質問主意書

第200回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四〇号

日韓基本条約第三条の解釈に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和元年十月二十九日

熊谷 裕人   


       参議院議長 山東 昭子 殿



   日韓基本条約第三条の解釈に関する質問主意書

 日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約(以下「日韓基本条約」という。)第三条では、「大韓民国政府は、国際連合総会決議第百九十五号(Ⅲ)に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」としている。
 一九四八年十二月十二日の国際連合総会決議第百九十五号(Ⅲ)(以下「本国連決議」という。)では、国連朝鮮臨時委員会が監視及び協議を行うことができ、かつ全朝鮮の人民の大部分が居住する部分に対して有効な支配及び管轄権を及ぼしている合法的な政府(大韓民国政府)が樹立されたことを宣言している。ただし、朝鮮統一は達成されていないという事実に留意すべきことが明示されている。
 しかし、現実的には、安倍総理は前提条件なしで金正恩委員長との会談を行う準備があることを表明しており、歴代の韓国大統領も北朝鮮の金正日総書記、金正恩委員長との会談を行っている。このような北朝鮮に対する日韓の取り組みに鑑みれば、日韓基本条約と本国連決議に記述されていることと現実との整合性をどのように考えるのか疑問点は多い。
 これについて、平成二十八年九月十四日の衆議院外務委員会で外務省大臣官房審議官は、「日韓基本関係条約におきましては、北朝鮮については何ら触れておりません。言いかえますと、一切を北朝鮮につきましては白紙のまま残しているということでございまして、今後我が国として北朝鮮とどのような関係を構築するか、こういった点につきましては今後の問題として残されている」との見解を示している。
 これは、昭和四十年十月二十九日の衆議院日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会における椎名外務大臣の「今回の条約は、一切休戦ライン以北の問題に触れておりません。いわば白紙の状態である」との見解を踏襲するものと解される。
 右を踏まえて、以下質問する。

一 現在においても、日韓基本条約第三条に関連して、政府の北朝鮮に関する取り扱いは「白紙の状態」であるとの理解でよいか。

二 安倍総理が金正恩委員長と前提条件なしで会談を行う意思を表明することは、日韓基本条約第三条の趣旨に反しないのか。

三 日韓基本条約が締結されるとともに、付随して交わされたいくつかの協定の一つに財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(以下「日韓請求権協定」という。)がある。日韓請求権協定第二条では、両国及びその国民の間の請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決された」ことを確認しているが、同条は当時、政府が「合法的な政府」ではないと見なしていた北朝鮮には適用されないという理解でよいか。

四 前記三に関連して、前述の椎名外務大臣の「今回の条約は、一切休戦ライン以北の問題に触れておりません。いわば白紙の状態である」との見解が維持されている以上、北朝鮮側から莫大な経済援助を求められれば日本側は拒むことはできないのではないか。政府の見解如何。

五 文在寅大統領の下で韓国は北朝鮮との宥和政策を推し進めているものの、昭和四十年八月五日の韓国国会の韓日間条約及び諸協定批准同意案審査特別委員会では、李東元外務部長官が「大韓民国が韓半島における唯一の合法政府である。従って今後日本が北と正常な外交関係または領事関係を結ぶ可能性を封鎖した」と発言し、また、同月八日には、「基本関係条約の締結によって日本との関係で大韓民国政府の唯一合法性が確認された以上、日本は、条約を破棄しない限り北といかなる法的な関係も結べない」と発言している。韓国政府の「日本は、(日韓基本)条約を破棄しない限り北といかなる法的な関係も結べない」との見解に対する日本政府の所感如何。また、日韓基本条約第三条とは関係なく北朝鮮との「法的な関係」は結べるという理解でよいか。

六 昭和四十年八月九日の韓国国会の韓日間条約及び諸協定批准同意案審査特別委員会で文徳周外務部次官は、日韓基本条約第三条について、「日本が今後北といかなる外交関係も結ばせない予防的な措置として韓国側から要求した」と発言しているが、同条のこのような効果は現在失効しているとの理解でよいか。

  右質問する。