質問主意書

第198回国会(常会)

質問主意書


質問第一七号

ODAによるインドネシア・インドラマユ石炭火力発電所事業に係る人権侵害事案等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十一年二月二十一日

井上 哲士   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   ODAによるインドネシア・インドラマユ石炭火力発電所事業に係る人権侵害事案等に関する質問主意書

 政府がODAによって支援を進めるインドネシアのインドラマユ石炭火力発電所事業(以下「当該発電所事業」という。)に関しては、土地の収用をめぐって地元の農民など反対派住民や支援者による強い反対運動が起きるなか、二〇一七年十二月に当該発電所事業に関する環境許認可の取消しを求める反対派住民の訴えがバンドン行政裁判所で認容されると、現地警察は同月、反対派住民三名を本人の身に覚えのない「国旗侮辱罪」を理由に一時拘束し、その後保釈したものの、反対運動が続く中で、二〇一八年九月には当該住民三名を再び同罪で逮捕・勾留するという事態に至った。日本のODA事業の推進のために、反対派住民が不当に弾圧され人権が侵害されることがあってはならない。
 以下、具体的に質問する。

一 政府は、インドネシア政府から当該発電所事業に係る本体工事に対する円借款の要請は受けたのか。また、インドネシア政府からの本体工事に対する円借款の要請に対して、政府としてどう対応する方針であるか。

二 現在までに実施されたエンジニアリング・サービス借款(以下「E/S借款」という。)の貸付実行実績について、実施の日時、金額、貸付を受領した相手国実施機関、同機関からの支払先の企業名および貸付の合計金額について、すべて明らかにされたい。

三 独立行政法人国際協力機構(JICA)理事長は、二〇一八年三月二十二日の参議院政府開発援助等に関する特別委員会において、二〇一七年十二月のバンドン行政裁判所の判決について「被告のPLNや地元政府は控訴しておりまして、どれが最終的なインドネシアの意思であるかということを見定める必要がある」と答弁した。その後、二〇一八年四月にジャカルタ高等行政裁判所、同年九月にインドネシア最高裁判所がいずれも反対派住民の訴えを棄却したが、今後、反対派住民から再審請求がおこなわれた場合に、政府はその行方を「見定める」つもりはあるか。

四 当該発電所事業の反対派住民に対する「国旗侮辱罪」を理由にした不当逮捕事案について、外務省はインドネシア政府に対してどのような対応をおこなったのか、具体的に明らかにされたい。

五 国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」は、二〇一八年十月三日付で「発電所反対で投獄なのか」と題する声明を出し、拘束された反対派住民について「市民として当然の権利を行使しただけで勾留されている「良心の囚人」であり、即時かつ無条件に釈放されるべきだ」と訴え、インドネシア現地警察や大統領事務所への抗議と要請を広く呼び掛けた。当該発電所事業に関して、インドネシア当局による反対派住民の弾圧、人権侵害が国際的に非難される事態となったことについて、政府の見解を示されたい。
 また、開発協力大綱は、「実施上の原則」において「基本的人権の保障」を挙げているが、インドネシア当局による反対派住民の弾圧、人権侵害は、この原則に反しないのか、政府の見解とその理由を明らかにされたい。

六 前記三の特別委員会において、私が、インドネシアの公共事業の土地収用法に基づいておこなわれた現地の住民協議に、当初、地権者や宗教リーダー、村長など、選ばれた者しか招待されず、農民や漁民など、同法で規定される影響を受けるコミュニティーの参加が確保されなかった問題を挙げて、社会的合意の確保やステークホルダーの参加を求めたJICAの環境社会配慮ガイドラインに適合しないのではないかと質したところ、JICA理事は「環境社会配慮ガイドラインに従いました検討は、今後、発電所の建設に対する、いわゆる発電所そのものに対する円借款支援の要請がなされた場合には適切に行っていきます」と答弁し、これまでE/S借款の貸付を継続的におこなってきたことについては、事実上、本体工事に対するものではないから問題なしとする立場に終始した。
 E/S借款は、同特別委員会におけるJICA理事の「プロジェクトの実施に必要なコンサルティングサービスを建設資金向けの借款に先行して融資するもの」との答弁にも明らかなように、本体工事と連続する密接不可分な事業への融資である。環境社会配慮ガイドラインが定める社会的合意の確保やステークホルダーの参加を、E/S借款においてのみ求めないことは不合理ではないか。
 また、開発協力大綱や環境社会配慮ガイドラインに、それぞれ「基本的人権の保障」や社会的合意の確保、ステークホルダーの参加といった内容が盛り込まれた趣旨をふまえれば、とりわけ当該発電所事業に関し、反対派住民の弾圧、人権侵害が発生したことは、その事業がE/S借款によるものか本体工事に対する円借款によるものかを問わず、いかなる段階においても、あってはならないことだと考えるが、政府の見解を示されたい。

七 インドネシア当局による反対派住民の弾圧、人権侵害がおこなわれる中で、日本側がE/S借款の貸付を継続的に実施したことは、人権侵害を軽視するものと受け取られても仕方のない対応であり、大変遺憾である。環境社会配慮ガイドラインにおいて、プロジェクト本体への円借款実施の決定以前にも住民の人権や社会的合意への配慮が確保されるよう、環境社会配慮ガイドラインの見直しを検討すべきではないか。
 河野外相は前記三の特別委員会において、「環境社会配慮ガイドラインは、これは制定をするときにNGOを始め市民社会に深く関与していただいて策定をいたしました」と述べているが、住民の人権や社会的合意への配慮の確保を現状より徹底する見地から、環境社会配慮ガイドラインの見直しの必要性も含め環境、人権等の活動に係るNGOから意見を聴取する考えはないか。

  右質問する。