相談者や来訪者に声が丸聞こえという状態で受給者や認定申請者等に聞き取りを行っている自治体が多々あると聞いている。これが児童扶養手当の認定申請等への心理的障壁となっていると考えるがどうか。支援を必要とする者が支援を求めることを必要以上にためらうことがないように、家庭状況の聞き取りなどプライバシーに属する情報は、声が他の相談者や来訪者に聞こえないように個室などで行うべきと考えるがどうか。

八 1 法は「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合」(法第三条第三項。以下「事実婚」という。)も婚姻とし、児童扶養手当を支給しないこととしている。事実婚の状態になければ、異性と交際をしていても児童扶養手当の支給廃止・停止の要件には該当しないと考えるがどうか。

2 児童扶養手当の申請時に妊娠中の子どもを出産した場合を除き、一律に受給者が妊娠したと推定される日、または出産時から十月十日遡った日を受給資格喪失日とするなど機械的な取り扱いは行うべきではないと考えるがどうか。
3 事実婚であれば児童扶養手当は支給されない。しかし、同居していなくても事実婚と判断される場合があるなど、自治体が何をもって事実婚と判断するかは不明確である。そのことは私生活への干渉、プライバシー侵害につながりかねない自治体の対応にも現れている。児童扶養手当の支給の打ち切りは一人親世帯にとっては死活問題であり、曖昧な基準を見直す必要がある。判例を基礎としつつも、児童扶養手当の認定申請の却下や停止、打ち切りなど重大な影響がある処分を行うのは一定期間夫婦として同居し、生計を同一にしている場合に限定するなど、予測可能性の高い明確な判断基準にしていくべきではないか。将来的にはライフスタイルにかかわらず低所得世帯が受け取れる子育ての手当を充実させるようにしていくべきではないか。

  右質問する。