質問主意書

第198回国会(常会)

質問主意書


質問第六二号

あはき法に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和元年五月二十三日

櫻井 充   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   あはき法に関する質問主意書

 健康保持や疾病の予防・治療の目的で受ける「カイロ」、「矯正」、「〇〇マッサージ」などの国家資格を持たない者による医業類似行為には、国民の生命並びに健康を脅かす危険が高いものも散見される。
 独立行政法人国民生活センターの報道発表資料「手技による医業類似行為の危害-整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-」(平成二十四年八月二日)には、手技による施術によって危害が発生したという相談が「二〇〇七年度以降の約五年間で八百二十五件寄せられており」そのうち「法的な資格制度がない施術である「整体」、「カイロプラクティック」、「矯正」という語句を含む相談を合わせると三百六十六件(四十四・四%)であった」と示されている。また、消費者庁のニュースリリース「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」(平成二十九年五月二十六日)においても、平成二十一年九月一日から平成二十九年三月末までに「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術で発生した事故の情報が、千四百八十三件寄せられています」とある。この事例の中には治療期間が一ヶ月以上となる事故も多数含まれており、法的資格を持たない施術者による事故は看過できない状況であることが確認できる。
 これらの施術には法的規制がなく、安全基準も設けられていないため、取り締まりが難しく、民事責任すら問われない場合がある。
 国民を健康被害から守るとともに、あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師(以下「あはき師」という。)による施術を安心して受けられる環境を整えることが急務である。そのためにも、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下「あはき法」という。)において、国家資格を持つあはき師と無資格者それぞれの立ち位置を明確にし、無資格者による施術の取り締まりなどを強化する必要があると考える。
 以上の点を踏まえて質問する。

一 あはき法における医業類似行為の定義について

1 「医業類似行為」は、一般的に、法的な資格制度がある「あん摩マッサージ指圧」、「はり」、「きゅう」といった施術と、法的な資格制度のないカイロプラクティック治療、タイ式マッサージといった施術という二つに大別された施術を含む用語と理解されているが、そのように理解されていることを政府は認識しているか。
2 「医業類似行為」には、広義の医業類似行為と狭義の医業類似行為とがあり、広義の医業類似行為は、狭義の医業類似行為に、あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復など法律により公認されたものをあわせた概念であると理解されているが、本理解について政府の認識を示されたい。
3 あはき法第十二条は「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。」と定めている。同条の「医業類似行為」の定義については、仙台高等裁判所が昭和二十九年六月二十九日の判決において、「「疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であつて他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの」換言すれば「疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゆう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの」」と認定している。
 この判決によれば、あはき法第十二条における「医業類似行為」には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術は該当せず、無資格者が行う施術のみが含まれるものであると考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
4 厚生省は、あはき法第十二条が憲法第二十二条に反するか否かが争われた昭和三十五年一月二十七日の最高裁判所大法廷判決に関して、同年三月三十日付の厚生省医務局長通知「いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について」(医発第二四七号の一)の中で、「この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為業について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものである」との解釈を示している。したがって、厚生労働省においても、あはき法第十二条における医業類似行為には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術は該当しないという認識は共通のものであると考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
5 前記一の1及び2において、一般的な解釈として「医業類似行為」には法律により公認されたものが含まれるとする一方、前記一の3及び4において、あはき法における「医業類似行為」には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術が含まれないとする場合、国民の「医業類似行為」の理解に食い違いが生じると考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
6 前記一の5において、国民の「医業類似行為」の理解に食い違いが生じることを認める場合、その食い違いは一般国民には極めて分かりにくく、特に国家資格を持つあはき師等が資格の範囲内で行う施術とそれ以外の施術との混同を招き、国民が本来望まない施術を受けることで健康被害を生じさせるおそれがある。混同を招かないような施策が必要と考えられるが、政府の見解を示されたい。
7 あはき法第十二条における「医業類似行為」に、あはき師等が資格の範囲内で行う施術が含まれないとするのであれば、あはきは何をもって「医業類似行為」とされるのか。法令等をもって明確に根拠を示されたい。
8 平成三年六月二十八日付の厚生省健康政策局医事課長通知「医業類似行為に対する取扱いについて」(医事第五八号)における「医業類似行為」の定義を示されたい。また、あはき法第十二条における「医業類似行為」に、あはき師等が資格の範囲内で行う施術が含まれないとする場合、同通知は誤った法解釈を含んでいるものであると考えられるが、政府の見解を示されたい。

二 あはき師以外の者による医業類似行為を禁止する理由について

1 前記一の4の判決において、最高裁判所は、あはき法第十二条があはき師以外の者が医業類似行為を業としてはならないことを規定するのは、「これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない」とした上で、「ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである」と認定している。
 つまり、医業類似行為は人の健康に害を及ぼす虞があり、公共の福祉に反するものと認められることから禁止されるものであると読み取れるが、政府としてこの判示をどのように解釈しているのか、具体的かつ明確に示されたい。
2 前記一の4の判決によれば、現在経済産業省が推進する無資格者が行うリラクゼーション業(医業類似行為)は憲法第二十二条で規制される公共の福祉に反する職業であり、経済産業省が無資格者が行うリラクゼーション業を推進することは立憲主義に反する行為と思われるが、政府の見解を示されたい。
3 あはき法第十二条において禁止される「医業類似行為」が、「人の健康に害を及ぼす虞」のある業務行為のみを指していると解釈する場合、その根拠を明確に示されたい。
4 医業類似行為が「公共の福祉に反する」かどうかは、「人の健康に害を及ぼす虞」の有無によってのみ判断されるのか、政府の見解を示されたい。また、「公共の福祉に反する」かどうかを「人の健康に害を及ぼす虞」の有無のみで判断する場合、その根拠となる法令を示されたい。
5 前記二の4について、根拠となる法令がない場合、「事前に法令で罪となる行為と刑罰が規定されていなければ処罰されない」とする罪刑法定主義の原則に反するおそれがあると考えるが、政府の見解を示されたい。
6 前記二の1について、「人の健康に害を及ぼす虞」の有無は何をもって判断されるのか、具体的かつ明確に示されたい。
7 前記一の4の医務局長通知は誤った判決解釈から発したものと考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
8 あはき法第十二条の二は暫定処遇として医業類似行為の禁止の特例を定めているが、この特例の対象となる者は現在何名いるのか。該当者数を都道府県別に示されたい。

  右質問する。