第200回国会(臨時会)
質問第二三号 中距離核戦力(INF)全廃条約の失効に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和元年十月十日 熊谷 裕人
参議院議長 山東 昭子 殿 中距離核戦力(INF)全廃条約の失効に関する質問主意書 アメリカのトランプ大統領が二〇一八年十月に中距離核戦力(INF)全廃条約(以下「INF条約」という。)からの離脱を表明し、二〇一九年八月二日にINF条約は失効した。 INF条約をめぐる議論は、米露間およびNATOを中心に展開されてきたものの、この条約の失効にともない、日本を含めたアジアへ大きな影響が生じる懸念がある。すなわち、アメリカの当時のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が指摘しているように、アメリカがINF条約を離脱した主な理由は近年競争相手となった中国に対抗するためと考えられている。 中国は、七十基の大陸間弾道ミサイルのほか、INF条約で廃棄対象となった中距離弾道ミサイル(IRBM、射程距離は三千から五千五百キロメートル)を十六基、核弾頭搭載可能な準中距離弾道ミサイル(MRBM、射程距離は一千から三千キロメートル)を八十基保有していると推定される。このうちMRBMは日本全域を射程に収め、IRBMはグアムのほか東南アジア全域などを攻撃できる。中国のINFはアジアにおけるアメリカの同盟国を射程に収めているだけでなく、沖縄やグアムの主要な米軍基地を攻撃できる能力を備えている。 これに対して、日本政府は、二〇一九年二月二十日の衆議院予算委員会で外務大臣が「INF全廃条約には日本は入っておりませんので、何ら義務を負っておりません」と答弁し、同年三月二十二日の参議院予算委員会で外務大臣官房審議官が「日本はINF条約の当事国ではございませんので、お答えをする立場にはないということで御理解をいただきたい」と答弁する一方、同年七月二十九日の記者会見で外務大臣は「日本としてはINFというのは非常に重要な条約ですので、できればこれをしっかり維持して、発展をさせていただきたいと思っていることに、なんら変わりはありません」と述べている。 以上を踏まえ、以下質問する。 一 安倍総理は、機会があるごとに「日米が百%共にある」と述べ、トランプ大統領との蜜月を強調しているが、政府は、今次のINF条約の失効を生じさせたトランプ大統領のINF条約からの離脱表明を支持しているとの理解でよいか。 二 日本政府はこれまで積極的に核軍縮に取り組み、世界的にも高い評価を得ているものと承知している。外務大臣の「日本としてはINFというのは非常に重要な条約ですので、できればこれをしっかり維持して、発展をさせていただきたいと思っていることに、なんら変わりはありません」との見解はこの立場に立つものである。しかしながら、政府は、日米同盟の重要性に鑑み、INF条約からの離脱表明に関するトランプ大統領の判断を公然と批判していない。これは、前述のアメリカがINF条約を離脱した主な理由に政府が一定の理解を示しているためではないのか。政府の見解如何。 三 政府は、アメリカのINF条約からの離脱は、中国が保有しているとされるIRBM、MRBM等への対抗措置を取るためには、やむを得ないと判断しているのか。政府の見解如何。 四 政府はこれまで、INF条約のあり方をめぐる議論に関わらないことが政治的には賢明であり、いわば意図的に議論の蚊帳の外にいることを選択していたとの指摘がある。しかしながら、INF条約が失効した現在、「INF全廃条約には日本は入っておりませんので、何ら義務を負っておりません」や、「日本はINF条約の当事国ではございませんので、お答えをする立場にはない」といった姿勢を維持しているだけでは、核軍縮に取り組む日本としては不十分な態度であると考える。今後どのような方針で核軍縮に取り組む予定か。政府の見解如何。 右質問する。 |