質問主意書

第200回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四号

未批准のILOの基本条約(第百五号・第百十一号)の早期批准に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和元年十月八日

石橋 通宏   


       参議院議長 山東 昭子 殿



   未批准のILOの基本条約(第百五号・第百十一号)の早期批准に関する質問主意書

 国際労働機関(ILO)は一九一九年にベルサイユ条約によって国際連盟と共に誕生し、本年創立百周年を迎えた。ILOは社会正義と人権及び労働権を推進する国連の専門機関として、労働・生活条件を改善するための国際的な政策やプログラムを策定し、これを実現するための国際労働基準を設定し、幅広い技術協力や、必要な研修、教育、調査研究を行ってきた。わが国はILO原加盟国として、長年にわたってその活動の重要な一翼を担い、国内外でILO活動の推進を図ってきた。
 一九九八年に採択された「労働における基本的な原則及び権利に関する宣言」では、加盟国が尊重・遵守すべき四つの基本的権利に関する原則が定められ、それに対応する八つの中核的条約について、その批准と履行に向けた国際的な努力が続けられてきた。
 これらを踏まえ、二〇一九年六月二十六日の衆議院本会議及び参議院本会議において、「国際労働機関(ILO)創設百周年に当たり、ILOに対する我が国の一層の貢献に関する決議案」が全会一致で可決された。同決議には、「八つの基本条約のうち、未批准の案件については、引き続きその批准について努力を行うとともに、既批准条約の確実な履行に向けても国際社会とともに一層の努力を傾注していかなければならない」とある。
 わが国は、ILOの基本条約のうち、「強制労働の廃止に関する条約」(第百五号。以下「ILO百五号条約」という。)及び「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」(第百十一号。以下「ILO百十一号条約」という。)が未批准である。
 ILO憲章前文では「いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となる」とされている。
 また、日本国憲法前文には「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とある。
 ILO憲章前文及び日本国憲法前文の精神を踏まえれば、未批准の二条約の早急な批准が求められると思料するため、以下質問する。

一 ILO百五号条約は、(a)政治的な圧制もしくは教育の手段又は政治的な見解もしくは既存の政治的、社会的もしくは経済的制度に思想的に反対する見解を抱き、もしくは発表することに対する制裁として、(b)経済的発展の目的のために労働力を動員し及び利用する方法として、(c)労働規律の手段として、(d)ストライキに参加したことに対する制裁として、(e)人種的、社会的、国民的又は宗教的差別待遇の手段としての強制労働及び義務的労働を禁止するものである。
 わが国の公務員に労働基本権が付与されていないことに関連して、ILO百五号条約にストライキへの参加に対する制裁禁止条項が存在していることが、わが国がILO百五号条約を批准できない理由にあたるのか。また、それ以外にわが国がILO百五号条約を批准できない理由はあるか。

二 ILO百十一号条約が定義する差別待遇とは、人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身に基づいて行われるすべての差別、除外又は優先で、雇用又は職業における機会又は待遇の均等を破り又は害する結果となるものをいう。この中には、職業上の訓練を受けること、雇用されること及び特定の職業に従事すること並びに雇用の条件に関連する差別待遇を含むとされている。ILO百十一号条約は批准国に対して、雇用及び職業についての差別待遇を除去するために、国内の事情及び慣行に適した方法により、雇用又は職業についての機会及び待遇の均等を促進することを目的とする国家の方針を明らかにし、かつ、これに従うことを求めている。
 わが国は、日本国憲法第十四条で法の下の平等を謳うとともに、労働基準法第三条及び職業安定法第三条で均等待遇を定めているが、これらの規定だけでは、ILO百十一号条約は批准できないのか。もし不十分であるとすれば、ILO百十一号条約の批准に向けて、今後わが国においてどのような法改正を講じなければならないと考えるか。

  右質問する。