第199回国会(臨時会)
質問第一〇号 ホルムズ海峡におけるタンカー襲撃事案に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和元年八月二日 熊谷 裕人
参議院議長 山東 昭子 殿 ホルムズ海峡におけるタンカー襲撃事案に関する質問主意書 令和元年六月十四日、岩屋防衛大臣は記者会見で、中東のホルムズ海峡付近で日本企業が運航するタンカー(船籍はパナマ)が攻撃された事案(以下「本件事案」という。)に関して、集団的自衛権の行使の案件には当たらないと発言した。また「この事案で部隊を派遣する考えはない」と述べた。これは、攻撃主体が特定されていないことに加え、我が国へのエネルギー供給が途絶えるほどではなく、自衛権の行使のための新三要件でいう存立危機事態には当たらないと判断したためであろう。 集団的自衛権の行使は、平成二十七年に閣議決定されたいわゆる「新三要件」に従い、限定的に行使できることになった。すなわち、密接な関係にある他国への武力攻撃が日本の存立に影響を及ぼす場合など「新三要件」を満たす必要があり、攻撃主体についても「国または国に準じる組織」からの攻撃を受けた場合にのみ許されると承知している。 政府は安全保障関連法案の審議において、ホルムズ海峡で発生した事案が存立危機事態に該当すれば、自衛隊を機雷掃海活動に派遣できるとの見解を示している。平成二十七年九月十四日、参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で安倍総理は、「存立危機事態におけるホルムズ海峡の機雷掃海」に関して、「存立危機事態が認定され、第三要件を満たすときは、停戦合意がいまだなされず、敷設された機雷の除去が国際法上の武力の行使に当たると解釈される場合であっても、防衛出動を下令された海上自衛隊の部隊は機雷の除去を実施することが可能」と答弁している。ホルムズ海峡が日本にとって重要なエネルギー供給ルートであることを考慮すれば、そこで発生した事案は存立危機事態に該当し得るとの見解と思料する。 もっとも本件事案では我が国へのエネルギー供給は途絶えず、船舶への攻撃も続いていないため、防衛大臣は、集団的自衛権の発動に関し「ここまでの情報では、そういう事態に当たらない」と発言している。また防衛大臣の判断で船舶の護衛に自衛隊を派遣する「海上警備行動」や海賊対処の部隊の協力も、現時点で検討していないとも発言している。 しかしながら、ホルムズ海峡を経由して我が国に輸入される原油の割合は我が国の原油輸入量の約八割であり、年間六百五十隻のタンカーが航行しており、我が国の海上輸送路としてのホルムズ海峡の重要性は論を俟たない。 以上のことを踏まえて、政府の見解を確認したいので、以下質問する。 一 本件事案は新三要件に該当せず、「この事案で部隊を派遣する考えはない」と防衛大臣が発言しているのは、攻撃主体が特定されていないためか。それとも、我が国へのエネルギー供給が途絶えるほどではないためか。それともその両者に該当するためであるのか。政府の見解如何。 二 アメリカ政府は、本件事案はイラン革命防衛隊による攻撃であるとしているが、そうだとすれば、攻撃主体は「国または国に準じる組織」ではないのか。これについて、アメリカ政府と日本政府の認識には齟齬があるのか。政府の見解如何。 三 公海上での日本企業の運航するタンカーへの襲撃が存立危機事態として認定されるためには、旗国主義に基づき船籍のある国の政府からの要請が必要であるのか。あるいは、船籍のある国の政府の要請の有無にかかわらず、必要に応じて「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」たと日本政府が主体的に認定するのか。政府の見解如何。 四 本件事案のように日本企業が運航するタンカーが攻撃されることは、この海域で日本企業の船舶の航行が困難になることにつながりかねないが、本件事案のような一隻のタンカーに対する攻撃だけでは、日本へのエネルギー供給は途絶えず、防衛大臣がいうところの、「ここまでの情報では、そういう事態に当たらない」ため、新三要件に該当しないという理解でよいか。 五 前記四に関連して、これが日本企業の運航する複数のタンカーへの攻撃であれば、新三要件でいう存立危機事態に該当することは排除されないという理解でよいか。 六 自衛隊法第八十二条は、「防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる」と規定しているが、自衛隊の海上警備行動に地理的制約はないという理解でよいか。 七 前記六に関連して、「自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずる」場合、ホルムズ海峡も排除されないという理解でよいか。 八 七月二十六日の産経新聞は、ホルムズ海峡周辺での船舶の護衛に向けたアメリカ主導の有志連合構想に関して、日本に関係する船舶を守るため、自衛隊法第八十二条に基づく海上警備行動で海自護衛艦などを派遣すべきだとする海上自衛隊の自衛艦隊司令官経験者の談話を報じている。同談話では、アフリカ東部で海賊対処にあたっている護衛艦とP3C哨戒機を船舶護衛任務に振り向ける可能性があるとも指摘している。政府はこの二点について検討しているのか。政府の見解如何。 右質問する。 |