質問主意書

第198回国会(常会)

質問主意書


質問第四七号

第百九十八回国会への提出が見送られた著作権法等改正案に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十一年四月二十四日

大島 九州男   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   第百九十八回国会への提出が見送られた著作権法等改正案に関する質問主意書

 政府は、第百九十八回国会に提出を予定し、検討していた著作権法等改正案(以下「政府検討案」という。)について、国民の十分な理解を得る見通しが立たなかったこと等を理由に、同国会への提出を見送った。政府検討案は、インターネット上の海賊版対策のほか、著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入等、非常に重要な内容を含むものであった。インターネット上の海賊版対策をめぐる政府の拙速な対応ぶりが、かえって適切な著作権保護や著作物利用の円滑化の阻害要因になっているのではないかとの問題意識の下、以下のとおり質問する。
 なお、この問題は国民の関心が大変高いことから、複数の質問項目に対して同様の趣旨であろうからまとめて答弁するというような雑な答弁に陥らないよう配慮いただくことを期待する。

一 著作権法等の改正をめぐる現状について

1 政府検討案の提出を見送った経緯を改めて説明されたい。
2 インターネット上の海賊版対策としてのダウンロード違法化の対象範囲の拡大については、国民生活に過度な悪影響を及ぼさない形での法改正が極めて重要であると考えるが、政府の見解を伺う。
3 著作権法等の改正に当たっては、著作権者(クリエーター)の意見を尊重するのはもちろんのこと、知的財産法学者や情報セキュリティーの専門家など幅広い有識者の意見を聞いた上で議論を進める必要があると考えるが、政府の見解を伺う。

二 政府検討案においてダウンロード違法化の対象となる行為について

1 政府検討案においては、ダウンロード違法化の対象となるデジタル方式の複製は具体的な技術、手法を限定するものではないこととしていた旨、本年三月二十六日の参議院予算委員会において中岡文化庁次長が答弁している。政府検討案においては、著作権者の許諾なくして使用されている画像のアイコンを含む画面を、当該画像が許諾なくして使用されていることを知りながらスクリーンショットした場合、違法となることとしていたとの理解で良いか。加えて、当該スクリーンショットを違法とすることは、政府検討案の主たる目的であるとされるインターネット上の海賊版対策とどのような関係があるのか、また、どのような効果をもたらすのか、説明されたい。
2 政府検討案においては、著作権者に無断でアップロードされたものと明確に知りながらデジタル方式の複製を行うことを違法としていたとのことであるが、個々の具体的な行為が違法であるか否かの判断は誰がどのように行うこととしていたのか。また、著作権者に無断でアップロードされたものと知っていたか否かを誰がどのように立証することとしていたのか、説明願う。

三 ダウンロード違法化の対象範囲を限定する要件の在り方について

1 政府検討案においては、民事上のダウンロード違法化の対象範囲について、客観的要件による対象範囲の限定を行わなかったのか。行っていない場合、その理由を説明されたい。
2 現行の著作権法第百二十三条第二項第一号及び第二号にある「原作のまま複製」との文言には、漫画本を一冊丸ごと複製する行為だけではなく、漫画本の中のある一コマのみをそのままコピーする行為も含まれ得るのか、政府の見解を伺う。
3 現行の著作権法中、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という文言を含む規定はいくつ存在するか示されたい。
4 ダウンロード違法化の対象範囲の拡大に関しては、「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ」に関するパブリックコメントや声明等を通じて、対象範囲を限定的にすべきであるとの意見表明が相次いだ。
 例えば、約百名の知的財産法・情報法の専門家が賛同している「「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する緊急声明」では、少なくとも、民事的規制及び刑事罰のいずれについても、「原作のまま」及び「著作権者の利益が不当に害される場合に限る」との要件を定めること等により、規制対象を被害実態の明らかになっている海賊版対策に必要な範囲に客観的要件により限定することが不可欠である旨の見解が示されている。
 また、インターネット上の海賊版サイトの被害者たる立場である公益社団法人日本漫画家協会も「「ダウンロード違法化の対象範囲見直し」に関する声明」を発表し、民事的規制及び刑事罰のいずれについても、「原作のまま、まるごと複製する行為」及び「権利者の利益が不当に害される場合」に限定することを求めている。
 これらの専門家や関係団体による声明は、政府検討案の内容を正確に理解した上での指摘であり、誤解に基づく批判ではない。前記二の1の参議院予算委員会において中岡文化庁次長は、「国民の皆様にどのような行為が違法となるのかを正しく御理解いただいた上で御意見をいただくことが重要」であるとし、今後丁寧な周知に努めたい旨答弁しているが、文部科学省に求められていることはそうではなく、専門家や関係団体による意見を真摯に受け止め、ダウンロード違法化の対象範囲について民事的規制及び刑事罰ともに更に限定する方向で再検討することなのであると考える。
 次期国会以降に政府が提出する著作権法等の改正案において、民事的規制及び刑事罰のいずれについても「原作のまま、まるごと複製する行為」及び「著作権者の利益が不当に害される場合」に限定するとの要件を定めることについて現時点でどのように考えているか、政府の見解を伺う。

四 インターネット上の海賊版対策において、まず取り締まるべき行為は違法アップロードであると考えるが、違法アップロードの検挙状況について説明願う。

五 著作権法等の改正に向けた検討を行った本年一月二十五日の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(以下「小委員会」という。)において、ダウンロード違法化の対象範囲の拡大について引き続きの検討を求める提案が複数の小委員会委員からなされる中、インターネット上の海賊版対策が喫緊の課題であり速やかに取りまとめる必要があることを理由に、法改正の方向性に関する小委員会としての報告書(以下「小委員会報告書」という。)の取りまとめについて、小委員会主査や文化庁職員が再度小委員会を開くことなく小委員会主査に一任を取り付ける様子が議事録に残っている。
 その後、小委員会報告書は、各小委員会委員からの追加の意見を踏まえて更なる修正を行った上で小委員会主査の責任において取りまとめられた。二月十三日の文化審議会著作権分科会(以下「分科会」という。)においては、小委員会報告書を基に作成された分科会としての報告書(以下「分科会報告書」という。)の審議が行われた。そこでは、小委員会委員でもあった分科会委員から、分科会報告書の内容について修正を求める意見があったことが議事録に残っており、小委員会報告書や分科会報告書に各委員の意見が十分に反映されているかどうかについては疑義があると考える。
 小委員会や分科会の議事録や各委員から提出された意見書等の客観的記録に照らして、三月十九日の参議院文教科学委員会における「報告書は小委員会で了承されたプロセスに沿いまして各委員の意見も十分に反映した形で取りまとめられて」いるとの中岡文化庁次長の答弁、前記二の1の参議院予算委員会における「著作権分科会においても審議をいただき全会一致で最終的な報告書が取りまとめられた」との柴山文部科学大臣の答弁は誤りではないか。小委員会において議論の打切りに異議を唱えなかったのは、傍聴人の証言によると二名しかいなかったと聞いているが、出席委員何名中、何名が異議を唱えなかったのか正確な人数構成を明らかにされたい。また、もし柴山文部科学大臣の答弁が誤りであるのならば訂正しなくてはならないと考えるが、政府の見解を伺う。

  右質問する。