質問主意書

第200回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三六号

即位礼正殿の儀に合わせて実施された恩赦に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和元年十月二十三日

熊谷 裕人   


       参議院議長 山東 昭子 殿



   即位礼正殿の儀に合わせて実施された恩赦に関する質問主意書

 日本国憲法第七十三条では「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ」とされ、同条第七号で「左の事務」の一つとして「大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること」があげられている。
 恩赦法では、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の手続きの概要が定められているにとどまり、その「決定」の具体的な内容については内閣の判断によるものと解されている。
 令和元年十月十八日、菅官房長官は記者会見で、同月二十二日の「即位礼正殿の儀」に合わせて実施する恩赦(以下「本恩赦」という。)について、「令和の時代を迎え、即位の礼が行われる。この慶事に当たり、罪を犯した者の改善更生の意欲を高めさせ、社会復帰を促進する見地から恩赦を実施する」旨発言した。
 本恩赦では、政令恩赦として、平成二十八年十月二十一日までに罰金を納めた約五十五万人が対象となったと承知している。罰金刑を受けると、原則として医師や看護師など国家資格を取得する権利が五年間制限されるが、本恩赦によりこうした権利が回復する。
 法務省によると、本恩赦の対象者の約八割が道路交通法や自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律などの違反であり、公職選挙法違反による罰金納付から三年が経過した約四百三十人の公民権なども回復される。
 政令恩赦については、制度そのものに合理的な理由が見いだせないという指摘がある。国民の中から選ばれた裁判員が刑事裁判に関与する現在、果たして改元などの理由でその判断を内閣が事後的に覆すことに合理的な説明がなされ、国民の理解を得られるだろうかという点である。
 皇室の慶事を国をあげて言祝ぐことは、ほとんどの国民にとって異論はないことであろう。しかしながら、「行政事務」を「行ふ」内閣が「決定」する恩赦は、国民の代表者で構成される国会の定めた法律に従い、裁判所が科した刑事罰を、裁判の手続きなく消滅させたり変更したりするものであり、行政権が立法権と司法権を侵害するという問題点がある。恩赦を行う場合、三権分立の観点から慎重に判断すべきであり、また、恩赦は、他の制度では不十分な場合に限って行われるべきと考える。
 右を踏まえて、以下質問する。

一 本恩赦は「復権」に限られ、減給や戒告の懲戒処分を受けた公務員に対する懲戒処分の免除は見送られたという理解でよいか。

二 法務省は「新しい令和の時代を迎え、即位の礼が行われます。この慶事に当たり、罪を犯した者の改善更生の意欲を高めさせ、その社会復帰を促進するという刑事政策的な見地から、今般、恩赦を実施することとなりました」としているが、即位の礼がいつ行われるのかは一般国民には分からないことであり、その実施を根拠として「罪を犯した者の改善更生の意欲を高めさせ」るとすることには合理性がないのではないか。すなわち、いつあるのか分からない式典の実施が「罪を犯した者の改善更生の意欲を高めさせ」ることにつながることの合理性は見いだし難いと思われる。政府の見解如何。

三 直近の複数の世論調査でも、今般の恩赦に反対すると答えた者は賛成すると答えた者の倍以上である。前述のとおり、恩赦を行う場合、三権分立の観点から慎重に判断すべきであり、また、恩赦は、他の制度では不十分な場合に限って行われるべきと考える。政府は本恩赦を実施するにあたり、他の制度では不十分であると判断したのか。

四 政令恩赦は一律に決められるため、個別に検討されることはない。個別恩赦のように中央更生保護審査会の審査を経ることなく、事案ごとに被害者の意向を聞くこともない。また、国民や専門家などがその妥当性を確認しようとしてもその仕組みが存在しない。このため、手続きが不透明になりやすいとともに、その妥当性を確認することもできず、内閣の恣意的な運用がなされる懸念がある。政令恩赦は、行政の透明性の確保や国民主権の観点から極めて抑制的に行われるべきではないか。政府の見解如何。

五 前記四に関して、本恩赦は約五十五万人を対象としており、昭和から平成への改元の時の恩赦と比較すれば対象者は少ない。かかる観点から、本恩赦は抑制的に行われたと考えているのか。政府の見解如何。

  右質問する。