質問主意書

第197回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二〇号

六ヶ所再処理工場の新規制基準適合性審査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年十一月九日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   六ヶ所再処理工場の新規制基準適合性審査に関する質問主意書

 一般財団法人高度情報科学技術研究機構が運営する原子力百科事典「ATOMICA」によると、一九五七年九月、旧ソ連の南ウラルの軍事用原子力施設(再処理工場と推定される。)で、冷却システムの故障により高レベル放射性廃棄物を貯蔵していたタンクが化学爆発を起こし、二百万キュリーの放射性核種が幅八~九キロメートル、長さ百五キロメートルにわたって拡散する事故(以下「ウラルの核惨事」という。)が発生した。
 また、一九七五年七月、旧西ドイツ政府内務省は、ケルンの原子炉安全研究所(IRS)に再処理工場と原子力発電所に対する大事故影響評価を依頼し、一九七六年八月、委託調査報告書(IRS-290報告)が提出された。一九七七年一月十五日付け毎日新聞等によると、同報告書では、再処理工場で冷却施設が停止すると爆発によって工場周辺百キロメートルの範囲で全住民が致死量の十~二百倍の放射能を浴び即死、最終的死亡者数は旧西ドイツ全人口の半分の三千万人に上る可能性があるとシミュレーションしている(以下「IRS-290報告のシミュレーション結果」という。)とのことである。
 前記のウラルの核惨事及びIRS-290報告のシミュレーション結果を踏まえると、先日、主要審査が終了した六ヶ所再処理工場の新規制基準適合性に係る審査の内容に大きな疑義を感じるため、以下質問する。

一 使用済み核燃料の再処理工場は世界的にもその数は少なく、また、核物質プルトニウム抽出工場であるため秘密に覆われ、情報は少ない。再処理工場の新規制基準の策定に当たり、重大事故防止のため、政府は世界の数少ない例を調べ、参考にしたものと思われるが、その際、ウラルの核惨事やIRS-290報告のシミュレーション結果は参考にしたのか。参考にした場合は、具体的にどの点を参考にしたのかを明らかにされたい。また、参考にしなかった場合は、その理由を示されたい。

二 政府は、六ヶ所再処理工場で、ウラルの核惨事やIRS-290報告のシミュレーション結果のような重大事故は絶対に起こらないと考えているのか。起こらないと考えている場合は、その理由を示されたい。

三 ウラルの核惨事については、「ATOMICA」の記述を見る限り、高レベル放射性廃液の貯蔵貯槽の冷却系等の故障により、高レベル放射性廃液が沸騰、蒸発乾固して発生した乾燥硝酸塩の爆発が事故原因だったと考えられる。
 また、IRS-290報告のシミュレーション結果も、当時の報道を踏まえると、ウラルの核惨事の事故原因と同じく、高レベル放射性廃液の蒸発乾固生成物である乾燥硝酸塩等の爆発を想定して出されたものと思われる。
 これに対し、新規制基準では、高レベル放射性廃液の事故リスクを「蒸発乾固」までの放射能の放出量で評価している(第二百五回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合資料三の「2.蒸発乾固への具体的対処と有効性評価」等)。新規制基準の下での高レベル放射性廃液の事故評価に当たり、「蒸発乾固」までの放射能の放出量を基に判断することとし、ウラルの核惨事の事故原因となった蒸発乾固生成物である乾燥硝酸塩等の爆発を考慮要素に含めないのはなぜか、政府の見解を示されたい。

四 本年六月一日、市民団体が、六ヶ所再処理工場の事業主体である日本原燃株式会社へ質問要望書を提出し、その中で、「高レベル廃液が沸騰し蒸発乾固した場合、その乾固生成物は硝酸塩になっているものと思われますが、貴社再処理工場における全ての高レベル廃液が蒸発乾固すると約何トンの固体が発生しますか。これは着火源があると硝酸塩爆発を起こすのではないでしょうか。TNT火薬何トンほどの威力になるのでしょうか。お知らせください。硝酸塩が生成しないのならその理由をお知らせください。」と質問をした。これに対し、同年七月十三日、日本原燃株式会社は「再処理施設では、蒸発乾固に至らないよう多重化された注水配管を整備し、対策の信頼性を確保することとしております。また、これらの設備が全て同時に使用できないような不測の事態に対しても、高レベル廃液を貯蔵する貯槽が設置されているセル、建屋を水没させる対策も整備することとしております。」との回答を行ったが、市民団体の提示した質問事項に答えるものとはなっていない。
 これらは、重大事故に関連する本質的な問いである。政府は、高レベル放射性廃液が蒸発乾固した場合の乾固生成物の組成、六ヶ所再処理工場の高レベル放射性廃液が全て蒸発乾固した場合の乾固生成物のトン数、乾固生成物が硝酸塩だった場合の爆発の可能性及びその威力並びに高レベル放射性廃液が蒸発乾固しても硝酸塩が生成されないのであればその理由について、明確に答弁されたい。

五 高レベル放射性廃液には、リン酸トリブチルとその分解生成物やノルマルドデカンとその分解生成物等の有機物の混入が考えられるが、これらの各有機物の混入率は何%ほどか、示されたい。高レベル放射性廃液の蒸発乾固生成物が酸化性の硝酸塩と還元性の有機物が混合されている固化体だとすると、着火源があると容易に爆発するのではないか、政府の見解を示されたい。

六 六ヶ所再処理工場において、高レベル放射性廃液の冷却が止まり、蒸発乾固生成物の加熱溶融揮発や爆発等による重大事故が発生した場合、新規制基準で審査されなかった想定外要因による重大事故が起きたことになる。この場合の責任の所在はどこにあることになるのか、政府の見解を具体的に示されたい。

七 核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合では、高レベル放射性廃液の冷却機能を喪失し、高レベル放射性廃液が沸騰、蒸発乾固する過程までの評価をもって、六ヶ所再処理工場の新規制基準適合性に係る審査を実質的に終了している。しかし、ウラルの核惨事やIRS-290報告のシミュレーション結果を踏まえると、今一度高レベル放射性廃液の蒸発乾固生成物対策についての新規制基準適合性に係る審査をすることが、国民を重大事故から守るため必須と思われるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。